第1話 プロローグ
文字数 3,142文字
「おい神々廻 ! さっさと俺のからあげクン買ってこいよ!」
「は、はい!」
僕の名前は神々廻常彦 。私立友引高校に通う2年生。
現在は3時限目と4時限目の間の休憩時間。しかし、僕に休む時間は与えられない。
「ほら、早くしねぇと4時限目始まっちまうぞ!」
「キモしば、もっと早く走れッ!」
僕は急いで教室を飛び出し、上履きのまま校舎を駆け出した。
「くそっ、なんでいつも僕がこんな目にっ」
学校から最も近いコンビニまで全速力で走っても3分かかる。行って戻るだけで6分、休憩時間はたったの10分。レジで待つ時間もあるから、ギリギリだ。
もし遅れたら、昼休みには後藤たち不良のサンドバッグにされることは確実だ。それを防ぐためにも、必死で走るしかなかった。
「――――ありがとうございました」
脇腹を押さえながら正門をくぐり抜け、教室の窓から身を乗り出す不良たちを見上げた。そのまま彼らを一瞥して校舎に入っていく。
「まだ2分あるから、そんなに慌てなくても大丈夫なんじゃない?」
昇降口で待ち構えていたのは、金髪でミニスカートの派手な格好の女子生徒、赤屍玲奈 。不良たちのリーダーである後藤太一の彼女だ。
「だからって、赤屍さんの彼氏が見ているのに、歩くわけにはいかないだろ?」
「それはそうだけどさ……。てか、早く……キス、してくれない?」
「え……ここで!?」
スマホ画面に視線を落とした彼女は、苛立ったように舌打ちをした。
「何のためにトイレ行くふりまでして、神々廻に会いに来てると思っているのよ!」
「いや、でも……ここはまずいよ! 誰かに見られたら僕、後藤くんに殺されちゃうよ!」
「今更何言ってんのよ! もうヤっちゃったんだから手遅れよ!」
「あっ、ちょっと――――」
力任せに下駄箱に押しやられた僕は、そのまま強引にくちびるを奪われてしまった。
「んんっ!?」
彼女はとても器用な舌使いで、僕の意識をぐちょぐちょにかき回していく。
刹那、全身から力が抜け落ち、腹の奥底から何かを持っていかれる、不思議な感覚に包まれる。
「あっ……」
彼女の口から吐息混じりの声が漏れ、彼女が身をくねらせる。何かに取り憑かれたようにくちびるに貪りつく彼女を、僕はゆっくり引き離した。
「ハァ……ハァ……」
「だ、だめだよ……赤屍さん……」
いやらしく赤らんだ顔の赤屍さんが、袖口で口元を拭っていた。
「し、仕方ないじゃない。あたし、もう神々廻なしじゃ生きていけない体なんだから」
「!?」
「というか、誰のせいでこうなったと思ってんのよ! 責任持って、一生あたしの相手してもらうから」
「それはそうだけど……でも、やっぱり学校ではまずいよ! 誰かに見られたら僕たち後藤くんに殺されるよ!」
「その時はその時よ。つーか、あたしで筆おろししておいて、いまさら逃げるとかなしだから。やり逃げだけは絶対に許さないから!」
「……っ」
いじめられっ子の僕と、僕をいじめている男 の彼女と、僕が肉体関係を持ってしまったのは、昨夜のことだ。
「はぁ……もう死んだほうがマシだ」
小さい頃からいじめられてきた僕は、人生というやつに絶望し、鉄橋から身投げしようと心に決めていた。
「おい、そこの少年――」
その時だった。
頭から外套をかぶった謎の人物が話しかけてきたのは。
「僕……ですか?」
「貴様以外に誰もおらんじゃろ?」
周りを見渡してみると、確かに夜の鉄橋には僕以外誰もいなかった。
「何か、僕にご用ですか?」
「貴様、今から死ぬ気ではなかろうな」
「!?」
言い当てられたことに驚いた僕は、とっさに笑顔で誤魔化した。
「嘘をつくでないわっ!」
が、謎の人物に大声で叱られてしまった。
「あ……すまん。いきなり大きな声を出して驚かせてしまったの」
「いえ」
