第3話 よし、NTRしに行こう!
文字数 4,013文字
「……ゴクリ」
魔虫を寄生させるためには、魔虫の中身が詰まった琥珀を体内に取り込まなければならない。要するに、琥珀を呑みこんでしまうことだ。
「うわっ、まずっ」
実際には味はないのだが、それでも気持ちの悪い感覚が広がる。二日酔いをした大人はこんな感じなのだろう。
「よし、これで貴様にも魔力が備わったの」
「本当かな……?」
特に何かが変わったという感覚はない。
てっきり腹の底からグワーッと力がみなぎってくる感覚を期待していたのだが。
「手始めに、我が配下と交尾してみるとよい」
「え! さっそくできるんですか!」
うわー、すごく緊張するな。なんたって230万年越しの初体験なんだもんな。
わくわく♪
「でも、リリムの配下ってどこにいるんですか?」
「うむ、少し待て、今召喚してやる」
リリムが手を横に軽く振ると、夜空に禍々しい魔法陣が現れた。
「おおっ、すごい!」
リリムがこれほど美しいということは、魔族は非常に美しい一族なのかもしれない。もしも、ダークエルフ族やウィッチ族といった魔族が初めての相手だったら、それは一生忘れられない素晴らしい経験になるだろう。
想像しただけで、胸がワクワクと高鳴っていくのが感じられた。
来るかっ!
魔法陣がどす黒い光を放つと、そこからスタイル抜群の骨が現れた。
……ん、骨?
「げっ!? ばっ、ばけもの!」
「化け物ではない。我が配下の一人、リッチじゃ」
どこから見ても不気味な骨だ。
ドレスを身にまとった性別不明のこの骨と、リリムは僕に交尾をするよう言ってきた。
「できるわけないだろ!」
「なぜじゃ? 彼女は生前、帝国の薔薇と謳われたほどの絶世の美女だったんじゃぞ?」
「そんな過去の栄光知らないよ! 今はただの骨じゃないか! 胸もなければ、そ、挿入口だってないじゃないか! こんなのでどうやって初体験しろって言うんだ!」
「しかし、まだこちらに適応できていない我の魔力では、リッチを召喚することが精いっぱいなのじゃ。今回のところはこれで我慢してはくれんか?」
「チェンジ!」
230万年もの間待ち望んでいた初めての経験が骨とか、これまでの僕たちに申し訳がなさすぎる。絶対に妥協はしない。
「しかしじゃな――」
「チェンジ! 絶対にチェンジだから!」
僕は断固として拒否の姿勢を崩さなかった。
「やっぱりリリムが相手してよ。僕にももう魔力があるんだよね? なら少しくらいなら大丈夫なんじゃないの?」
「無理を言うでないわ。貴様を殺してしまうじゃろ。もしも貴様が死ねば、魔族は滅びるのじゃ。安易な行動は許されん」
言い換えれば、僕の魔力が増えればリリムと合体できる可能性があるということだ。
「それなら、魔力を増やす方法を教えてよ。魔力が増えればリリムとできるってことだよね?」
リリムと初めての経験をするためなら、少しくらいの無茶はする覚悟だ。
「魔虫に栄養を与えればよい」
「魔虫は何が好きなの? まさかラーメンとかじゃないよね?」
ウキウキと笑顔で尋ねた僕に、「それは寄生者の欲望じゃ」と、意味深な答えが返ってきた。
「寄生者の欲望……なにそれ?」
「早い話が、貴様の欲望じゃな」
「詳しく教えて」
「うーん、例えばじゃ、人間はお金が好きじゃろ? この世界の人間も根本的には同じじゃろう」
僕は頷いて肯定した。
「使い切れないくらいの財宝を手に入れたなら、貴様の欲望は充たされないか? あるいは、この世の女性を一人残らず服従させることができたなら、どうじゃ? 今まで自分をバカにし、見下していた相手の女が自分の物をしゃぶっておる。想像するのじゃ……貴様の自尊心は充たされ、快楽と欲望が充たされていくじゃろ?」
