05 ハニトーとレシート
文字数 4,327文字
はぁ……おなかすいちゃった。
さっき家で軽くパンを食べただけで今夜はちゃんと夜食取ってないから……吸血鬼はね? 夕食、夜食、朝食がサイクルなの。メインは夜食で起きてから食べる夕食は軽め。吸血鬼っていうぐらいに目覚めは低体温だし低血圧なの。朝食は一日の最後の食事だけど朝が近くなるほどに眠たくなるし食欲も落ちちゃう。夜を支配するーっていう私たちだけど身体のリズムは人間ほど一定じゃないの。一番元気なのは夜食タイムの0時ぐらい。今の時間帯なの。
何食べようかな? 今夜は夕食抜いてるからちょっとカロリー補給しちゃってもいいかなー あ! 急にハニトー食べたくなってきた! またパン食べるのかって? ハニトーはパンじゃないわ——いや、パンだけどパン以外の部分がメインだからっ。ハニトーはハニトーっていうジャンルなの! 私が大好きなのはよく行くカラオケ屋さんのハニトー♪ ああもうダメ。今夜はハニトー以外考えられないっ!
「——あらユリーさん、今夜はお一人さま?」
「そう。ハニトー食べに来たの♪」
ここは私たちお気に入りの『ケセラン』っていうカラオケ屋さん。私たちっていうのはね? いつもは友達と遊びに来る場所だから。最近のカラオケ屋さんってすごいよね、すっごく美味しいスイーツや料理がいっぱいだしドリンクの種類もすごい。漫画喫茶も負けてないけどカラオケ屋さんは別ジャンル、別腹って感じ。ハニトーが食べられるのはここだけだし♪
「お仕事中なのね? お洋服汚しちゃダメよ? エプロン使う?」
「今日はお酒飲んだりしないから大丈夫。もう、キャシーさんも私を子供みたいにそうやって……」
キャシーさんはここのバイトのお姉さん。すらりとした美人さんだよ? お日様が高い時間は大学に通ってるんだって。去年のクリスマスはキャシーさんも私たちと一緒に朝までパーティーしたの。このお姉さんってば、すっごくお酒強いんだから。
「うふふっ。そうね。すぐに焼き上がるからお部屋で待っててね?」
ここに居るだけでどこからか美味しそうな香りがする……期間限定の焼きカレーも美味しそう。いや、でも私はハニトー食べるって決めてるから!
「おまたせユリーさん。トリプルバナナプディングと焼きカレー、フライドポテトのガーリックパウダーです♪」
「わあ! ありがとうキャシーさんっ! ハニトーの角を焦げ目にしてくれたの?」
「はい。ユリーさんはこれが大好きだものね?」
そうなの! ハニトーはね? 最初はね? 上の焦げたカリカリなところを楽しむの。そしたらアイスごと真ん中にざくっとフォークを刺して……うーん♪ もっちもちのトーストとバナナとアイス、たまらないっ♪ パンにもちょっと焼きカレーをトッピングしたりして——そうだ、ポテトも一緒にしたら素敵なカレーパン風味になるかもっ。
「——ごちそうさまでしたキャシーさんっ。今日もすっごく美味しかった。もうおなかパンパン」
「あらあらユリーさん、お腹出して見せちゃダメよ? これからまだお仕事なんでしょ?」
「大丈夫。吸血鬼は燃費悪いからすぐ消化しちゃうし。あ、ポイント溜まってるから使うね?」
「はい。それじゃレシートのお返しね。また来てね」
あはは……ちょーっと食べすきちゃったかも経済的に。やっぱりカラオケは皆で来ないとコスパ悪いよね。一人だとグルメ天国になっちゃう。それでもポイントがあったから少しは——うん。レシートはお店の名前が書いてある。そうね、ハリスさんに電話してみよう。
「……あ、もしもしハリスさん? そう、今お仕事中なの。それでね? トマスさんのお財布でも何でもいいから、お酒を飲んだり買ったりした場所のレシートとかポイントカードが無いか調べてほしいの」
レシートって捨てちゃう人多いから期待値は低いけど、もしトマスさんが行きつけの居酒屋さんとかが分かればそっちに行ってみようと思うのよね。
「あ、あった!? BARのレシート? うん、そのお店教えて? うん。分かった、ありがとうハリスさん」
1区にあるBAR『サンフランシスコ』ね……地図アプリに写真も載ってる。トマスさんやジェイクさんが一人で行くようなお店っぽくないかも。それとも常連さんだったとか? とにかく行ってみよう。
***
1区のこのあたりは夜の空気にお酒の香りが混ざってるの。駅が近いのもあって終電ギリギリまで夜遊びする人とか、終電を逃してもうどうにでもなれーって感じで遊んでる人たちが多いの。あ、あそこで湯気を上げているのは蒸し蒸しの中華まん! 一緒に付いてるタレが絶品なのよね——じゃなくて。あ! すぐに見つかった! あそこに『サンフランシスコ』ってネオンが出てる。っと! 大丈夫。今度は転ばないわよ? 魔法着は身体を守ってくれる大切なものだけどヒールはどうかと思わない? 足元から魔法を発動させたりしないんだから……
「——らっしゃーい。おや可愛いお嬢ちゃん?」
「ヒューヒュー! こっち来いよ嬢ちゃん!」「いや、俺と飲もうぜ!」
あはは。酔っぱらいだらけね。ヒューヒューって何? いつの時代の何語なの?