「だが、貴様に死なれると我々はどうしても困るのじゃ」
「……我々?」
もう一度周囲を見渡すが、外套をかぶった人物以外には誰もいない。
キョロキョロと辺りを見る僕に、外套の人物は「うーん」と腕を組んで唸っていた。
「こんなのが本当に歴代最強の勇者なのか?」
「あの、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか……」
外套の人物は、じっと僕を見つめたままその場を離れようとしなかった。
……困ったな。
人に見られていると飛び降りづらいんだけどな。ま、仕方ないか。
「おいしょっ――」
「――ちょっと待てぇえええええ!!」
鉄橋から飛び降りるために手すりに上ろうとした僕のことを、謎の人物が全力で止めようとした。
「離してください!」
「貴様、我の話を聞いていなかったのか!」
「話?」
「貴様に死なれると困ると言っておるのじゃ!」
「そんなの知りませんよ。僕はもう、生きることに疲れたんです!」
「生きていれば良いことだってあるはずじゃ!」
「そんなのありませんよ。この16年間は地獄だったんです。この先あと何十年生きたって、この現実は変わりません。童貞のまま年老いて、惨めに死んでいくだけなんです! ――――あっ、ちょっとッ!?」
「なんじゃ、そんなことか」
いきなり手を離されてしまった僕は、勢いあまって鉄橋から落っこちてしまいそうになった。
「――急に離さないでくださいよ!」
「要は、雌と交尾できれば貴様は死なんのじゃな? それは実に好都合じゃ!」
……は? 何言ってるんだ、この人。
「では、手始めに我が貴様の相手をしてやる」
「え!?」
お前の童貞を奪ってやると言った謎の人物が外套のフードを外すと、漆黒の髪と真赤な瞳が闇夜に浮かび上がった。
「外人……さん?」
彼女はおそらく20歳前後だろう。彼女の顔はハリウッドの女優に匹敵するほどの美貌で、鮮やかな目鼻立ちが際立っていた。さらに、彼女の頭には立派な角が2本生えていた。
……コスプレイヤーだろうか?
日本の漫画やアニメは世界中で大人気だし、コスプレも日本の文化の一部として海外でも受け入れられていると聞いたことがある。
にしても、クオリティー高いな。
「我と交尾をしたら、貴様は死なんと誓うか?」
「いや、ちょっと待ってくださいよ! どうしてそこまでして僕を死なせたくないんですか? あなたには関係のないことですよね?」
「関係大アリじゃ! 貴様が死ねば、我ら魔族には全滅の未来がやってくるのじゃ! 魔王の娘として、それだけは阻止せねばならん」
「……は?」
魔族……? 魔王……? 全滅の未来……? 何だそれ……?
「――ってちょっ、ちょっと! 何脱いでるんですか!」
「ん……? 脱がねば交尾できぬではないか?」
海外の人は大胆だと聞いたことがあったけど、人前で衣服を脱ぐことにここまで躊躇いがないものなのか!?
「なんだ……貴様は着衣のままのほうが興奮するタイプか? うむ。では、よかろう。死なれても困る。貴様の変態プレイに付き合ってやるか」
「いや、ちょっ――――」
何の躊躇もなく近づいてくると、そのままブチュっと唇に吸い付いてきた。
「んんんんんんんんんッ!!」
僕は手足を振り回してやめてくれと訴えるが、彼女は一向に離れない。
ダ、ダメだ……このままだと頭がおかしくなってしまう。
できることなら女性に対して暴力は振るいたくなかったが、僕は彼女を全力で突き飛ばした。
「!?」
が――びくともしない。まるで相手が電信柱にでもなったかのように、微動だにしないのだ。
そして、次の瞬間――バタンッ。
全身の力がスーッと抜け落ちてしまった。膝から崩れ落ちてしまった僕を押し倒した彼女が、獲物を捉えた獣のように舌なめずりをしていた。
あれ……?
なんだこれ……?
