第4話

文字数 809文字

涙が止まらなかった。鼻の奥が〝ツン”となって喉がひきつり、呼吸も早くなって喉が自然に〝ヒクヒク“と鳴ってしまう。高橋くんは何も言わず激しく泣き出した私の背をさすりながら私を保健室に向けて導いていく。ノックもせずに保健室のドアを開けながら高橋くんは保健の先生を呼んだ。
「遠藤先生、いる?」
「いるよ、何かあった?」
白いスクリーンの影から顔が覗いた。
「滝藤が怪我した。額から血が出てる。」
遠藤先生は素早く立ち上がるとそばに来て私の顔を覗き込んだ。
「こっちに来て、座って。」
遠藤先生が私を治療用の椅子に座らせた。
「高橋くん?だったかな。君も感情が昂っているようね。スクリーンの向こうに椅子があるから座ってなさい。」
高橋くんは素直に遠藤先生の指示に従った。先生も椅子に座り治療が始まった。治療をしながら先生が言った。
「血がにじんでいるけど深くはないわね。傷跡は残らないと思う。残ってもこの位置なら前髪で余裕で隠せるわ。それより…」
治療が終わったのか、そう言うと遠藤先生は立ち上がり、まだ〝ヒクヒク”が止まらない私をハグした。
「落ち着いて。もう大丈夫よ。ここには先生と高橋くんしかいないわ。」
遠藤先生は私に優しく語りかけた。
「高橋くん、何があったの?」
先生が高橋くんに聞いた。高橋くんが怒った声で答えた。
「有坂がわざと足を引っ掛けた。」
先生は今度は私に優しく話しかけた。
「痛かったの?」
私は抱きしめられながら首を横に振った。
「悲しかったの?」
やはり私は首を振った。
「じゃ安心したのかな?」
私は改めて何故泣いているのか自分に向き合ってみた。痛かったのでも悲しかったのでもない。自分はこれからもひとりで身に覚えのない仕打ちに耐えていかなければならないと覚悟していた。でも私を庇ってくれた人がいた。そうだホッとしたんだ。私は大きく何度もうなずいた。
「そうか大変だったね、よく頑張ったね。」
先生はそう言いながら私の頭を優しく撫でてくれた。
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