もしも、後藤の彼女である赤屍さんとそういう関係になれたとしたら。
それはまさに至高のざまあであり、最高のNTRだ。
「うっ……」
考えただけで、体が疼いた。
「うむ、なるほど。貴様の欲望はそこか――ならばついてこい」
「えっ、どこに行くの?」
「配下を召喚できぬのなら、この世界で手に入れるまでじゃ」
「手に入れるって……何を?」
「赤屍玲奈をNTRしに行くに決まっておるじゃろ」
「ちょっ、嘘だろ! つーか、何で赤屍さんのこと知ってるんだよ!」
「貴様の考えなど我にはすべてぱっくりお見通しじゃ。ほら、さっさとついて参れ」
◆◆◆
「うむ、あれが貴様の欲望の対象、赤屍玲奈で間違いないの?」
「いや、そうだけど……」
夜のコンビニでファッション雑誌を立ち読みする赤屍を、僕たちは向かいのマンションの3階から見ていた。
「ほぉー、また随分とエロい身体をしておるの。貴様、ああいうボイン系がタイプじゃったか」
「――――!」
その言葉に、顔から火が噴き出しそうなくらいに、恥ずかしさが込み上げてきた。
「胸のサイズは……こちらの世界でいうところのGカップというところじゃな。16、7の小娘であれは相当のものじゃ。交尾経験レベルは2と少々低いが、まぁこれから仕込めば問題あるまい」
「何をやってるんだよ!」
リリムは手で単眼鏡を作り、赤屍のことをじっくり観察していた。
「クックックッ――常彦じゃったな。朗報じゃ、あやつ湯浴びした直後でノーブラじゃ」
「もうやめてよ!」
「貴様、何をそんなに怯えておるのじゃ? あの雌とまぐわりたいのじゃろ? ならば我に任せておけ」
「いや、でも……彼女の彼氏――後藤は後藤組の組長の息子なんだよ。バレたら本当にヤバいんだって。一年の頃なんて、彼女と二人きりでカラオケに行ったっていう男子生徒が、翌日ひき逃げにあったんだよ!」
「うむ、帝国マフィアのようなものじゃろ。問題ない」
「大アリだよ! 魔族だか魔王の娘だか知らないけど、ヤクザをなめてたらマジで殺されるんだからっ!」
「クックックッ――ガッハハハハ!!」と、僕の忠告をリリムは腹を抱えて笑い飛ばした。
「魔力も持たぬ人間など、ただの害虫ではないか。安心せい、その後藤とかいう人間より、今の貴様のほうが強い」
「そんなわけないだろ! 僕はこれまで喧嘩だってしたことがないんだ。というか、どうやって赤屍さんを口説くんだよ」
「本人に直接、貴様と交尾をするよう言うに決まっておるじゃろ」
「なっ、何言ってんだよ!? そんなもん断られるに決まってるだろ! 後藤に報告されて殺されるのは僕なんだぞ! ふざけるなっ!」
「まあ、我に任せておけ」
「おい、ふざけんなよ! 止まれよ!」
ああ、ダメだ……。
僕の人生が本当に終わってしまう。
僕の制止を振り切り、マンションを出たリリムはまっすぐコンビニへ向かった。
横断歩道を渡り、ほとんど人のいないコンビニまであと10メートルの距離に差し掛かると、僕は違和感を覚えていた。
「人が……いない!?」
マンションの3階から見下ろしていたときには、確かに人々がいた。コンビニの前にたむろしていた不審な連中も、駐車場に停まっていた車も、今ではどこかに姿を消している。それだけではない。道路を行き交う車が一台も見当たらなかった。
「人払いは済んでおる。行くぞ、常彦」
「人払い!?」
リリムは一体何をしようとしているんだろう。
自信に満ちた様子でコンビニのドアを開けたリリムは、雑誌コーナーで立ち読みをしている赤屍の前で立ち止まった。
「は……? 何なの、こいつ……」
真横に立って顔を覗き込んでくるリリムにドン引きする赤屍と、僕は目が合ってしまった。
「って、あんた神々廻じゃない。この変なコスプレイヤー、あんたの知り合い?」
