03 求血のお仕事
文字数 2,540文字
病院って好き? 私は好きだよ。待ち時間で読書したり売店のパンも種類がたくさんあって好き。吸血鬼だって病気にかかると病院でお医者さんに診てもらってお薬貰うんだよ? お料理中に指を切ったりとかそういうのはすぐに治るんだけど、血を流すこと以外の病気やケガは人間と同じで病院にかかるの。それでも人間よりは回復が早いと思う。前にスキーで骨折したときはね、ギプスを外して歩けるようになるまでだいたい三日くらいだった。人間はもっと長くかかるんでしょ?
私が今回助けないといけない人はここに入院してるの。ここは6区の病院であまり大きくはないんだけど私も小さいときにわーっ!!
「あらあら吸血鬼さん、大丈夫?」
「あはは、大丈夫です看護師さん……ここっていつも床ぴっかぴかだね?」
「病院でケガなんかしたらダメよ赤い吸血鬼さん。気をつけてね?」
あいたた。病院ですっ転ぶなんて久しぶ——初めてよ? ほ、ほら魔法着とおそろいのヒールだから歩きにくいし。床ぴっかぴかだし。
「あ、看護師さん、私、組合のお仕事で来たんだけどね? トマスさんっていう事故で死にそうな人のお部屋教えてもらえるかな?」
「あらごめんなさい! 言われてみたらあなた魔法着だわよねっ。可愛いから全然そう見えなくて……待ってて、今調べてきてあげるから」
うーん。私どこから見ても魔法着の求血お仕事モードなんだけどな……え? 赤いゴスロリちっくな女の子にしか見えない? そんなことないでしょっ!? ほら右肩のここにちゃーんと印章つけてあるし! トランプのダイヤのマークじゃないよ? この赤いダイヤの刺繍は魔法の強さを証明する大事なものなんだから。ダイヤ、ハート、クラブ、スペードの順番で強さがあって、私は最高のダイヤなんだからすごいんだよ♪ って言っても生まれたときに決まるものだから運のレベルみたいなものだけど……私は火の魔法属性だから魔法着も赤なの。風は水色で風は緑、地の属性は黒の魔法着って決まっているの。私は黒い魔法着がいいなーっていつも思う。だってほらカッコいいじゃない? 私みたいに赤い魔法着に白のニーソとかだとホントに子供みたいだし。黒の魔法着で生足とかのほうが大人っぽくていいよね? え? 生足と白ニーソを比較したらダメ?
「おまたせ吸血鬼さん、トマスさんは二階のここであなたを待ってるわ。助けてあげてね?」
「看護師さんは私みたいな白いニーソと、生足の吸血鬼どっちがカッコいいと思う?」
「え? なに? どっちが……って」
「私は黒の魔法着に生足ヒールの吸血鬼がぜーったいカッコいいと思うんだけど、どうかな?」
「お、お姉さんは黒い吸血鬼さんがどうして生足なのか知らないけど、そうね、大人っぽくていいかな?」
「そうでしょ? 私みたいに赤い魔法着で白ニーソだなんて子供っぽいよね?」
「うーん……それはやっぱりあなたが可愛いから似合っていると思うの。お姉さんもね、こんな制服じゃなくて秘書さんみたいな制服に憧れはあるのよ?」
「秘書さんみたいな制服?」
「そうそう。ブレザーにタイトなスカートでビシッとしてる感じのがね?」
「看護師さんはお尻おっきいし足太めだから似合わないと思うわよ?」
「ほ、ほーら吸血鬼ちゃん? トマスさんが待ってるから。さっさとお仕事に行きましょうね?」
吸血鬼ちゃんだなんて私のが絶対年上なのに。生足だと服を着ているわけじゃないからやっぱりニーソと比較はできないのかな? ニーソとタイツとかだとどっちがいいの? よく分からなくなってくるよね。
——夜の病院はとても静か。人間はだいたいお日様があるうちに病院を使っているから。吸血鬼も病院は使うけど人間ほど頻繁には使わない。お医者さんはみんな人間だよ? 吸血鬼でお医者さんなのは学者さんくらいかな? そういう吸血鬼は病院で働いていないからあまり目にすることもないし……っと。トマスさんはこの部屋だね。
