第3話 時の首相からの依頼
文字数 2,632文字
黒ベンツは、いつの間にか首都高速を走り、都心へと向かっている。
「あの・・・どこへ・・・」
雅は、どうしても疑問だった。
どこに行くのか、誰に会うのか、何の用事なのか、そもそも祥子から何も聞いていない。
予定を忘れていたとか、シャツのボタンのズレとか、多少の落ち度はあるものの、そもそもの今日の予定の「発端」がわからない。
しかし、なかなか雅は、祥子に聞き出せない。
それも、そのはずだ。
祥子の手が雅の手を、ふんわりと包んでいるし、そういうことに「不慣れでウブな」雅は、またしても、固まってしまった。
まるで、「置石状態」といっても差し支えはない。
そんな状態の中、黒ベンツは首都高速をおりた。
銀座の街が見えて来ている。
「雅君、もうすぐだよ」
「雅君の全ての疑問は、これからお会いするお方が教えてくれる」
「大丈夫、心配はしないでね」
築地の本願寺が見えてきたところで、ずっと車内では無言だった祥子から声をかけられた。
「あ・・・はい・・・」
「置石」の雅であるが、なんとか反応した。
「クスッ」
そんな雅を祥子が軽く笑った。
そして、雅の手を少し強く握る。
黒ベンツは、そのまま本願寺の駐車場に入った。
「え・・・、ここ?」
「築地の本願寺でってこと?」
雅は、それでも勇気を振り絞って祥子に尋ねてみた。
「うーん、正確には、少し違うんだけどね」
祥子がそう答えると、突然黒ベンツが下に下がり出した。
「・・・?」
車が地下にもぐっているらしい。
頭上で、扉が閉まる音が聞こえた。
数十秒の間、車は下がり続けた。
そして、車の低下が止まると同時に、車の前に頑丈な扉が見えている。
「着きましたよ、雅君」
祥子は雅の腕を組んできた。
そして腕を組みながら、黒ベンツを降りた。
雅は、全くの無抵抗状態、またしても「頭が大混乱」となった。
「さあ、お待ちかねですよ」
祥子は、そう言いながら、何か金色のカードのようなものを、扉にかざした。
「雅君にも、今日、このカードは渡されるから・・・」
そう言い終えると、扉が左右に開いた。
「わっ・・・」
扉が左右に開くと同時に、足元が動いた。
「あはは、転ばないでね、動く歩道になっています・・・」
祥子は、再び腕を組んで来る。
「いったい、ここは・・・」
思わず口に出る。
動く歩道は、上質なフカフカの赤いじゅうたん。
両方の壁は、黄金・・・
あっけにとられて、声も出ない。
ほどなくして、今度は黄金の扉の前で歩道は止まり、再び祥子はカードをかざす。
黄金の扉が開くと同時に、一人の男が立っていた。
「え?・・・あなたは・・・」
雅は、思わず声をあげた。
こんな人が自分の前にいることが、信じられないでいる。
その男は、にこっと笑った。
そして、その男から、発せられた言葉も、信じがたいものであった。
「お待ちしておりました。天使長ミカエル様が、お待ちかねです、雅君」
「大丈夫です、心配いりません」
雅は、祥子と腕を組んだまま、その信じがたい人の後をついて歩く、いや歩いていくしかない。
逃げようにもどうやって逃げたらいいのか、わからない。
大きなそして厳めしい木製の扉に前に立つと、自動で扉は開き、大きなテーブルが見えている。
どうやら、ここは会議室のようだ。
「こちらへ・・雅君」
促されて、これもまた豪華な椅子に座る。
男は、雅の正面に座った。
祥子は雅の右隣。
マホガニーだろうか、とにかくどっしりとしたテーブルと椅子。
壁には、様々な天使の絵画、天上は宝石を散りばめたシャンデリアが輝いている。
「状況が、よくおわかりではないでしょうが・・・」
男は、少し頭を下げた。
「・・・」
言葉が出てこない。
どう見ても、目の前の男は、時の「首相」。
「その通りです。あなたの感じた通りの人物です」
「今は、何も話さないで結構です。わからないのも、当然です」
男は雅の感じた通り、時の「首相」と自認した。
そして、にこやかだ。
「理解できないでしょうが、事実だけを率直に伝えさせていただきます」
首相は、少し真顔になった。
「雅君には、特別の任務を行っていただきます」
「そして、その任務とは、我が国のことだけではありません」
「あらゆる国において、その任務が与えられます」
「もちろん、我々の政府、そして各国の政府は、惜しみない援助を行います」
