第6話 やっぱりキスだけじゃ全然回復しない!
文字数 2,895文字
昨夜の出来事を思い出して顔を赤らめている僕に、彼女は「じゃあ、先に教室に戻るわね」とだけ言って、スカートを翻して階段を上っていった。
「う、うん」
僕は彼女の後ろ姿に声をかけ、しばらくぼーっと立ちつくしていた。
「あっ、からあげクン渡さなきゃ!」
彼女の後を追いかけるように、僕も急いで教室に戻った。
4時限目が終わって昼休みになると、クラスメイトたちは一斉に食堂へ向かって歩き始めた。その中には後藤たち不良の姿もあり、彼の隣には赤屍さんの姿もあった。
「好きだよ、神々廻」
行為中、彼女が何度も言ってくれた言葉を思い出し、僕はひとり優越感に浸っていた。
誰も思いもしないだろうな。あの後藤の彼女と昨夜、僕が一晩中コンビニでセックスしていたなんて。もしクラスのみんなが知ったらどう思うのだろう。
ピロリロリン♪
独りぼっちの教室で夢見心地に浸っていると、赤屍さんからLINEが届いた。
【やっぱりキスだけじゃ全然回復しないみたい。神々廻、食堂近くのトイレ来れる?】
「そりゃ僕だって赤屍さんとやりたいけど、できれば学校では避けたいんだよな」
万が一僕たちの関係が後藤に知られてしまえば、最悪殺されてしまうかもしれない。
【昨夜魔力残量は100%になっていたよね? 魔力ってそんなに早く無くなるの?】
仮に何もしなくても魔力の消費率が高いとなると、赤屍さんと常に一緒にいなければならない可能性も考えられる。そうなれば、僕たちの関係が後藤に知られるのも時間の問題かもしれない。
【残量はまだ81%くらいあるかな】
「いや、めちゃくちゃあるじゃん!」
それならわざわざ危険を冒して、学校で接触する必要はないと思う。
そのように伝えると、
【は?】
赤屍さんの機嫌が悪くなった。
【回復できるうちに魔力を回復させとこうって考えなのがわからないの? あたしの側にいつも神々廻がいるわけじゃないよね? 会えない時だってあるんじゃないの?】
【赤屍さんに呼ばれたら、僕はどこにでも駆けつけるつもりだよ。だから、心配しなくても大丈夫だよ】
僕は赤屍さんを安心させようと思ったのだけど、彼女の返信は違った。
【神々廻、忘れてない? あたし後藤の女だよ?】
後藤の女という言葉に、僕の胸がチクリと痛んだ。そんなことはわかっていることだけど、改めて彼女から言われると、やっぱりショックだった。
【そんなのいちいち言われなくてもわかってるよ!】
【分かってないから言ってるんじゃん! あたしが後藤の家やラブホに呼び出されたら、そのとき魔力残量が尽きかけていたら、神々廻どうするの? ラブホや後藤の家に来てくれる? そこであたしのこと抱ける?】
「……っ」
言葉では言い表せない程のショックに、僕の心臓は槍で突かれてしまったかのように大きな穴が空いていた。
【別れられないの?】
身勝手なことを言っていることは十分理解している。でも、できることなら後藤と別れてほしい。彼女が僕の恋人になってくれることを願ってしまうんだ。
【別れてほしい?】
【そりゃ別れてほしいよ!】
【それって……あたしと付き合いたいってことでいいんだよね?】
【うん。僕は赤屍さんと付き合いたい! 僕だけの赤屍さんになってほしいんだ!】
【わかった。なら、少し怖いけど別れる】
【ホントに!? すごく嬉しいよ!】
【でも、太一には神々廻から言って】
【何を?】
【あたしと別れるように】
「え……なんで僕………」
赤屍さんと別れてくれ! そんなこと言ったら、僕は間違いなく後藤に殺される。
【そもそもあたし、1年の頃に太一の告白断っているんだよね】
【そうなの?】
【つーかあたし、中学の頃から付き合ってる彼氏いたしね】
【え……? じゃあなんで後藤と付き合ってるの?】
【知らない。そんなのあたしが聞きたいくらい】
【どういうこと?】
【気がついたら俺の彼女だから、てめぇら手ぇ出すんじゃねぇーぞって、みんなの前で宣言されていたのよ。もう、意味がわかんないわよ。そのあと付き合ってないよね? って言ったら、俺に恥かかせる気かって怒鳴られて、めっちゃ殴られた】
赤屍さんの顔や身体にできていた痣はそのせいだったのか。
【その時の彼氏は何も言わなかったの?】
【あたしの顔にできた痣見てブチギレてたよ】
【後藤に僕の彼女だって言ったの?】
【別々の高校だったんだけど、わざわざ高校まで来てくれて、後藤に俺の女だって言ってくれたよ。ちょっとカッコ良かった。彼氏も中学時代結構ヤンチャしてる人だったから、喧嘩には自信あったみたいよ】
【で、どうなったの?】
【入院した。袋叩きに遭って全治4ヶ月】
【なんで後藤は警察に捕まってないの!?】
【彼氏の家族が被害届取り下げて、息子は自宅の階段から落ちただけって言い張ったから】
【なんで!?】
【家族全員、後藤組にかなり脅されたらしいわよ。彼氏のお父さんはそこそこ有名な会社に勤めてたんだけど、子会社に左遷が決まって、家族全員引っ越しちゃった】
マジかよ……。
後藤組のヤバさは知っていた。高校に入学してすぐ、後藤組の息子がいることを知った僕は、いじめの対象にされた時のことを考えて情報を集めていた。でも、みんな大げさに話しているだけだと思っていた。
家族にまで危害が及ぶ……?