「あ……もしかして組合から来た吸血鬼さんでしょうか?」
「はじめまして。ユリーよ。求血の救済で来たの」
「ああ、ありがとうございます。父を早く助けてくださいっ」
「えっと、あなたはトマスさんの家族か何か?」
「そうです。一人息子のハリスです」
「お母さんは?」
「母は私が小さいときに離縁しておりまして。私が隣町に出てからは父もずっと一人で……」
「そうなの……どれどれ?」
トマスさんにはたくさん管が繋がってる。求血の救済は病院で人間を相手にすること多いんだけど……あ、ダメみたい。ここでさっくり魔法を発動させて終わりーみたいなのもたまにあるんだけどね。この人の死の因果をまだ私が全部知らないから、やっぱり魔法は発動しない。
「トマスさんは交通事故でしょ? 相手はどんな人?」
「はい。父は車で交差点を信号無視して左折したんです。そこにトラックが運転席側へ突っ込んで……相手は父と同じ六十代の方です。今は自宅で謹慎中だとか……」
「分かったわ。じゃあその人に色々聞いてみる」
「お願いします吸血鬼さん。父がこんな姿から助かるなら私もなんでもしますから……」
【床に土の足跡】 【安全靴】 【商店街広告でセールの服】
【ワンコイン詰め放題の袋】 【ハリス】 【6区の病院】
【トマスの免許証】
【結婚指輪】 【父と長く別居】 【加害者の男性】
それじゃさっさと行きましょうか。え? もっとハリスさんから色々聞かなくていいのって? だってほら床には土の足跡が残ってた。靴もカジュアルじゃなくて安全靴だったし服もほら、今1区の商店街でやってるセール広告でおなじみの百貨店の安いやつ。サイドテーブルの上にある袋はワンコイン詰め放題のだし、それにここは6区だからハリスさんも裕福な家の人じゃないわ。おそらくは長い時間外で働くタイプの人。それも大変そう。お父さんのためならなんでもしますって言うわりに長いこと家族を一人にしてたのだから事情はあると思う。結婚指輪をしていたから奥さんが居るのかもね。でも今はそこまででいいの。面倒くさくて遠い場所の因果から探るのが私のやり方。嫌いなトマトは最初に食べちゃうタイプなの。
私が今回助けないといけない人はここに入院してるの。ここは6区の病院であまり大きくはないんだけど私も小さいときにわーっ!!
「あらあら吸血鬼さん、大丈夫?」
「あはは、大丈夫です看護師さん……ここっていつも床ぴっかぴかだね?」
「病院でケガなんかしたらダメよ赤い吸血鬼さん。気をつけてね?」
あいたた。病院ですっ転ぶなんて久しぶ——初めてよ? ほ、ほら魔法着とおそろいのヒールだから歩きにくいし。床ぴっかぴかだし。
「あ、看護師さん、私、組合のお仕事で来たんだけどね? トマスさんっていう事故で死にそうな人のお部屋教えてもらえるかな?」
「あらごめんなさい! 言われてみたらあなた魔法着だわよねっ。可愛いから全然そう見えなくて……待ってて、今調べてきてあげるから」
うーん。私どこから見ても魔法着の求血お仕事モードなんだけどな……え? 赤いゴスロリちっくな女の子にしか見えない? そんなことないでしょっ!? ほら右肩のここにちゃーんと印章つけてあるし! トランプのダイヤのマークじゃないよ? この赤いダイヤの刺繍は魔法の強さを証明する大事なものなんだから。ダイヤ、ハート、クラブ、スペードの順番で強さがあって、私は最高のダイヤなんだからすごいんだよ♪ って言っても生まれたときに決まるものだから運のレベルみたいなものだけど……私は火の魔法属性だから魔法着も赤なの。風は水色で風は緑、地の属性は黒の魔法着って決まっているの。私は黒い魔法着がいいなーっていつも思う。だってほらカッコいいじゃない? 私みたいに赤い魔法着に白のニーソとかだとホントに子供みたいだし。黒の魔法着で生足とかのほうが大人っぽくていいよね? え? 生足と白ニーソを比較したらダメ?