「もちろん、そのために一定のガイダンスといっても、ほんの少し・・・」
「これは本当に信じられないとは思いますが・・・」
首相はここで、ひとつ間を挟んだ。
そして、本当に腰が抜けるような言葉を口にした。
「天使長ミカエル様がお待ちです」
「天使長ミカエル様にお会いしていただきます」
「雅君がこの時代の、大天使ラファエルに指名されました」
首相は、そこまで言い終えて、雅の顔をじっと見つめている。
「突然ラファエルって言われても・・・それに・・・」
「・・・任務、日本だけでなく、外国でも・・・そして惜しみない援助・・・、よく意味がわからないのですが・・・」
「そもそも、今日の朝からの出来事が、あまりにも不可解なことが続いていて・・・」
雅は、不安で身体がガタガタと震えている。
「心配はいりません」
首相からニッコリと断言されてしまった。
「この件につきましては、天使長ミカエル様のお計らいとしか・・とにかく、この任務のために、雅君がラファエルとして選ばれたとしか・・・、私も日本政府の長として、天使長ミカエル様のご依頼をむげにできず・・・」
首相は、至って真顔である。
雅はここで何を考えたらいいのか、何をしたらいいのか、全くわからなくなった。
身体が、また「ド緊張」で固まってしまっている。
「大丈夫だよ、雅君」
「時の首相、そして天使長ミカエルの頼みを受けましょう」
祥子までが首相に続いた。
目の前の首相は、真顔のまま。
そうはいっても、そもそも天使長ミカエルだことのラファエルなど、「おとぎ話」の絵本でしか見たことがないし、目の前の「首相」も、普段の生活からすれば、ありえないことで不安も強い。
それに、そもそも天使がどうのこうのと言われても意味そのものがわからない。
何か夢なら覚めて欲しい。
しかし・・・この状態で、信じる以外はないのでは・・・逃げだせる状況ではないことは現実である。
「祥子さんは、母さんの顔も名前も知っているし・・・」
「ここは、祥子さんを信じようか」
「よくわからないけど・・・」
雅は、ここで考えるのを止めてしまった。
「しかたないか・・・受けます」
雅は、もう何も考えなかった。
受けようと「思ってしまった」。
そして、言葉を発した瞬間、異変が発生した。
「あの・・・どこへ・・・」
雅は、どうしても疑問だった。
どこに行くのか、誰に会うのか、何の用事なのか、そもそも祥子から何も聞いていない。
予定を忘れていたとか、シャツのボタンのズレとか、多少の落ち度はあるものの、そもそもの今日の予定の「発端」がわからない。
しかし、なかなか雅は、祥子に聞き出せない。
それも、そのはずだ。
祥子の手が雅の手を、ふんわりと包んでいるし、そういうことに「不慣れでウブな」雅は、またしても、固まってしまった。
まるで、「置石状態」といっても差し支えはない。
そんな状態の中、黒ベンツは首都高速をおりた。
銀座の街が見えて来ている。
「雅君、もうすぐだよ」
「雅君の全ての疑問は、これからお会いするお方が教えてくれる」
「大丈夫、心配はしないでね」
築地の本願寺が見えてきたところで、ずっと車内では無言だった祥子から声をかけられた。
「あ・・・はい・・・」
「置石」の雅であるが、なんとか反応した。
「クスッ」
そんな雅を祥子が軽く笑った。
そして、雅の手を少し強く握る。
黒ベンツは、そのまま本願寺の駐車場に入った。
「え・・・、ここ?」
「築地の本願寺でってこと?」
雅は、それでも勇気を振り絞って祥子に尋ねてみた。
「うーん、正確には、少し違うんだけどね」
祥子がそう答えると、突然黒ベンツが下に下がり出した。
「・・・?」
車が地下にもぐっているらしい。
頭上で、扉が閉まる音が聞こえた。
数十秒の間、車は下がり続けた。
そして、車の低下が止まると同時に、車の前に頑丈な扉が見えている。
「着きましたよ、雅君」
祥子は雅の腕を組んできた。
そして腕を組みながら、黒ベンツを降りた。
雅は、全くの無抵抗状態、またしても「頭が大混乱」となった。
「さあ、お待ちかねですよ」
祥子は、そう言いながら、何か金色のカードのようなものを、扉にかざした。
「雅君にも、今日、このカードは渡されるから・・・」
そう言い終えると、扉が左右に開いた。
「わっ・・・」
扉が左右に開くと同時に、足元が動いた。
「あはは、転ばないでね、動く歩道になっています・・・」