「ユリーよ。求血のお仕事中なの。この写メのレシートってここのよね? この持ち主はトマスさんって言うんだけど話ができる人、いる?」
「ああトマスさんねー よく知ってるよ、そりゃあもう」
バーテンっぽくないけどカウンターに居るから店員かな? 細身だし顔も細い。浅黒い肌にあごひげがちょびっと。髪は染色でバリバリに傷んでる。おじさんっぽく見えるけど年齡不詳系ね。ピアスもよく見るとメッキが剥がれて傷んでるわ。夜のお店にぴったりのっていうより、このお店にぴったりな感じね。
私はあまりBARやたまり場には足を運ばないけど嫌いじゃない。ダーツデッキにビリヤードとか、甘いカクテルを飲みながら友達と遊ぶのは楽しい。だけどここはちょっと違うよね、壁にはポロリしちゃってる女性のポスターがいっぱい貼ってあるしゲームなんか無い。客層も見ての通りやんちゃ系な男性ばっかり。それにここ下水の匂いがするわよ? 地下だから?
「うおい、こっち来て遊ぼうぜ嬢ちゃん! 夜は楽しまないとお母さんに怒られうぜ?」
「お前、口回ってねえじゃねえか。俺っちロリ系大歓迎だぜ? 一緒に飲もうぜ嬢ちゃん?」
「えーと、バーテンさん? あなたのお名前は?」
「アツシだ。スチールのアツシって呼んでくれ」
え? スチールが熱い? それとも鉄が熱いのかな? よく分からないけどすっごい笑顔でそう言ってる。ハカタのソルトみたいなノリかしら。
「ほら見てくれよ、車のホイール削らせたらこのあたりで天下一品なんだぜ?」
言わなくても分かるわ。テーブルもホイールに木を乗せてたりでちょっといい感じだけど今はその話じゃないわよね。
「トマスさん、このレシートが発行された時間のあとに飲酒運転で事故にあったの。それに金額がおかしくない? 三十万円分も一人で飲むだなんてありえないでしょ?」
ハリスさんが送ってくれたレシートの写メにはビールだけで三十万円分の内訳。事故を起こした時間はちょうどレシートのタイムスタンプから10分後。このお店で飲んでいたのは間違いないわよね。
「ははっ、そりゃあ分からないだろ? 一人でそんだけ飲むかもしれないし」
「何本飲んだの? ビン? ジョッキ? レシートにはビール(イベント)って書いてあるだけよ?」
「ここのビールは缶だけだぜー 生ビールなんて気の利いたもんはねーからよー」
酔っぱらいが言うようにカウンターにはジョッキなんて無い。ウイスキーとか焼酎だらけね。メニューにもビールとしか書いてない。一缶850円ってことは……350缶!? ちいさい缶でもそんなに飲めないよ?
「ねえ、これって単純に計算しても350缶飲んだことになるけど嘘だよね?」
「おいおい、アツシって呼んでくれよ嬢ちゃん。それはイベント用だからな? 飲んでも飲まなくてもその料金なんだよ」
「え? じゃあトマスさんはイベントで飲んだってこと?」
「んだよ? イベントだから」
ニヤニヤしちゃって気持ち悪いったら。だっれがあんたみたいな人の名前を呼ぶもんですか——イベントね。大酒コンテストみたいなもの?
