05 お仕事開始
文字数 2,027文字
ちょうど夜0時。私たち吸血鬼が言うところのお昼ごはんの時間だけど、今夜はずっと何かを食べてるからお腹はすいてないかも。ユキットちゃんともお話しながら肉まんとカップ麺を食べちゃったし。うん。準備はバッチリ。頑張ってお仕事開始、だね。
求血の救済対象は私のアパートから少し離れたところにある4区の住宅街に住んでいる十歳の女の子。名前はアイラちゃん。天使になっているお姉ちゃんは十七歳のノエルちゃん。さすがにこんな時間なんだけど、さっき電話でお話したら今夜すぐに来てほしいってお母さんが言ってた——っと、ここのアパートね? 思ったより遠くなかったみたい。
ピンポーン
「お待ちしていました吸血鬼さん、さあ、どうぞ。アイラも待っています」
あれ? お母さん……だよね? どこかで見たことある気がする。
「はじめまして、ユリーよ。さっきお話したとおり、求血の救済のお仕事を受けて来たの」
お部屋とっても暖かい……あはは、今夜はずぶ濡れになったり川の近くでユキットちゃんとアウトドアしてたから。それにここって家族の暖かさがある。生活感とはちょっと違う、家族の温度がある。ここで暮らしている人間の繋がりみたいな絆みたいな、そういう空気と香りがする……
「えっと、お母さん? 私、どこかで会ったことがあるかな?」
「そうかもしれません吸血鬼さん。私は1区の百貨店で働いていますから……」
「あ、あそこの百貨店の二階の、服飾の?」
「そうです。深夜はそこで働いています」
「これ、そこで買ったばっかりなの。可愛いマフラーが見つかって良かったの♪」
「あらあら、そのマフラー、少し前に私が展示したものです。喜んで頂いて嬉しい」
そうだったんだ。あそこの百貨店ってちょくちょく行くから、それで見たことがあったんだね。なんだろ、こういう繋がりってちょっと不思議……
「私はアイラの母のアネットです。こちらは父のゼフ。アイラはさっきまで起きてたのですがまた眠ってしまったようで……お部屋にご案内します」
——アイラちゃんのお部屋は私の部屋と少し似てるね……赤色が多いかも。あは♪ このクマさんのぬいぐるみは百貨店のマスコットだよね? 私も大切にしてる。前にメイカちゃんからプレゼントしてもらったんだ。
「妹のアイラです吸血鬼さん。ずっと車椅子なんです」
「あ……お姉さんのノエルちゃん、だよね?」
「はい。はじめまして。姉のノエルです」
胸がチクチクするよ……でも、お仕事頑張るって決めたんだんだから、そう、いつも通りにまずは因果を調べないと……
「アイラちゃんは治らない病気なんだよね?」
「はい。娘は生まれたときから難病を抱えています。隣町の大きな病院に通っていますが、おそらく次の年を迎えることは難しいと」
お父さんも心配そうだよね……治らない病気? それが生まれたときからっていうことは、病気に因果があるってことなのかな? 今の段階で救済魔法は発動しない。もし治療する方法があればそれが因果だったりするのかな?
「アイラちゃんはどんな病気なの?」
「血液の病気なんです。身体の中で血が作られなくなる病気だと、お医者様に言われています」
「隣町の病院には吸血鬼のお医者さんも居るはずだけど、診てもらったりした?」
「はい。有名な吸血鬼の先生に詳しく診てもらいましたが……症状の維持が最善で治療法は未だ見つかっていないと」
そうなんだねアイラちゃん……とっても可愛い顔で眠ってる。ノエルちゃんもどこか辛そう……うん。明日もうちょっと早い時間に来よう。私も未だ心の整理が追い付いてないし。今アイラちゃんとお話したら……きっと私泣いちゃいそうだから。
「今夜は遅いから、また明日来るね? 病院の先生のお名前と、お薬が分かるものをもらってもいい?」
「これ、用意しておきました。あの、吸血鬼さん」
「ノエルちゃん? な、何かな?」
「アイラはずっと救済リストに載っていたんです。でも、吸血鬼の人はみんなキャンセルしたりで……ユリーさんはアイラを救済してくれるんですよね? たぶんこれが最後のチャンスなんです、だからどうかお願いします」
「大丈夫だよノエルちゃん。私はこのお仕事を最後までする。アイラちゃんに救済魔法が発動するまで絶対に投げ出したりしないからね」
ノエルちゃんの一言一言は胸に刺さるように痛い。でもまだお仕事は始めたばかり。こんな痛みぐらいは乗り越えていかないとダメだよね? 私がしっかり受け止めていかないとノエルちゃんを不安にさせちゃう。あなたは天使なんだよノエルちゃん……救済の魔法は天使にとって死の魔法なんだから……あ、ダメかも。すごく悲しいよ、こんなの……
「どうしたのユリーさん? アイラのこと、きっと助けてくれるって……」
「ごめんねノエルちゃん。ちょっと私、今はお話できなくって」