祥子は、再び腕を組んで来る。
「いったい、ここは・・・」
思わず口に出る。
動く歩道は、上質なフカフカの赤いじゅうたん。
両方の壁は、黄金・・・
あっけにとられて、声も出ない。
ほどなくして、今度は黄金の扉の前で歩道は止まり、再び祥子はカードをかざす。
黄金の扉が開くと同時に、一人の男が立っていた。
「え?・・・あなたは・・・」
雅は、思わず声をあげた。
こんな人が自分の前にいることが、信じられないでいる。
その男は、にこっと笑った。
そして、その男から、発せられた言葉も、信じがたいものであった。
「お待ちしておりました。天使長ミカエル様が、お待ちかねです、雅君」
「大丈夫です、心配いりません」
雅は、祥子と腕を組んだまま、その信じがたい人の後をついて歩く、いや歩いていくしかない。
逃げようにもどうやって逃げたらいいのか、わからない。
大きなそして厳めしい木製の扉に前に立つと、自動で扉は開き、大きなテーブルが見えている。
どうやら、ここは会議室のようだ。
「こちらへ・・雅君」
促されて、これもまた豪華な椅子に座る。
男は、雅の正面に座った。
祥子は雅の右隣。
マホガニーだろうか、とにかくどっしりとしたテーブルと椅子。
壁には、様々な天使の絵画、天上は宝石を散りばめたシャンデリアが輝いている。
「状況が、よくおわかりではないでしょうが・・・」
男は、少し頭を下げた。
「・・・」
言葉が出てこない。
どう見ても、目の前の男は、時の「首相」。
「その通りです。あなたの感じた通りの人物です」
「今は、何も話さないで結構です。わからないのも、当然です」
男は雅の感じた通り、時の「首相」と自認した。
そして、にこやかだ。
「理解できないでしょうが、事実だけを率直に伝えさせていただきます」
首相は、少し真顔になった。
「雅君には、特別の任務を行っていただきます」
「そして、その任務とは、我が国のことだけではありません」
「あらゆる国において、その任務が与えられます」
「もちろん、我々の政府、そして各国の政府は、惜しみない援助を行います」
「もちろん、そのために一定のガイダンスといっても、ほんの少し・・・」
「これは本当に信じられないとは思いますが・・・」
首相はここで、ひとつ間を挟んだ。
そして、本当に腰が抜けるような言葉を口にした。
「天使長ミカエル様がお待ちです」
「天使長ミカエル様にお会いしていただきます」
「雅君がこの時代の、大天使ラファエルに指名されました」
首相は、そこまで言い終えて、雅の顔をじっと見つめている。
「突然ラファエルって言われても・・・それに・・・」
「・・・任務、日本だけでなく、外国でも・・・そして惜しみない援助・・・、よく意味がわからないのですが・・・」
「そもそも、今日の朝からの出来事が、あまりにも不可解なことが続いていて・・・」
雅は、不安で身体がガタガタと震えている。
「心配はいりません」
首相からニッコリと断言されてしまった。
「この件につきましては、天使長ミカエル様のお計らいとしか・・とにかく、この任務のために、雅君がラファエルとして選ばれたとしか・・・、私も日本政府の長として、天使長ミカエル様のご依頼をむげにできず・・・」
首相は、至って真顔である。
雅はここで何を考えたらいいのか、何をしたらいいのか、全くわからなくなった。
身体が、また「ド緊張」で固まってしまっている。
「大丈夫だよ、雅君」
「時の首相、そして天使長ミカエルの頼みを受けましょう」
祥子までが首相に続いた。
目の前の首相は、真顔のまま。
そうはいっても、そもそも天使長ミカエルだことのラファエルなど、「おとぎ話」の絵本でしか見たことがないし、目の前の「首相」も、普段の生活からすれば、ありえないことで不安も強い。
それに、そもそも天使がどうのこうのと言われても意味そのものがわからない。
何か夢なら覚めて欲しい。
しかし・・・この状態で、信じる以外はないのでは・・・逃げだせる状況ではないことは現実である。
「祥子さんは、母さんの顔も名前も知っているし・・・」
「ここは、祥子さんを信じようか」
「よくわからないけど・・・」
雅は、ここで考えるのを止めてしまった。
「しかたないか・・・受けます」
雅は、もう何も考えなかった。
受けようと「思ってしまった」。
そして、言葉を発した瞬間、異変が発生した。