「まあ、何のイベントかは教えられねえ。主催者が権利持ってるからな」
「ジェイクさんはどうしてそのイベントに参加したの?」
「ジェイク? 誰だそいつ? トマスだろ? それは、言えねえな」
ふんふん。イベントの主催者が居るんだ……権利って何? ナイショのイベントってこと? あーもう次から次へと面倒! レベル1の因果はお使いめいてるから疲れるのよね。
「どうしたら教えてくれるの?」
「そうだな、店ひけたらよ? 俺と一緒にオープンカーで浜に行かね? 朝焼け綺麗だぜー」
あははっ、オープンカーって! おーぷんかー! どこからその自信が湧いて来るの? まずはその黄色い歯と口臭をなんとかするべきだと思うのだけど?
「あははっ。あのね? 私、求血のお仕事中なのよ? もしかして知らない?」
「吸血鬼なんだろ? そんぐらい俺だって知ってるぜ。みんなすっげえ上玉だからな?」
「だったら朝日なんか見に行くわけ無いでしょ? バカじゃないの?」
「あっひゃっひゃ! そーだったな! じゃあ飲んでけよ? いい酒もあるんだぜ?」
「そうね。また今度。約束するわ? 吸血鬼は約束を守るから」
「ういー、嬢ちゃんこっち来て飲もうぜー? お兄さん寂しいからよー」
ガラの悪い客しかいないのかしらこのお店ってば。っと、みんな飲んでるビール缶は一種類だけみたいね。ラベルが同じ……
「分かったわ。一つもらうね♪」「おうおう、飲めにょめ~、ういー」
すっかりぬるくなってるじゃない……度数は普通の缶ビールとそんなに変わらない。飲み口は魔法炎でシュッと消毒してからっと。
「うっわ! すごく美味しくない!」
何コレ? ちょーっとだけビールの味するけどそれ以外は洗剤みたいな味! そう、シャボン玉の石鹸水を飲んじゃったようなあの味!
「どこのビールなの? これ?」
「ういー、嬢ちゃん、酒は初めてかー? 田舎直送のらよ?」
密造酒とかじゃないわよね? ラベルにはバーコードも会社名もあるけど……香りフルーティー? どこが? どこがなの?
「はいお兄さん。一緒に飲んだわよね? それじゃあバイバイ♪」
このビールは手かがりになるかもしれないから持っていくわね。中身は外で処分しよっと——こんなひどいお酒飲んだの初めて。120年越しのワインの方がずっと美味しいわよ? それにやっぱり何かなこの下水みたいな匂い。さっさと退散だねっ!
さっき家で軽くパンを食べただけで今夜はちゃんと夜食取ってないから……吸血鬼はね? 夕食、夜食、朝食がサイクルなの。メインは夜食で起きてから食べる夕食は軽め。吸血鬼っていうぐらいに目覚めは低体温だし低血圧なの。朝食は一日の最後の食事だけど朝が近くなるほどに眠たくなるし食欲も落ちちゃう。夜を支配するーっていう私たちだけど身体のリズムは人間ほど一定じゃないの。一番元気なのは夜食タイムの0時ぐらい。今の時間帯なの。
何食べようかな? 今夜は夕食抜いてるからちょっとカロリー補給しちゃってもいいかなー あ! 急にハニトー食べたくなってきた! またパン食べるのかって? ハニトーはパンじゃないわ——いや、パンだけどパン以外の部分がメインだからっ。ハニトーはハニトーっていうジャンルなの! 私が大好きなのはよく行くカラオケ屋さんのハニトー♪ ああもうダメ。今夜はハニトー以外考えられないっ!
「——あらユリーさん、今夜はお一人さま?」
「そう。ハニトー食べに来たの♪」
ここは私たちお気に入りの『ケセラン』っていうカラオケ屋さん。私たちっていうのはね? いつもは友達と遊びに来る場所だから。最近のカラオケ屋さんってすごいよね、すっごく美味しいスイーツや料理がいっぱいだしドリンクの種類もすごい。漫画喫茶も負けてないけどカラオケ屋さんは別ジャンル、別腹って感じ。ハニトーが食べられるのはここだけだし♪
「お仕事中なのね? お洋服汚しちゃダメよ? エプロン使う?」
「今日はお酒飲んだりしないから大丈夫。もう、キャシーさんも私を子供みたいにそうやって……」
キャシーさんはここのバイトのお姉さん。すらりとした美人さんだよ? お日様が高い時間は大学に通ってるんだって。去年のクリスマスはキャシーさんも私たちと一緒に朝までパーティーしたの。このお姉さんってば、すっごくお酒強いんだから。
「うふふっ。そうね。すぐに焼き上がるからお部屋で待っててね?」
ここに居るだけでどこからか美味しそうな香りがする……期間限定の焼きカレーも美味しそう。いや、でも私はハニトー食べるって決めてるから!