「いや、えーと……その」
「違うの? はっきりしなさいよ!」
僕は躊躇っていた。
確かに知り合いではあるが、今の状況ではどう説明したら良いのか分からない。僕の頭は急速に回転し、言葉が詰まってしまう。リリムとの関係を説明するのは難しく、そして何より、彼女のことを隠す必要があると感じていた。
リリムが赤屍に変なことを言う前に彼女を止めなければ、自分の命が危険にさらされるかもしれない。
「貴様、我の配下となり、常彦と交尾をするのじゃ」
「は?」
「――――っ!?」
突然なんてことを言うんだ。
彼女の表情は一瞬にして驚きに変わり、しばらくリリムの顔を見つめていた。何を言われたのかを必死で理解しようとしていた。やがて彼女の顔は真っ赤に染まり、怒りの火花が瞳から飛び散った。
「なっ、なんで、あ、ああああたしが神々廻とセッ、セックスしなきゃいけないのよっ! それにあんたみたいなキモオタ女の舎弟になんてなるわけないでしょ! あたしを誰だと思ってんのよ! ――神々廻ッ!」
激情に駆られた赤屍が、僕の名前を叫びながら怒りのまなざしで近づいてくる。
「あっ、あんたあたしにこんなすけべなこと言ってただで済むと思ってるわけ! あたしがこのことを太一に言えば――……ん?」
「……ひぃっ!?」
怒りに満ちた赤屍に胸元をつかまれた瞬間、温かい何かが僕の全身に飛び散った。
目の前の赤屍は、まるで不思議な魔法がかかったかのように、驚きと困惑の表情を浮かべていた。
「何よ、これ……?」
彼女の腹部からは黒い塊が顔をのぞかせていた。赤屍の背後に立つリリムが、大鎌で彼女の体を貫いていたのだ。
「いっ、いやあああああああああああッ!? ゲボッ――」
絶叫が店内に響き渡った直後、大鎌が勢いよく引き抜かれた。同時に、赤屍の口からは蛇口をひねったかのような鮮血が噴き出した。恐怖に怯え、僕はその場に臀部を打ちつけていた。
「――――っ!?」
そして次の瞬間、リリムが大鎌を振り回し、赤屍の頭部がまるでレゴ人形のように取れてしまった。
「……あ゛ぁ゛………ぁ゛」
床を転がる頭部と目が合った刹那――
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?」
僕は喉が焼け切れるほど大絶叫しながら、コンビニから逃げ出そうとしたのだが、
「待たんか」
悪魔に捕まってしまった。
魔虫を寄生させるためには、魔虫の中身が詰まった琥珀を体内に取り込まなければならない。要するに、琥珀を呑みこんでしまうことだ。
「うわっ、まずっ」
実際には味はないのだが、それでも気持ちの悪い感覚が広がる。二日酔いをした大人はこんな感じなのだろう。
「よし、これで貴様にも魔力が備わったの」
「本当かな……?」
特に何かが変わったという感覚はない。
てっきり腹の底からグワーッと力がみなぎってくる感覚を期待していたのだが。
「手始めに、我が配下と交尾してみるとよい」
「え! さっそくできるんですか!」
うわー、すごく緊張するな。なんたって230万年越しの初体験なんだもんな。
わくわく♪
「でも、リリムの配下ってどこにいるんですか?」
「うむ、少し待て、今召喚してやる」
リリムが手を横に軽く振ると、夜空に禍々しい魔法陣が現れた。
「おおっ、すごい!」
リリムがこれほど美しいということは、魔族は非常に美しい一族なのかもしれない。もしも、ダークエルフ族やウィッチ族といった魔族が初めての相手だったら、それは一生忘れられない素晴らしい経験になるだろう。
想像しただけで、胸がワクワクと高鳴っていくのが感じられた。
来るかっ!
魔法陣がどす黒い光を放つと、そこからスタイル抜群の骨が現れた。
……ん、骨?