「全然大袈裟じゃないじゃないかっ!」
もしも僕が赤屍さんと別れろなんて言った日には、間違いなく殺される。
「どうすればいいんだよ!」
頭を抱える僕のもとに、次々と赤屍さんからLINEが届く。
【やっぱり怖くなった?】
【当然だよね、あたしも怖いもん】
【……今のは冗談だから忘れて】
【魔力もまだ80%以上あるし、補充は明日でも大丈夫だから】
【あっ、でも、明日はあたしとエッチしてね(笑)】
僕は結局、LINEの返信ができなかった。
5時限目が始まる少し前に、赤屍さんは後藤たちと一緒に教室に戻ってきた。彼女はいつものように仲間のギャルたちと楽しそうに騒いでいたが、僕の気持ちは重く、まるで絶望の淵に立たされたかのようだった。
「玲奈、このあとカラオケ行かない?」
「あー……」
ホームルームが終わると、赤屍さんは友達にカラオケに誘われていた。しかし、すぐには返事をせず、チラチラと後藤の様子を気にしていた。
「あ、あのさ、太一。渚たちがカラオケに行こうって誘ってくれてるんだけど……行っていい、かな?」
「好きにしろよ。俺は今日、組の連中の取引に付き合わなきゃいけないからさ」
後藤は堂々と犯罪宣言をし、ロン毛を掻き上げ、威張り散らすように教室を出て行った。赤屍さんは安心したように息をついて、友達たちと共に教室を去った。
僕は教室の窓からぼんやりとした空を眺めていた。
「帰ろ……」
昼間の赤屍さんとのやり取りが頭から離れず、モヤモヤした気持ちのまま帰宅するのは避けたかったので、僕はひとりで街をふらついていた。
すると、グゥ~と胃の中から軽い音が響いてきた。考え込むと腹が減るものだ。
「いらっしゃいませじゃ」
「げっ!?」
小腹が空いたので近くのハンバーガーショップに入ると、カウンターにはにっこり微笑む魔王の娘が立っていた。
「う、うん」
僕は彼女の後ろ姿に声をかけ、しばらくぼーっと立ちつくしていた。
「あっ、からあげクン渡さなきゃ!」
彼女の後を追いかけるように、僕も急いで教室に戻った。
4時限目が終わって昼休みになると、クラスメイトたちは一斉に食堂へ向かって歩き始めた。その中には後藤たち不良の姿もあり、彼の隣には赤屍さんの姿もあった。
「好きだよ、神々廻」
行為中、彼女が何度も言ってくれた言葉を思い出し、僕はひとり優越感に浸っていた。
誰も思いもしないだろうな。あの後藤の彼女と昨夜、僕が一晩中コンビニでセックスしていたなんて。もしクラスのみんなが知ったらどう思うのだろう。
ピロリロリン♪
独りぼっちの教室で夢見心地に浸っていると、赤屍さんからLINEが届いた。
【やっぱりキスだけじゃ全然回復しないみたい。神々廻、食堂近くのトイレ来れる?】
「そりゃ僕だって赤屍さんとやりたいけど、できれば学校では避けたいんだよな」
万が一僕たちの関係が後藤に知られてしまえば、最悪殺されてしまうかもしれない。
【昨夜魔力残量は100%になっていたよね? 魔力ってそんなに早く無くなるの?】
仮に何もしなくても魔力の消費率が高いとなると、赤屍さんと常に一緒にいなければならない可能性も考えられる。そうなれば、僕たちの関係が後藤に知られるのも時間の問題かもしれない。
【残量はまだ81%くらいあるかな】
「いや、めちゃくちゃあるじゃん!」
それならわざわざ危険を冒して、学校で接触する必要はないと思う。
そのように伝えると、
【は?】
赤屍さんの機嫌が悪くなった。
【回復できるうちに魔力を回復させとこうって考えなのがわからないの? あたしの側にいつも神々廻がいるわけじゃないよね? 会えない時だってあるんじゃないの?】
【赤屍さんに呼ばれたら、僕はどこにでも駆けつけるつもりだよ。だから、心配しなくても大丈夫だよ】
僕は赤屍さんを安心させようと思ったのだけど、彼女の返信は違った。
【神々廻、忘れてない? あたし後藤の女だよ?】
後藤の女という言葉に、僕の胸がチクリと痛んだ。そんなことはわかっていることだけど、改めて彼女から言われると、やっぱりショックだった。
【そんなのいちいち言われなくてもわかってるよ!】
【分かってないから言ってるんじゃん! あたしが後藤の家やラブホに呼び出されたら、そのとき魔力残量が尽きかけていたら、神々廻どうするの? ラブホや後藤の家に来てくれる? そこであたしのこと抱ける?】
「……っ」