「おまたせユリーさん。トリプルバナナプディングと焼きカレー、フライドポテトのガーリックパウダーです♪」
「わあ! ありがとうキャシーさんっ! ハニトーの角を焦げ目にしてくれたの?」
「はい。ユリーさんはこれが大好きだものね?」
そうなの! ハニトーはね? 最初はね? 上の焦げたカリカリなところを楽しむの。そしたらアイスごと真ん中にざくっとフォークを刺して……うーん♪ もっちもちのトーストとバナナとアイス、たまらないっ♪ パンにもちょっと焼きカレーをトッピングしたりして——そうだ、ポテトも一緒にしたら素敵なカレーパン風味になるかもっ。
「——ごちそうさまでしたキャシーさんっ。今日もすっごく美味しかった。もうおなかパンパン」
「あらあらユリーさん、お腹出して見せちゃダメよ? これからまだお仕事なんでしょ?」
「大丈夫。吸血鬼は燃費悪いからすぐ消化しちゃうし。あ、ポイント溜まってるから使うね?」
「はい。それじゃレシートのお返しね。また来てね」
あはは……ちょーっと食べすきちゃったかも経済的に。やっぱりカラオケは皆で来ないとコスパ悪いよね。一人だとグルメ天国になっちゃう。それでもポイントがあったから少しは——うん。レシートはお店の名前が書いてある。そうね、ハリスさんに電話してみよう。
「……あ、もしもしハリスさん? そう、今お仕事中なの。それでね? トマスさんのお財布でも何でもいいから、お酒を飲んだり買ったりした場所のレシートとかポイントカードが無いか調べてほしいの」
レシートって捨てちゃう人多いから期待値は低いけど、もしトマスさんが行きつけの居酒屋さんとかが分かればそっちに行ってみようと思うのよね。
「あ、あった!? BARのレシート? うん、そのお店教えて? うん。分かった、ありがとうハリスさん」
1区にあるBAR『サンフランシスコ』ね……地図アプリに写真も載ってる。トマスさんやジェイクさんが一人で行くようなお店っぽくないかも。それとも常連さんだったとか? とにかく行ってみよう。
***
1区のこのあたりは夜の空気にお酒の香りが混ざってるの。駅が近いのもあって終電ギリギリまで夜遊びする人とか、終電を逃してもうどうにでもなれーって感じで遊んでる人たちが多いの。あ、あそこで湯気を上げているのは蒸し蒸しの中華まん! 一緒に付いてるタレが絶品なのよね——じゃなくて。あ! すぐに見つかった! あそこに『サンフランシスコ』ってネオンが出てる。っと! 大丈夫。今度は転ばないわよ? 魔法着は身体を守ってくれる大切なものだけどヒールはどうかと思わない? 足元から魔法を発動させたりしないんだから……
「——らっしゃーい。おや可愛いお嬢ちゃん?」
「ヒューヒュー! こっち来いよ嬢ちゃん!」「いや、俺と飲もうぜ!」
あはは。酔っぱらいだらけね。ヒューヒューって何? いつの時代の何語なの?
「ユリーよ。求血のお仕事中なの。この写メのレシートってここのよね? この持ち主はトマスさんって言うんだけど話ができる人、いる?」
「ああトマスさんねー よく知ってるよ、そりゃあもう」
バーテンっぽくないけどカウンターに居るから店員かな? 細身だし顔も細い。浅黒い肌にあごひげがちょびっと。髪は染色でバリバリに傷んでる。おじさんっぽく見えるけど年齡不詳系ね。ピアスもよく見るとメッキが剥がれて傷んでるわ。夜のお店にぴったりのっていうより、このお店にぴったりな感じね。
私はあまりBARやたまり場には足を運ばないけど嫌いじゃない。ダーツデッキにビリヤードとか、甘いカクテルを飲みながら友達と遊ぶのは楽しい。だけどここはちょっと違うよね、壁にはポロリしちゃってる女性のポスターがいっぱい貼ってあるしゲームなんか無い。客層も見ての通りやんちゃ系な男性ばっかり。それにここ下水の匂いがするわよ? 地下だから?