「げっ!? ばっ、ばけもの!」
「化け物ではない。我が配下の一人、リッチじゃ」
どこから見ても不気味な骨だ。
ドレスを身にまとった性別不明のこの骨と、リリムは僕に交尾をするよう言ってきた。
「できるわけないだろ!」
「なぜじゃ? 彼女は生前、帝国の薔薇と謳われたほどの絶世の美女だったんじゃぞ?」
「そんな過去の栄光知らないよ! 今はただの骨じゃないか! 胸もなければ、そ、挿入口だってないじゃないか! こんなのでどうやって初体験しろって言うんだ!」
「しかし、まだこちらに適応できていない我の魔力では、リッチを召喚することが精いっぱいなのじゃ。今回のところはこれで我慢してはくれんか?」
「チェンジ!」
230万年もの間待ち望んでいた初めての経験が骨とか、これまでの僕たちに申し訳がなさすぎる。絶対に妥協はしない。
「しかしじゃな――」
「チェンジ! 絶対にチェンジだから!」
僕は断固として拒否の姿勢を崩さなかった。
「やっぱりリリムが相手してよ。僕にももう魔力があるんだよね? なら少しくらいなら大丈夫なんじゃないの?」
「無理を言うでないわ。貴様を殺してしまうじゃろ。もしも貴様が死ねば、魔族は滅びるのじゃ。安易な行動は許されん」
言い換えれば、僕の魔力が増えればリリムと合体できる可能性があるということだ。
「それなら、魔力を増やす方法を教えてよ。魔力が増えればリリムとできるってことだよね?」
リリムと初めての経験をするためなら、少しくらいの無茶はする覚悟だ。
「魔虫に栄養を与えればよい」
「魔虫は何が好きなの? まさかラーメンとかじゃないよね?」
ウキウキと笑顔で尋ねた僕に、「それは寄生者の欲望じゃ」と、意味深な答えが返ってきた。
「寄生者の欲望……なにそれ?」
「早い話が、貴様の欲望じゃな」
「詳しく教えて」
「うーん、例えばじゃ、人間はお金が好きじゃろ? この世界の人間も根本的には同じじゃろう」
僕は頷いて肯定した。
「使い切れないくらいの財宝を手に入れたなら、貴様の欲望は充たされないか? あるいは、この世の女性を一人残らず服従させることができたなら、どうじゃ? 今まで自分をバカにし、見下していた相手の女が自分の物をしゃぶっておる。想像するのじゃ……貴様の自尊心は充たされ、快楽と欲望が充たされていくじゃろ?」
もしも、後藤の彼女である赤屍さんとそういう関係になれたとしたら。
それはまさに至高のざまあであり、最高のNTRだ。
「うっ……」
考えただけで、体が疼いた。
「うむ、なるほど。貴様の欲望はそこか――ならばついてこい」
「えっ、どこに行くの?」
「配下を召喚できぬのなら、この世界で手に入れるまでじゃ」
「手に入れるって……何を?」
「赤屍玲奈をNTRしに行くに決まっておるじゃろ」
「ちょっ、嘘だろ! つーか、何で赤屍さんのこと知ってるんだよ!」
「貴様の考えなど我にはすべてぱっくりお見通しじゃ。ほら、さっさとついて参れ」
◆◆◆
「うむ、あれが貴様の欲望の対象、赤屍玲奈で間違いないの?」
「いや、そうだけど……」
夜のコンビニでファッション雑誌を立ち読みする赤屍を、僕たちは向かいのマンションの3階から見ていた。
「ほぉー、また随分とエロい身体をしておるの。貴様、ああいうボイン系がタイプじゃったか」
「――――!」
その言葉に、顔から火が噴き出しそうなくらいに、恥ずかしさが込み上げてきた。
「胸のサイズは……こちらの世界でいうところのGカップというところじゃな。16、7の小娘であれは相当のものじゃ。交尾経験レベルは2と少々低いが、まぁこれから仕込めば問題あるまい」
「何をやってるんだよ!」
リリムは手で単眼鏡を作り、赤屍のことをじっくり観察していた。
「クックックッ――常彦じゃったな。朗報じゃ、あやつ湯浴びした直後でノーブラじゃ」
「もうやめてよ!」
「貴様、何をそんなに怯えておるのじゃ? あの雌とまぐわりたいのじゃろ? ならば我に任せておけ」
「いや、でも……彼女の彼氏――後藤は後藤組の組長の息子なんだよ。バレたら本当にヤバいんだって。一年の頃なんて、彼女と二人きりでカラオケに行ったっていう男子生徒が、翌日ひき逃げにあったんだよ!」
「うむ、帝国マフィアのようなものじゃろ。問題ない」
