18 祝ライスパーティ計画

文字数 907文字

 「二郎」を2キロ、手に入れた。
 もちろん、ここに電気炊飯器(すいはんき)というものは存在しなかったので、なべで米を()くことになる。
 しかし、じつは私は、出費(しゅっぴ)倹約(けんやく)のために、すでに何度か挑戦済み。
 いまのところ一勝二負。

 こつは、まず火にかける前にしっかり水を浸透(しんとう)させること。
 そして、グツグツと沸騰(ふっとう)したら、火を極限(きょくげん)まで弱めて、一曲歌う。
 この場合の曲は何でもいい。
 歌い終わったら、火を止めて、なべをタオルで包む。
 すぐにさめないようにして、30分放置。

「ナナちゃん、すごいわ、今回は大成功やろ」
 と、元・天才子役サラが、私とともにスプーンで卵かけごはんを食しながら、日本語でほめてくれる。
(さと)りは()た。あとは、生魚(なまざかな)を手に入れて、(すし)に挑戦する」
「すし?」
「そう。すでにマグロやサーモン売ってるフィッシュマーケットは発見済み」

「高いやろ?」
「高い。だから、本気を出す」
「本気って、ナナちゃん、ほんまにやるの?」
「イエス。そして、やがては、この街に、ナナー日本料理店チェーンを打ち立てるのだ。マスコットキャラは、ドラムのロイ君」 
「それはええわ。今ある日本料理店、きれいやけど、高いねん。もっと、気軽(きがる)に入れる定食屋みたいな店があると、ホント、みんな喜ぶんとちゃうかな」
「むむっ、私、定食屋のオカミか」
「ナナーは、似合(にあ)ってそうやけど、 バイオリンと両立は、せんなぁ」

 焼きサバに、焼きイカ定食、20ドルね、まいど〜
 ついでにバイオリン一曲サービスするよ。

 なんて。
 そう、焼きものの(にお)いが髪につかないよう、手ぬぐいを頭に()いて。
 いや、それをやるなら、地元リーグの野球帽か。
 チーム名とか知らないけど、きっとなにかある。

 私は、近寄ってきたフェリーを抱き上げて、語りかけた。
「ねえ、毎日がバーベキューよ。どう思う? なんか幸せっぽくない?」
 すると、猫は、冷たく断言した。
「現実を見ろ」
 
 そういえばアジア系民が通ってそうなフィッシュマーケット近くで路上したら、たった90セントしか(かせ)げなかった。
 
 それに、現実を直視(ちょくし)したなら、たぶん、このパーティは、私の最後のお別れ会になるのだ。

 ていうか、私の叔母さん、いつになったら現れるの?
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