☆おまけ☆

文字数 837文字


 明日香がいなくなってから一年が過ぎ、あたしは中学三年生になった。

「おはよ、お墓参り行ったの?」 

 自分の席につくと、美羽が話しかけてくる。

「相手の運転手の家族も来たの?」

 そう聞いたのは理子。
 明日香の命を奪った車を運転していた人は、あの事故の時、心臓発作を起こしたのだそうだ。
 救急車で運ばれ、数日生死の境をさまよったあげくに、彼もまた帰らぬ人となっていた。
 小さい子どもを三人連れて、額を床にこすりつけるように頭を下げる運転手さんの奥さんを、あたしの両親はなじることができなかった。
 毎日のように「仏壇に備えてください」と、お菓子やらお花を持ってきたその人に、ある日お父さんは言った。

「もういいから、じゅうぶんだから、お子さんのために頑張ってください」って。

「うん。一緒にお墓参りをしてくれたよ」

 あたしが言うと、美羽と理子は「そっか」とうなずいた。

「あれ? 影山! 早いじゃん」

 後ろから聞こえた男子の声に、あたしはなんとなく振り返る。
 自分の席につこうとしていた影山くんが、椅子を引いた姿勢のままあたしの方へ顔を向け、動きを止めた。

「鷲尾史香……。守護霊増えてる」

 低い声でボソリと言う。
 !?
 美羽と理子以外のクラスメイトが、ざざざっとあたしのまわりから距離をとった。
 え? 守護霊っているの? 増えてるってことは、あたしの後ろに何人かいるわけ?

「久しぶりだな」

 影山くんがあたしに向かってちょいっと手を上げた。

「え? 久しぶり? 毎日のように会ってるじゃん」

 あたしが言うと「違うよ。あんたの守護霊に挨拶したんだよ」だなんて言う。
 影山くんはイスに座ると、すぐに突っ伏して寝てしまった。
 久しぶり? あたしの守護霊?
 ねえ、それってもしかして? 
 あたしは期待を込めて背後を振り返った。
 だけどそこには何にもなくて、窓の外に真っ青な夏の空が広がっているだけだった。

 了
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