再び悪魔の唇が僕の唇に触れた瞬間、意識が遠ざかっていく。
「嘘じゃろ!? こやつ勇者の器のくせに、この程度のドレインで枯渇するのか!?」
「は、はい!」
僕の名前は
現在は3時限目と4時限目の間の休憩時間。しかし、僕に休む時間は与えられない。
「ほら、早くしねぇと4時限目始まっちまうぞ!」
「キモしば、もっと早く走れッ!」
僕は急いで教室を飛び出し、上履きのまま校舎を駆け出した。
「くそっ、なんでいつも僕がこんな目にっ」
学校から最も近いコンビニまで全速力で走っても3分かかる。行って戻るだけで6分、休憩時間はたったの10分。レジで待つ時間もあるから、ギリギリだ。
もし遅れたら、昼休みには後藤たち不良のサンドバッグにされることは確実だ。それを防ぐためにも、必死で走るしかなかった。
「――――ありがとうございました」
脇腹を押さえながら正門をくぐり抜け、教室の窓から身を乗り出す不良たちを見上げた。そのまま彼らを一瞥して校舎に入っていく。
「まだ2分あるから、そんなに慌てなくても大丈夫なんじゃない?」
昇降口で待ち構えていたのは、金髪でミニスカートの派手な格好の女子生徒、
「だからって、赤屍さんの彼氏が見ているのに、歩くわけにはいかないだろ?」
「それはそうだけどさ……。てか、早く……キス、してくれない?」
「え……ここで!?」
スマホ画面に視線を落とした彼女は、苛立ったように舌打ちをした。
「何のためにトイレ行くふりまでして、神々廻に会いに来てると思っているのよ!」
「いや、でも……ここはまずいよ! 誰かに見られたら僕、後藤くんに殺されちゃうよ!」
「今更何言ってんのよ! もうヤっちゃったんだから手遅れよ!」
「あっ、ちょっと――――」
力任せに下駄箱に押しやられた僕は、そのまま強引にくちびるを奪われてしまった。
「んんっ!?」
彼女はとても器用な舌使いで、僕の意識をぐちょぐちょにかき回していく。
刹那、全身から力が抜け落ち、腹の奥底から何かを持っていかれる、不思議な感覚に包まれる。
「あっ……」
彼女の口から吐息混じりの声が漏れ、彼女が身をくねらせる。何かに取り憑かれたようにくちびるに貪りつく彼女を、僕はゆっくり引き離した。
「ハァ……ハァ……」
「だ、だめだよ……赤屍さん……」
いやらしく赤らんだ顔の赤屍さんが、袖口で口元を拭っていた。
「し、仕方ないじゃない。あたし、もう神々廻なしじゃ生きていけない体なんだから」
「!?」
「というか、誰のせいでこうなったと思ってんのよ! 責任持って、一生あたしの相手してもらうから」
「それはそうだけど……でも、やっぱり学校ではまずいよ! 誰かに見られたら僕たち後藤くんに殺されるよ!」
「その時はその時よ。つーか、あたしで筆おろししておいて、いまさら逃げるとかなしだから。やり逃げだけは絶対に許さないから!」
「……っ」
いじめられっ子の僕と、僕をいじめている
「はぁ……もう死んだほうがマシだ」
小さい頃からいじめられてきた僕は、人生というやつに絶望し、鉄橋から身投げしようと心に決めていた。
「おい、そこの少年――」
その時だった。
頭から外套をかぶった謎の人物が話しかけてきたのは。
「僕……ですか?」
「貴様以外に誰もおらんじゃろ?」
周りを見渡してみると、確かに夜の鉄橋には僕以外誰もいなかった。
「何か、僕にご用ですか?」
「貴様、今から死ぬ気ではなかろうな」
「!?」
言い当てられたことに驚いた僕は、とっさに笑顔で誤魔化した。
「嘘をつくでないわっ!」
が、謎の人物に大声で叱られてしまった。
「あ……すまん。いきなり大きな声を出して驚かせてしまったの」
「いえ」
「だが、貴様に死なれると我々はどうしても困るのじゃ」
「……我々?」
もう一度周囲を見渡すが、外套をかぶった人物以外には誰もいない。
