第4話

文字数 382文字

 皮肉なことに、この像を建立した頃から、皇帝の運勢は大きく傾いていった。北の大国に進軍し軍の大半を失った後、彼の帝国は、堰を切ったように崩れ落ちて行った。
 間もなく彼は退位を強要され、流された流刑地で死んだ。

 帝国は皇帝の即位前の大きさに縮小を余儀なくされ、そこへ、以前、国を追われた国王が帰って来た。
 古くからこの国を治めてきた王朝は、王位簒奪者の痕跡を嫌った。宮殿に残された皇帝の紋章は削られ、イニシャルは塗りつぶされた。
 さらに新国王は、広場にある銅像に目を止めた。
 青銅は貴重だった。
 王朝から王位を奪い、勝手に即位した男の銅像など論外であるが、破廉恥な全裸の像も目障りだった。祖国を守った英雄の像ではあるが、こんなものは騎士ではない、と、民の評判は悪かった。

 王はためらわなかった。
 敗戦国に青銅は貴重だ。二つの像は、鋳潰され、再利用されることになった。

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登場人物紹介

皇帝

軍のクーデターを起こし、成り上がった

画像:wiki

騎士

後に皇帝となる男に絶対の忠誠を誓い、戦死した

画像:wiki

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