「大アリだよ! 魔族だか魔王の娘だか知らないけど、ヤクザをなめてたらマジで殺されるんだからっ!」
「クックックッ――ガッハハハハ!!」と、僕の忠告をリリムは腹を抱えて笑い飛ばした。
「魔力も持たぬ人間など、ただの害虫ではないか。安心せい、その後藤とかいう人間より、今の貴様のほうが強い」
「そんなわけないだろ! 僕はこれまで喧嘩だってしたことがないんだ。というか、どうやって赤屍さんを口説くんだよ」
「本人に直接、貴様と交尾をするよう言うに決まっておるじゃろ」
「なっ、何言ってんだよ!? そんなもん断られるに決まってるだろ! 後藤に報告されて殺されるのは僕なんだぞ! ふざけるなっ!」
「まあ、我に任せておけ」
「おい、ふざけんなよ! 止まれよ!」
ああ、ダメだ……。
僕の人生が本当に終わってしまう。
僕の制止を振り切り、マンションを出たリリムはまっすぐコンビニへ向かった。
横断歩道を渡り、ほとんど人のいないコンビニまであと10メートルの距離に差し掛かると、僕は違和感を覚えていた。
「人が……いない!?」
マンションの3階から見下ろしていたときには、確かに人々がいた。コンビニの前にたむろしていた不審な連中も、駐車場に停まっていた車も、今ではどこかに姿を消している。それだけではない。道路を行き交う車が一台も見当たらなかった。
「人払いは済んでおる。行くぞ、常彦」
「人払い!?」
リリムは一体何をしようとしているんだろう。
自信に満ちた様子でコンビニのドアを開けたリリムは、雑誌コーナーで立ち読みをしている赤屍の前で立ち止まった。
「は……? 何なの、こいつ……」
真横に立って顔を覗き込んでくるリリムにドン引きする赤屍と、僕は目が合ってしまった。
「って、あんた神々廻じゃない。この変なコスプレイヤー、あんたの知り合い?」
「いや、えーと……その」
「違うの? はっきりしなさいよ!」
僕は躊躇っていた。
確かに知り合いではあるが、今の状況ではどう説明したら良いのか分からない。僕の頭は急速に回転し、言葉が詰まってしまう。リリムとの関係を説明するのは難しく、そして何より、彼女のことを隠す必要があると感じていた。
リリムが赤屍に変なことを言う前に彼女を止めなければ、自分の命が危険にさらされるかもしれない。
「貴様、我の配下となり、常彦と交尾をするのじゃ」
「は?」
「――――っ!?」
突然なんてことを言うんだ。
彼女の表情は一瞬にして驚きに変わり、しばらくリリムの顔を見つめていた。何を言われたのかを必死で理解しようとしていた。やがて彼女の顔は真っ赤に染まり、怒りの火花が瞳から飛び散った。
「なっ、なんで、あ、ああああたしが神々廻とセッ、セックスしなきゃいけないのよっ! それにあんたみたいなキモオタ女の舎弟になんてなるわけないでしょ! あたしを誰だと思ってんのよ! ――神々廻ッ!」
激情に駆られた赤屍が、僕の名前を叫びながら怒りのまなざしで近づいてくる。
「あっ、あんたあたしにこんなすけべなこと言ってただで済むと思ってるわけ! あたしがこのことを太一に言えば――……ん?」
「……ひぃっ!?」
怒りに満ちた赤屍に胸元をつかまれた瞬間、温かい何かが僕の全身に飛び散った。
目の前の赤屍は、まるで不思議な魔法がかかったかのように、驚きと困惑の表情を浮かべていた。
「何よ、これ……?」
彼女の腹部からは黒い塊が顔をのぞかせていた。赤屍の背後に立つリリムが、大鎌で彼女の体を貫いていたのだ。
「いっ、いやあああああああああああッ!? ゲボッ――」
絶叫が店内に響き渡った直後、大鎌が勢いよく引き抜かれた。同時に、赤屍の口からは蛇口をひねったかのような鮮血が噴き出した。恐怖に怯え、僕はその場に臀部を打ちつけていた。
「――――っ!?」
そして次の瞬間、リリムが大鎌を振り回し、赤屍の頭部がまるでレゴ人形のように取れてしまった。
「……あ゛ぁ゛………ぁ゛」
床を転がる頭部と目が合った刹那――
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?」
僕は喉が焼け切れるほど大絶叫しながら、コンビニから逃げ出そうとしたのだが、
「待たんか」
悪魔に捕まってしまった。