分かってるんだけど、気持ちはお仕事しなくちゃって分かってるんだけど、こんなんじゃ何もできないよ。私、涙だけが止まらない……
求血の救済対象は私のアパートから少し離れたところにある4区の住宅街に住んでいる十歳の女の子。名前はアイラちゃん。天使になっているお姉ちゃんは十七歳のノエルちゃん。さすがにこんな時間なんだけど、さっき電話でお話したら今夜すぐに来てほしいってお母さんが言ってた——っと、ここのアパートね? 思ったより遠くなかったみたい。
ピンポーン
「お待ちしていました吸血鬼さん、さあ、どうぞ。アイラも待っています」
あれ? お母さん……だよね? どこかで見たことある気がする。
「はじめまして、ユリーよ。さっきお話したとおり、求血の救済のお仕事を受けて来たの」
お部屋とっても暖かい……あはは、今夜はずぶ濡れになったり川の近くでユキットちゃんとアウトドアしてたから。それにここって家族の暖かさがある。生活感とはちょっと違う、家族の温度がある。ここで暮らしている人間の繋がりみたいな絆みたいな、そういう空気と香りがする……
「えっと、お母さん? 私、どこかで会ったことがあるかな?」
「そうかもしれません吸血鬼さん。私は1区の百貨店で働いていますから……」
「あ、あそこの百貨店の二階の、服飾の?」
「そうです。深夜はそこで働いています」
「これ、そこで買ったばっかりなの。可愛いマフラーが見つかって良かったの♪」
「あらあら、そのマフラー、少し前に私が展示したものです。喜んで頂いて嬉しい」
そうだったんだ。あそこの百貨店ってちょくちょく行くから、それで見たことがあったんだね。なんだろ、こういう繋がりってちょっと不思議……
「私はアイラの母のアネットです。こちらは父のゼフ。アイラはさっきまで起きてたのですがまた眠ってしまったようで……お部屋にご案内します」
——アイラちゃんのお部屋は私の部屋と少し似てるね……赤色が多いかも。あは♪ このクマさんのぬいぐるみは百貨店のマスコットだよね? 私も大切にしてる。前にメイカちゃんからプレゼントしてもらったんだ。
「妹のアイラです吸血鬼さん。ずっと車椅子なんです」
「あ……お姉さんのノエルちゃん、だよね?」
「はい。はじめまして。姉のノエルです」
胸がチクチクするよ……でも、お仕事頑張るって決めたんだんだから、そう、いつも通りにまずは因果を調べないと……
「アイラちゃんは治らない病気なんだよね?」
「はい。娘は生まれたときから難病を抱えています。隣町の大きな病院に通っていますが、おそらく次の年を迎えることは難しいと」
お父さんも心配そうだよね……治らない病気? それが生まれたときからっていうことは、病気に因果があるってことなのかな? 今の段階で救済魔法は発動しない。もし治療する方法があればそれが因果だったりするのかな?
「アイラちゃんはどんな病気なの?」
「血液の病気なんです。身体の中で血が作られなくなる病気だと、お医者様に言われています」
「隣町の病院には吸血鬼のお医者さんも居るはずだけど、診てもらったりした?」
「はい。有名な吸血鬼の先生に詳しく診てもらいましたが……症状の維持が最善で治療法は未だ見つかっていないと」
そうなんだねアイラちゃん……とっても可愛い顔で眠ってる。ノエルちゃんもどこか辛そう……うん。明日もうちょっと早い時間に来よう。私も未だ心の整理が追い付いてないし。今アイラちゃんとお話したら……きっと私泣いちゃいそうだから。
「今夜は遅いから、また明日来るね? 病院の先生のお名前と、お薬が分かるものをもらってもいい?」
「これ、用意しておきました。あの、吸血鬼さん」
「ノエルちゃん? な、何かな?」
「アイラはずっと救済リストに載っていたんです。でも、吸血鬼の人はみんなキャンセルしたりで……ユリーさんはアイラを救済してくれるんですよね? たぶんこれが最後のチャンスなんです、だからどうかお願いします」
「大丈夫だよノエルちゃん。私はこのお仕事を最後までする。アイラちゃんに救済魔法が発動するまで絶対に投げ出したりしないからね」
ノエルちゃんの一言一言は胸に刺さるように痛い。でもまだお仕事は始めたばかり。こんな痛みぐらいは乗り越えていかないとダメだよね? 私がしっかり受け止めていかないとノエルちゃんを不安にさせちゃう。あなたは天使なんだよノエルちゃん……救済の魔法は天使にとって死の魔法なんだから……あ、ダメかも。すごく悲しいよ、こんなの……
「どうしたのユリーさん? アイラのこと、きっと助けてくれるって……」
「ごめんねノエルちゃん。ちょっと私、今はお話できなくって」
分かってるんだけど、気持ちはお仕事しなくちゃって分かってるんだけど、こんなんじゃ何もできないよ。私、涙だけが止まらない……