13 4本弦の誘惑とワナ
文字数 2,144文字
アイリッシュバンドのハブでのライブも二回目。
最初はわけがわからず、ひたすら祭りのようにリズムに合わせて音を出していただけだったが、だんだんわかってきたし、仲間の顔と名前も
フィドルの兄さんはフレディ。本業は
フィドルで、フレディ、おぼえやすい、感謝。
「日本って、アイリッシュ、どう?」
フレディらしい、スマートな大人の問い。
しかし、私にろくな回答は用意できないのだ。
「ごめん、私、アイリッシュはここに来て初めて知ったくらいだから」
「ないわけはないんだけどな。日本人の
「もちろん、日本にもいろんな人がいる。でも、私は、あまり他の人と演奏したことなかった」
「どうして?」
「なんでだろう。とにかく、
「なぜ好きになれないの?」
「たぶん、楽譜どおり弾くっていうのがね、そもそもむりなのだと思う。だって、気持ちが
「それは、
「イエス。メロディだって」
「
「私、ピアノは弾けないし」
私の
「君って、真面目そうに見えて、じつはわがままなんだね」
「ごめんなさい」
こういうとき、どうしてもうつむいてしまう私。
彼は、私の背中をたたいた。
「どうしてあやまるのさ、それって、
「ありがとう、でも、それは、少しほめすぎ」
「よかったら、このあと、飲みに行かない?」
私は、
「私、まだ15なんですけど」
「演奏家に
「あなたは本当にそう思う?」
彼は、しばし考え込んだ。
「”本当にそう思うか”と
「なぜ?」
「君は、クールだ。
私は、しばし考え込んだ。
「私、アルコールは無理だけど、何か食べたい。お昼、作ったのに、食べそこなっちゃって。さすがに
「じゃあ、このあとレストランに行こう」
とはいえ、演奏&軽い打ち上げの後、街に出ても、開いているレストランはもうなかった。
しかたなくハンバーガーシッョプでセットを買って、
静かな細い公園で、道から近いから、危険ということもなさそう。
汚れたベンチに、楽器ケースを
「なんか、同じ楽器の人といると、安心できるね」
と彼。
「そう? ライバル心みたいな熱い気持ちは、ないとは言えない」
「ははは。まあ、僕は本業は大工だから」
「聞いた。オシャレなリビングとか作ってるって本当?」
「うん、わりとそんな仕事は多い。今度、
「
「それ。ゼッタイ無理」
「私も」
二人で笑う。
「ねえ、フレディ、あなた、カノジョとかいないの?」
「まあ、正直、いる」
「そっか」
「こんど、会ってみる?」
私は苦笑して、首を振った。
「ごめん、なんか、こういうの、
「そんなことないよ。うちのカノジョは、猫だから」
「はあ? それ猫っぽい女性、という意味?」
「いや、本当に猫。ルールーって名前」
「なんだ」
「でも、愛しているのは本当」
私は、くすくすくと笑いがこみ上げてきた。
「じつは、私にもペットがいるんだけど、その猫は、わからないの」
「なにが?」
「あれ、ないの」
「ティスティカル?」
彼は医師のように
私は大学教授のようにうなずいた。
「そう。それがないんだけど、最初からないのか、あとから取ったのか、不明。なぜなら、ここに着いて早々、空港でもらった猫だから」
「わお」
「もっと観察すればかわるのかもしれないけど、それもなんか失礼だし」
「だよね」
「でも、いろいろ話すし、私を
「名前は?」
「フェリー」
「たしかに、性別不明っぽい名前だ」
「やっぱりそうよね」
なんか、バツイチ同士が、自分の子供を紹介している、みたいな気分。
ハンバーガーも、空腹だから食べるけど、別に美味しくはない。
ただ、夜風が気持ちよくて、聞くこと聞いたら、不思議とリラックスできた。
バイオリンと猫。
いまのところ、私の全て。
だから、まあ、いいか、と。
リリーなんか8歳なのに、私まだだし。