「うおい、こっち来て遊ぼうぜ嬢ちゃん! 夜は楽しまないとお母さんに怒られうぜ?」
「お前、口回ってねえじゃねえか。俺っちロリ系大歓迎だぜ? 一緒に飲もうぜ嬢ちゃん?」
「えーと、バーテンさん? あなたのお名前は?」
「アツシだ。スチールのアツシって呼んでくれ」
え? スチールが熱い? それとも鉄が熱いのかな? よく分からないけどすっごい笑顔でそう言ってる。ハカタのソルトみたいなノリかしら。
「ほら見てくれよ、車のホイール削らせたらこのあたりで天下一品なんだぜ?」
言わなくても分かるわ。テーブルもホイールに木を乗せてたりでちょっといい感じだけど今はその話じゃないわよね。
「トマスさん、このレシートが発行された時間のあとに飲酒運転で事故にあったの。それに金額がおかしくない? 三十万円分も一人で飲むだなんてありえないでしょ?」
ハリスさんが送ってくれたレシートの写メにはビールだけで三十万円分の内訳。事故を起こした時間はちょうどレシートのタイムスタンプから10分後。このお店で飲んでいたのは間違いないわよね。
「ははっ、そりゃあ分からないだろ? 一人でそんだけ飲むかもしれないし」
「何本飲んだの? ビン? ジョッキ? レシートにはビール(イベント)って書いてあるだけよ?」
「ここのビールは缶だけだぜー 生ビールなんて気の利いたもんはねーからよー」
酔っぱらいが言うようにカウンターにはジョッキなんて無い。ウイスキーとか焼酎だらけね。メニューにもビールとしか書いてない。一缶850円ってことは……350缶!? ちいさい缶でもそんなに飲めないよ?
「ねえ、これって単純に計算しても350缶飲んだことになるけど嘘だよね?」
「おいおい、アツシって呼んでくれよ嬢ちゃん。それはイベント用だからな? 飲んでも飲まなくてもその料金なんだよ」
「え? じゃあトマスさんはイベントで飲んだってこと?」
「んだよ? イベントだから」
ニヤニヤしちゃって気持ち悪いったら。だっれがあんたみたいな人の名前を呼ぶもんですか——イベントね。大酒コンテストみたいなもの?
「まあ、何のイベントかは教えられねえ。主催者が権利持ってるからな」
「ジェイクさんはどうしてそのイベントに参加したの?」
「ジェイク? 誰だそいつ? トマスだろ? それは、言えねえな」
ふんふん。イベントの主催者が居るんだ……権利って何? ナイショのイベントってこと? あーもう次から次へと面倒! レベル1の因果はお使いめいてるから疲れるのよね。
「どうしたら教えてくれるの?」
「そうだな、店ひけたらよ? 俺と一緒にオープンカーで浜に行かね? 朝焼け綺麗だぜー」
あははっ、オープンカーって! おーぷんかー! どこからその自信が湧いて来るの? まずはその黄色い歯と口臭をなんとかするべきだと思うのだけど?
「あははっ。あのね? 私、求血のお仕事中なのよ? もしかして知らない?」
「吸血鬼なんだろ? そんぐらい俺だって知ってるぜ。みんなすっげえ上玉だからな?」
「だったら朝日なんか見に行くわけ無いでしょ? バカじゃないの?」
「あっひゃっひゃ! そーだったな! じゃあ飲んでけよ? いい酒もあるんだぜ?」
「そうね。また今度。約束するわ? 吸血鬼は約束を守るから」
「ういー、嬢ちゃんこっち来て飲もうぜー? お兄さん寂しいからよー」
ガラの悪い客しかいないのかしらこのお店ってば。っと、みんな飲んでるビール缶は一種類だけみたいね。ラベルが同じ……
「分かったわ。一つもらうね♪」「おうおう、飲めにょめ~、ういー」
すっかりぬるくなってるじゃない……度数は普通の缶ビールとそんなに変わらない。飲み口は魔法炎でシュッと消毒してからっと。
「うっわ! すごく美味しくない!」
何コレ? ちょーっとだけビールの味するけどそれ以外は洗剤みたいな味! そう、シャボン玉の石鹸水を飲んじゃったようなあの味!
「どこのビールなの? これ?」
「ういー、嬢ちゃん、酒は初めてかー? 田舎直送のらよ?」
密造酒とかじゃないわよね? ラベルにはバーコードも会社名もあるけど……香りフルーティー? どこが? どこがなの?
「はいお兄さん。一緒に飲んだわよね? それじゃあバイバイ♪」
このビールは手かがりになるかもしれないから持っていくわね。中身は外で処分しよっと——こんなひどいお酒飲んだの初めて。120年越しのワインの方がずっと美味しいわよ? それにやっぱり何かなこの下水みたいな匂い。さっさと退散だねっ!