言葉では言い表せない程のショックに、僕の心臓は槍で突かれてしまったかのように大きな穴が空いていた。
【別れられないの?】
身勝手なことを言っていることは十分理解している。でも、できることなら後藤と別れてほしい。彼女が僕の恋人になってくれることを願ってしまうんだ。
【別れてほしい?】
【そりゃ別れてほしいよ!】
【それって……あたしと付き合いたいってことでいいんだよね?】
【うん。僕は赤屍さんと付き合いたい! 僕だけの赤屍さんになってほしいんだ!】
【わかった。なら、少し怖いけど別れる】
【ホントに!? すごく嬉しいよ!】
【でも、太一には神々廻から言って】
【何を?】
【あたしと別れるように】
「え……なんで僕………」
赤屍さんと別れてくれ! そんなこと言ったら、僕は間違いなく後藤に殺される。
【そもそもあたし、1年の頃に太一の告白断っているんだよね】
【そうなの?】
【つーかあたし、中学の頃から付き合ってる彼氏いたしね】
【え……? じゃあなんで後藤と付き合ってるの?】
【知らない。そんなのあたしが聞きたいくらい】
【どういうこと?】
【気がついたら俺の彼女だから、てめぇら手ぇ出すんじゃねぇーぞって、みんなの前で宣言されていたのよ。もう、意味がわかんないわよ。そのあと付き合ってないよね? って言ったら、俺に恥かかせる気かって怒鳴られて、めっちゃ殴られた】
赤屍さんの顔や身体にできていた痣はそのせいだったのか。
【その時の彼氏は何も言わなかったの?】
【あたしの顔にできた痣見てブチギレてたよ】
【後藤に僕の彼女だって言ったの?】
【別々の高校だったんだけど、わざわざ高校まで来てくれて、後藤に俺の女だって言ってくれたよ。ちょっとカッコ良かった。彼氏も中学時代結構ヤンチャしてる人だったから、喧嘩には自信あったみたいよ】
【で、どうなったの?】
【入院した。袋叩きに遭って全治4ヶ月】
【なんで後藤は警察に捕まってないの!?】
【彼氏の家族が被害届取り下げて、息子は自宅の階段から落ちただけって言い張ったから】
【なんで!?】
【家族全員、後藤組にかなり脅されたらしいわよ。彼氏のお父さんはそこそこ有名な会社に勤めてたんだけど、子会社に左遷が決まって、家族全員引っ越しちゃった】
マジかよ……。
後藤組のヤバさは知っていた。高校に入学してすぐ、後藤組の息子がいることを知った僕は、いじめの対象にされた時のことを考えて情報を集めていた。でも、みんな大げさに話しているだけだと思っていた。
家族にまで危害が及ぶ……?
「全然大袈裟じゃないじゃないかっ!」
もしも僕が赤屍さんと別れろなんて言った日には、間違いなく殺される。
「どうすればいいんだよ!」
頭を抱える僕のもとに、次々と赤屍さんからLINEが届く。
【やっぱり怖くなった?】
【当然だよね、あたしも怖いもん】
【……今のは冗談だから忘れて】
【魔力もまだ80%以上あるし、補充は明日でも大丈夫だから】
【あっ、でも、明日はあたしとエッチしてね(笑)】
僕は結局、LINEの返信ができなかった。
5時限目が始まる少し前に、赤屍さんは後藤たちと一緒に教室に戻ってきた。彼女はいつものように仲間のギャルたちと楽しそうに騒いでいたが、僕の気持ちは重く、まるで絶望の淵に立たされたかのようだった。
「玲奈、このあとカラオケ行かない?」
「あー……」
ホームルームが終わると、赤屍さんは友達にカラオケに誘われていた。しかし、すぐには返事をせず、チラチラと後藤の様子を気にしていた。
「あ、あのさ、太一。渚たちがカラオケに行こうって誘ってくれてるんだけど……行っていい、かな?」
「好きにしろよ。俺は今日、組の連中の取引に付き合わなきゃいけないからさ」
後藤は堂々と犯罪宣言をし、ロン毛を掻き上げ、威張り散らすように教室を出て行った。赤屍さんは安心したように息をついて、友達たちと共に教室を去った。
僕は教室の窓からぼんやりとした空を眺めていた。
「帰ろ……」
昼間の赤屍さんとのやり取りが頭から離れず、モヤモヤした気持ちのまま帰宅するのは避けたかったので、僕はひとりで街をふらついていた。
すると、グゥ~と胃の中から軽い音が響いてきた。考え込むと腹が減るものだ。
「いらっしゃいませじゃ」
「げっ!?」
小腹が空いたので近くのハンバーガーショップに入ると、カウンターにはにっこり微笑む魔王の娘が立っていた。