第5話 ロックまみれの直樹
文字数 892文字
未百合を見送った後、直樹はCDショップにいた。未百合がバイトしている映画館のあるモールの5階。中学生の時からファンである"ロングラン"というバンドのポスターを見つめている。最近発売になったシングルCD。このショップで買うとA2ポスターがついてくる。直樹はオンラインストアで注文したから二枚組のクリアファイルがついてきた。最後まで悩んだ末にオンラインを選んだが、ポスターも欲しくなってきた。今までにリリースされたCDをひとつひとつ眺めてロングランの世界に浸った。
直樹が降りてくると、彼氏と腕組んで歩く瑠璃に遭遇した。体を震わせる直樹。同じ制服だから、二人の視線は自ずと直樹に向けられた。直樹はその場に立ち止まって視線を落とした。瑠璃は彼氏を急かすように前に押し出しながら駆け足になる。直樹がチラッと前を確認すると、瑠璃はすぐさま目を逸らした。グッとこらえて、二人の後ろ姿が捉えられるようになると、ようやく直樹は顔を上げた。じゃれ合うように幸せオーラを放つ。胸を突き上げられるような思いがする。動きたいけど動けないこのもどかしさと、ここで暇をつぶすように、意味もなく立ち尽くしている自分を恥ずかしく思う。直樹は、そばにあるラウンジで腰を下ろした。
見るからに直樹の背中に力が入ったのが分かった。振り向きも何もせず固まっている。未百合は聞こえていないのかと思ったけど、そんなことはないだろう。現に体をピクリとさせた。
細かいことは気にしない。でも、ちょっと怖くて恐る恐る声をかけた。
そう言って直樹は、渋々立ち上がった。まだ怖いのか歩幅を小さくしながら出口に向かう。未百合も同じく、周囲を確認しながら直樹の影に隠れて歩いた。