第4話
文字数 1,595文字
アシンメトリー
おまけ①【門番の話】
「新しい門番?」
「はい、何人か候補者がいるようですので、全員分持ってきました」
「小魔が勝手に決めていいぞ」
「閻魔様に決めさせるようにと、言われましたので」
天界で仕事に追われていた閻魔。
天国と地獄の門番が、なぜか急に辞めたいと言いだし、急遽、新たな門番を見つけなければいけなくなった。
え?門番なんて誰にでも務まるって?
いやいや、そんなことはない。
誰に対しても平等に接し、さらには、知り合いが来ても顔見知りがきても、恋人が来たとしても、心を殺して門を開かねばならないのだ。
天国なら良いと思うかもしれないが、決してそんなことはない。
以前の閻魔は、巻物を碌に読まず、女性の話だけを聞いて天国に逝かせたことがあった。
しかし、その女は性悪女で、結婚詐欺を何度も繰り返していた女だった。
忙しいのは分かるが、見逃せない不祥事だったのだ。
「全員と会う?」
「ああ、そんなに長く話しはしねぇよ。ちょっと顔と話し方と性格見るだけだ」
「わかりました。すぐ用意します」
何百人と集まるわけではないが、十人ほどいただろうか。
勿論、天国希望者の方が多く、地獄の門番が良いなんて、二人しかいなかった。
「じゃ次、えっと、雲幻」
「はーい!」
元気に腕をあげて登場した男は、お世辞にも、地獄向きとは思えなかった。
ニコニコとしている雲幻は、閻魔の顔を見るやいなや、指をさした。
「あー!閻魔様ってやつだ!初めてみたけど、もっと怖いかと思ってた!」
「・・・お前、なんで地獄を選んだ?」
閻魔の質問に、雲幻はこう答えた。
「なんでって、なんとなく!地獄の方が、面白そうかな―って」
「お前、変わってるって言われるだろ」
「いやー、そんな褒められると照れちゃう」
「褒めちゃいねえよ」
雲幻を試しに地獄に連れて行き、雲幻の知り合いと顔を合わせさせた。
だが、雲幻の表情はぴくりとも動かず、微笑んだままだった。
続いて、浮幻という男がやってきた。
「なんで地獄?いや、地獄顔だけど」
「・・・・・・それは必ずしも答えなければいけないことですか?」
「え?」
「正直、俺は興味ありません。他人が死のうが生きようが、どうでもいいんです。はっきりいって、天国に逝ける連中の方が少ないと思いますし。世の中マジでクソみたいな奴の溜まり場ですからね。もっと言えば、クソみたいな奴ほど長生きするもんなんですよ。それってどうなんですかね?」
「ええと、ストップ」
浮幻も地獄に連れて行ってみるが、こちらも何の変化も見えなかった。
全員をひとまず帰し、閻魔は悩んでいた。
「・・・・・・」
足を組み、雲幻と浮幻の二人の資料を眺めていた。
翌日、もう一度二人を呼んだ。
「まあ、俺も門番が誰だろうが、気にしないっていうか、どうでもいいっていうか。けどま、俺は俺の言う事に全部OKを出す奴は好きじゃねぇんだ。そこで、雲幻、お前を地獄の門番にする。浮幻、お前は天国だ」
「嫌です」
「やったー!」
「どうしてこいつが地獄なんですか。自分でいうのもなんですが、俺は地獄に向いてると思います」
「やったーやったー!俺地獄―!」
「・・・・・・」
掌を額にあて、項垂れてしまった閻魔だが、気を取り直して二人を見る。
「まあ、やってみろ。もしも嫌なら、門番を辞めてもらって構わない」
「・・・不服ですが」
「だろうな。そんな顔してる」
「俺は準備出来てるー!こんな幸せなことが起こるなんてー!」
「ちっ」
「なんなのこいつら」
「てなこともあったなー」
「そうですね」
すっかり板についた二人の姿に、閻魔は思い出に耽っていた。
デスクの引き出しに隠しておいたお菓子を食べながら、閻魔は巻物を読む。
「意外としっくりくるんだよな、あれが」
そう言って笑う閻魔は、イタズラをしている子供のようだった。