14 リリーの愛

文字数 662文字


「で?」
 とリリー。
 私を、二階のリリースペースに引っぱってきて、興味津々(きょうみしんしん)

「いい感じだったんだけど、いざ、こう、背中から手を回されると、ぞわぞわっとして、身体が熱くなって、あわてて逃げてきた」

 リリーは爆笑。

「ナナー、グッジョブ」
「はあ?」
「あいつ、手が早いから、少し痛い目を見た方がいいのよ」
「そ、そういうこと?」
「彼、猫の話、したでしょ?」
「うん。でもなんでわかるの?」
「あなたも猫好きだし、絶対すると思った」
「お見通(みとお)しね」
「でも、彼は経済力あるし、悪い人じゃない。歳上(としうえ)でいいなら、ありかもね」
「なんか、それ、ヘン。私、経済力とか、興味ないし」
「そこは、興味もった方がいいよ」
「知ってるけど。でも、お金があっても、音楽のこと、わからない人とか、私は嫌い」
「彼は演奏家だけど?」
「ごめん、混乱(こんらん)した」

 リリーは青い目で(ふく)み笑い。
 その目が、なぜか、冷たい。
 私は、興味というか、むしろ心配から質問。

「リリーは、好きな人は、いないの?」
「みんな好きよ。でも、私は、たぶん、誰も愛せない」
「なぜ?」

 リリーは、机に頬杖(ほおづえ)をついて、考え込んだ。
 まるで、あの豪華客船(ごうかきゃくせん)沈没映画で、恋人を冷たい海に(うしな)った、孤独なヒロインのように。

 そして、リリーは、ふと、周囲を見回した。

「だって、こんなに散らかす私が、愛するなんて、ムリでしょ?」

 私は苦笑した。
 たしかに。
 大地震の中で愛しあうみたいなものだそれ。

 しかし、考えてみれば、大地震とか、台風とか、雷とか、むしろ精神が高揚(こうよう)するというパターンも、あるような気がするのは私だけだろうか? 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み