文字数 504文字

山を登り始めて随分と経ち、体のあちこちがキシキシと声を上げ始めました。
この瞬間を過ぎれば体も山道に慣れてくるはず、何度も経験して分かっていますが、ちょっと辛くもあります。
体中から届く抗議の声に、仕方なくしゃがみこんだ登山家。
自分を説得するよう足を摩りました。
「山登りっていうのは、一人だと切なくなってくるものさ」
不意を突かれたような低語に、驚いて周囲を見渡しました。
すぐ横に人がいてびっくりしました、いつの間に。
突然現れた人物はやっぱりマントで全身を覆っています、今度はしっかりと顔まで。
「頂上の木を目指しているのだろう?まだ登らなきゃならないのに、疲れてしまったねえ。でも、大丈夫。あんたがこの山を登りきるための助っ人を連れてきた。もう少し登ったら出会える。いいかい、この先で道が二手に分かれるから、右側に進むんだよ。ああ、お礼なんていいさ。その代わり、頂上で天使を見掛けたら、三人目の魔女に救われたって伝えておくれ」
ここまで話すと、期待を押し隠すような掠れた笑い声と共に「そうすれば、あたしゃ翼がもらえる」顔までマントで隠した人物はそう零しました。
登山家は何も言わずに少し頭を下げ、その場を後にしました。
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