「おまたせ吸血鬼さん、トマスさんは二階のここであなたを待ってるわ。助けてあげてね?」
「看護師さんは私みたいな白いニーソと、生足の吸血鬼どっちがカッコいいと思う?」
「え? なに? どっちが……って」
「私は黒の魔法着に生足ヒールの吸血鬼がぜーったいカッコいいと思うんだけど、どうかな?」
「お、お姉さんは黒い吸血鬼さんがどうして生足なのか知らないけど、そうね、大人っぽくていいかな?」
「そうでしょ? 私みたいに赤い魔法着で白ニーソだなんて子供っぽいよね?」
「うーん……それはやっぱりあなたが可愛いから似合っていると思うの。お姉さんもね、こんな制服じゃなくて秘書さんみたいな制服に憧れはあるのよ?」
「秘書さんみたいな制服?」
「そうそう。ブレザーにタイトなスカートでビシッとしてる感じのがね?」
「看護師さんはお尻おっきいし足太めだから似合わないと思うわよ?」
「ほ、ほーら吸血鬼ちゃん? トマスさんが待ってるから。さっさとお仕事に行きましょうね?」
吸血鬼ちゃんだなんて私のが絶対年上なのに。生足だと服を着ているわけじゃないからやっぱりニーソと比較はできないのかな? ニーソとタイツとかだとどっちがいいの? よく分からなくなってくるよね。
——夜の病院はとても静か。人間はだいたいお日様があるうちに病院を使っているから。吸血鬼も病院は使うけど人間ほど頻繁には使わない。お医者さんはみんな人間だよ? 吸血鬼でお医者さんなのは学者さんくらいかな? そういう吸血鬼は病院で働いていないからあまり目にすることもないし……っと。トマスさんはこの部屋だね。
「あ……もしかして組合から来た吸血鬼さんでしょうか?」
「はじめまして。ユリーよ。求血の救済で来たの」
「ああ、ありがとうございます。父を早く助けてくださいっ」
「えっと、あなたはトマスさんの家族か何か?」
「そうです。一人息子のハリスです」
「お母さんは?」
「母は私が小さいときに離縁しておりまして。私が隣町に出てからは父もずっと一人で……」
「そうなの……どれどれ?」
トマスさんにはたくさん管が繋がってる。求血の救済は病院で人間を相手にすること多いんだけど……あ、ダメみたい。ここでさっくり魔法を発動させて終わりーみたいなのもたまにあるんだけどね。この人の死の因果をまだ私が全部知らないから、やっぱり魔法は発動しない。
「トマスさんは交通事故でしょ? 相手はどんな人?」
「はい。父は車で交差点を信号無視して左折したんです。そこにトラックが運転席側へ突っ込んで……相手は父と同じ六十代の方です。今は自宅で謹慎中だとか……」
「分かったわ。じゃあその人に色々聞いてみる」
「お願いします吸血鬼さん。父がこんな姿から助かるなら私もなんでもしますから……」
【床に土の足跡】 【安全靴】 【商店街広告でセールの服】
【ワンコイン詰め放題の袋】 【ハリス】 【6区の病院】
【トマスの免許証】
【結婚指輪】 【父と長く別居】 【加害者の男性】
それじゃさっさと行きましょうか。え? もっとハリスさんから色々聞かなくていいのって? だってほら床には土の足跡が残ってた。靴もカジュアルじゃなくて安全靴だったし服もほら、今1区の商店街でやってるセール広告でおなじみの百貨店の安いやつ。サイドテーブルの上にある袋はワンコイン詰め放題のだし、それにここは6区だからハリスさんも裕福な家の人じゃないわ。おそらくは長い時間外で働くタイプの人。それも大変そう。お父さんのためならなんでもしますって言うわりに長いこと家族を一人にしてたのだから事情はあると思う。結婚指輪をしていたから奥さんが居るのかもね。でも今はそこまででいいの。面倒くさくて遠い場所の因果から探るのが私のやり方。嫌いなトマトは最初に食べちゃうタイプなの。