文字数 720文字

それからまた数時間後、登山家は昼食を摂ることにしました。
ちょうど良い岩を見付けると腰を下ろし、お弁当のサンドイッチを食べました。
汗ばんだ肌を掠める風が心地よく感じられ、疲れながらも、何処か満足な思いで満たされていく。
食後にチョコレートを口に含み、そんな風に考えていたとき、誰かが話し掛けてきました。
「あら、お一人?」
声の主を探すように視線を漂わせると、またもマントを纏った人物がいました。
けれど、頭のフード部分は外されており、顔も見えます。
丁寧なお化粧を施した女性です。
女性が言いました。
「一人ってことは、あの人上手くいかなかったのね」
独り言にしては大きな声でした。
声にくぐもりはなく、はっきりとした口調には絶対的な自信が漲っていました。
「こんにちは」登山家は軽く頭を下げました。
女性は華やかな笑顔を向けて言いました。
「こんにちは。わたしあなたのこと知っているわ、頂上の木を見たいのでしょう?」
まだ何も話していないのに、登山家はぎょっとして体を強ばらせました。
最後まで味わいたい、口の中に小さく塊で残っていたチョコレートを思わず飲み込んでしまいました。
女性は含み笑いをして続けます。
「わたしが近道を知っているわ、教えてあげる。これからわたしが人を呼んでくるから、その人たちと一緒におしゃべりをして登れば楽しいし、きっとあっという間よ。それでね、頂上で天使を見付けたら言って欲しいの、二人目の魔女に助けてもらったってね」
一気に話し終えた女性「すぐ戻るから待っていて」と言い放ち、ほうきにまたがって飛んで行きました。
しばらく女性の鼻歌が辺りに響いていました。
登山家はチョコレートの包み紙をポケットに仕舞うと、女性を待たずにまた登りはじめました。
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