キョロキョロと辺りを見る僕に、外套の人物は「うーん」と腕を組んで唸っていた。
「こんなのが本当に歴代最強の勇者なのか?」
「あの、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか……」
外套の人物は、じっと僕を見つめたままその場を離れようとしなかった。
……困ったな。
人に見られていると飛び降りづらいんだけどな。ま、仕方ないか。
「おいしょっ――」
「――ちょっと待てぇえええええ!!」
鉄橋から飛び降りるために手すりに上ろうとした僕のことを、謎の人物が全力で止めようとした。
「離してください!」
「貴様、我の話を聞いていなかったのか!」
「話?」
「貴様に死なれると困ると言っておるのじゃ!」
「そんなの知りませんよ。僕はもう、生きることに疲れたんです!」
「生きていれば良いことだってあるはずじゃ!」
「そんなのありませんよ。この16年間は地獄だったんです。この先あと何十年生きたって、この現実は変わりません。童貞のまま年老いて、惨めに死んでいくだけなんです! ――――あっ、ちょっとッ!?」
「なんじゃ、そんなことか」
いきなり手を離されてしまった僕は、勢いあまって鉄橋から落っこちてしまいそうになった。
「――急に離さないでくださいよ!」
「要は、雌と交尾できれば貴様は死なんのじゃな? それは実に好都合じゃ!」
……は? 何言ってるんだ、この人。
「では、手始めに我が貴様の相手をしてやる」
「え!?」
お前の童貞を奪ってやると言った謎の人物が外套のフードを外すと、漆黒の髪と真赤な瞳が闇夜に浮かび上がった。
「外人……さん?」
彼女はおそらく20歳前後だろう。彼女の顔はハリウッドの女優に匹敵するほどの美貌で、鮮やかな目鼻立ちが際立っていた。さらに、彼女の頭には立派な角が2本生えていた。
……コスプレイヤーだろうか?
日本の漫画やアニメは世界中で大人気だし、コスプレも日本の文化の一部として海外でも受け入れられていると聞いたことがある。
にしても、クオリティー高いな。
「我と交尾をしたら、貴様は死なんと誓うか?」
「いや、ちょっと待ってくださいよ! どうしてそこまでして僕を死なせたくないんですか? あなたには関係のないことですよね?」
「関係大アリじゃ! 貴様が死ねば、我ら魔族には全滅の未来がやってくるのじゃ! 魔王の娘として、それだけは阻止せねばならん」
「……は?」
魔族……? 魔王……? 全滅の未来……? 何だそれ……?
「――ってちょっ、ちょっと! 何脱いでるんですか!」
「ん……? 脱がねば交尾できぬではないか?」
海外の人は大胆だと聞いたことがあったけど、人前で衣服を脱ぐことにここまで躊躇いがないものなのか!?
「なんだ……貴様は着衣のままのほうが興奮するタイプか? うむ。では、よかろう。死なれても困る。貴様の変態プレイに付き合ってやるか」
「いや、ちょっ――――」
何の躊躇もなく近づいてくると、そのままブチュっと唇に吸い付いてきた。
「んんんんんんんんんッ!!」
僕は手足を振り回してやめてくれと訴えるが、彼女は一向に離れない。
ダ、ダメだ……このままだと頭がおかしくなってしまう。
できることなら女性に対して暴力は振るいたくなかったが、僕は彼女を全力で突き飛ばした。
「!?」
が――びくともしない。まるで相手が電信柱にでもなったかのように、微動だにしないのだ。
そして、次の瞬間――バタンッ。
全身の力がスーッと抜け落ちてしまった。膝から崩れ落ちてしまった僕を押し倒した彼女が、獲物を捉えた獣のように舌なめずりをしていた。
あれ……?
なんだこれ……?
再び悪魔の唇が僕の唇に触れた瞬間、意識が遠ざかっていく。
「嘘じゃろ!? こやつ勇者の器のくせに、この程度のドレインで枯渇するのか!?」