第1話 手紙

文字数 1,404文字

「あれ?」
「手紙だ・・・」
「山中祥子?知らない人だなあ、でも聞いたことがあるような気もする・・・」
雅は帰宅時にポストに入っていた手紙を見て、首をひねった。

「それに僕宛てで、手書きだ、きれいな字だ」
「でも、アヤシイ手紙だったらどうしよう・・・」
玄関で、その状態がしばらく続いたが、いつまでもそのままではいられない。
それでも雅は、その手紙を持って、ようやく家の中に入った。

リビングのソファに座り、テーブルの上に、その手紙を置いた。
「まあ、宛名の字はきれいだなあ」
「差出人の名前は書いてあるけれど、住所は書いてないな」
様々、考えるが、なかなか手紙を開けることができない。

「相談する人もいないし・・・」
雅は高校2年生、都内の名門学園に通っているが、生来の面倒くさがり屋のため、完全帰宅部、特に親しい友はいない。
次に、雅は、父の顔を思い浮かべた。
雅は父親と杉並区に「一応」、二人暮らしだ。
母親は小学生6年生の頃に世を去り、兄弟はいない。
ただ、父親は大学教授をしているが、研究と称して出張が多く、ほとんど家にいない。
今もローマに長期出張中で、実質はいつも家の中に「一人だけ」になる。

「ゴミ箱ポイ・・・でも、もし万が一、後でトラブルがあったら困るかも」
「仕方ないな、開けて、わけがわからなかったらポイすればいいや」
散々迷った雅は、ようやく手紙を開けることにした。

「・・・」
「え?何?この手紙・・・」
「一体どういう意味?」
手紙を読んだ直後は、全く理解不能だった。
手紙は、文面がすべて「手書き」、しかも首を傾げる言葉に満ちている。

「まず、『お久しぶりです、雅君』ってどういうこと?」
「山中祥子さん?知らないよ、そんな名前の人・・・」
雅は、そもそも、女性に対しては全くウブ。
自分から声をかけることなんか、全くない。
時々、クラスで「用向きなど」で女子学生から声をかけられても、「はい」と「いいえ」ぐらい答えるのが関の山、ましてや「お久しぶり」なんて甘い言葉は、予想外だ。

「それに、『土曜日にお宅にお邪魔いたします』?」
「どうして見ず知らずの人が家に来るの?」
「住所わかる?あ・・・手紙届くんだから、この人は家の場所わかるんだ・・・」
雅の頭は、すでに「支離滅裂状態」になっている。

「で、要件は?」
雅は手紙の文面を読み進めた。
『雅君にどうしても会ってもらいたいお方がいますので、お迎えにあがります』
『一応、土曜日の朝に、スマホコールをします』
『それでは、よろしくね!』

「・・・」
「いったい、どういうこと?」
「スマホコールって、どうして知らない人から?」
「その上、なんで、最後にハートマークなんだ・・・」
「アヤシイなんてもんじゃない」
「これは、絶対ゴミ箱ポイしかない」

雅は、心を決めた。
「手紙」をもってゴミ箱に直行しようとする・・・
が、ここで思いとどまった。

「もし、本当に久しぶりの人だったら、それはそれでトラブルになるかもしれない」
「下手に捨てて、怒られるのも、いかがと思う」
「土曜日の予定も何もないし」
「だんだん、考えるのが面倒になってきた」

雅はもともと、「いい加減なダイタイでいいや」の性格。
それも、あって、結局は「深く」考えなかったし、その時点で、「誰に会うか」など、全く考えなかった。
それに手紙の最後の、「予定がつかなかったら、この番号に連絡願います」との文言をしっかり読んでいないかった。
そして、それが全ての始まりであった。
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