第14話 ああ、捕まった。
文字数 1,813文字
タピオカミルクティーを飲むこと。友達とも彼氏とも瑠璃とも行ったことがある。そんなことで胸を躍らせるほど、恋愛経験がないわけじゃない。ただ直樹と行けることが何より嬉しい。
チャイムが鳴って先生が声を張って授業の終わりを伝えた。インテリ系の数学の先生も、今夜予定があるのかテンションが高めだった。
直樹をチラッと見た。いつも通りだった。俯きながらも未百合の視線を感じたのか、直樹はゆっくりと顔を動かす。未百合はじっと凝視しながら視線が合うのを待った。
目が合った。でも一瞬で逸らされてそのままだった。タピオカの約束を忘れてるんじゃないかと心配になったけど、恥ずかしいだけだろう。間違っても、みんなに聞こえるようにだけは言わないでほしいって、願っているだろう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか直樹の姿はなかった。
周囲を廊下に出て姿を探すも見つからない。未百合はLINEを見てみると、直樹からメッセージが着ていた。
多分、「先に行ってるね」が正しいだろう。急いで打ち込んだせいか誤字があった。LINEの内容を覗き込まれる可能性だったあるから、そうなったんだろう。だから気にせず返信した。
足取りを軽くして廊下を行く。長い髪の毛を揺らしてハンドクリームの匂いを漂わせる。階段を駆け降りて、下駄箱で革靴に書き換えてグラウンドに着地した瞬間だった。
どこか嫌な予感があった。瑠璃の目が懇願するように近づいてくる。隣には瀬戸加奈子というクラスメイトもいた。未百合も仲の良い友達で二人になっても気まずくない。
心中とは裏腹にわざとテンションを高めた。顔に出ないようにだけはしないといけない。今は加奈子にも気づかれちゃいけない。二重のプレッシャーに後退りしそうだった。
瑠璃の上目遣い。可愛くて色気がありすぎて包囲された。そして加奈子はじっと見つめてさらに逃げ場を阻むように未百合の返事を待っている。
昨日の昼休みに話していたことだった。コウセイとは未百合たちの高校の近くにある高校だ。不良の集まりで成績が悪くて行き場所を失った子達が行くイメージだった。
声のトーンは高めでも思い切って言ってみた。今日は直樹とタピオカ。ここで時間をとられたくない。
うんうんと、大袈裟に相槌を打つ。
心の中で「マジ知らん」と自然に出てしまった。
確かに言った。直樹との予定だったから言わなかった。あるって言えば、色々と聞かれる。
「男?」
「彼氏できたの?」
「ええー聞いてない!」
わたが舞うように質問は降り注ぐ。直樹の名は出せないから適当に答えることになる。嘘を嘘で塗り重ねても苦しくなるから言わなかった。
瑠璃は彼氏がいる。今日来る男子メンバーの一人に言い寄られた時に、未百合や加奈子が止められる。多分、そういう役割だと思った。そんなことのために呼ばれたくない。何より直樹と予定がある。それでも目を逸らせない。合わせたらもう「行く!行く!」と演技力を発揮して歩調を合わせることになる。
ここで素直に断れない。二人がかりでの圧力に屈してしまう未百合の弱さと、瑠璃にはどこか逆らえない。自己嫌悪になった。
瑠璃は未百合に抱きついてきた。仕方なく身体を支えてあげる。でも抱え切れるかどうか分からなかった。
余計なことを言って自分で自分の首を絞めている。その自覚はあった。自分の本心をごまかすためだけど、さすがにテンションを保てそうにない。
瑠璃と加奈子が両サイドで未百合の腕に絡まる。多分重たいと思う。足元を鎖で巻かれたような気分だから。それに気づいているだろうか。