第3話

文字数 1,134文字

昼休み、私は人気のない校舎の裏にあるベンチに座りゆっくりと深呼吸を繰り返した。すると心拍数が少しづつ下がって息苦しさが薄らいできた。ここは人けが無いが用務員さんの部屋に近く、構ってくる人はいなかった。しかし教室で過ごす一時限一時限で感じる長さに比べて、この場所で過ごす昼休み時間はあまりに短く感じた。『そろそろ行かなきゃね』私は頬を〝パンパン〟と二つ叩くと教室に向かった。

教室に入ると私はなるべく目立たないようそろりそろりと机の間を縫って自分の席を目指した。その時だった。私は足を何かに引っ掛けてバランスを失った。私は激しく額を机の角にぶつけて仰向けに転んでしまった。『クスクス』私の耳には数人の忍び笑いが聞こえてきた。私は額を手で押さえながら起き上がろうとした。その時誰かが素早く私を助け起こした。見るとそれは高橋くんだった。『ヘーッ』『オーッ』と冷やかしの言葉が飛んだ。
「いい加減にしろ!!」
すぐ横にいる高橋くんから発せられた声は腹に響くぐらい大きな声だった。教室は沈黙が支配し、高橋くんの声が反響しているような錯覚に陥った。高橋くんが続けた。
「こんな事して面白いか?」
誰も答えるものがいないかと思う間の後、誰かがこそっと反論した。
「何よ、マジになっちゃって。かっこ悪い。」
「有坂、お前…」
高橋くんは私を支えていた手を離すと有坂さんに向かって歩きだした。有坂さんは後ずさった。
「有坂、今、高藤に足を引っかけたよな。」
「何を言ってるの?私はそんな事してないわ。ねぇ?」
有坂さんは自分の取り巻きの女子生徒に同意を求めた。
「俺は見てたんだよ、この目で。」
「あなたこそ嘘をついてるんじゃない。私を悪者にしようとして。だれか他に私が足をかけたのを見たって人がいるの?証拠は証拠!」
高橋くんの目が細くなった、両手を交差させると左手を前に出し、右手を腰に溜めて腰を落とし始めた。
「やめろ、力也!」
高橋くんの動きが止まった。みんなが声のした方を見た。声の主は佐々木くんだった。
「証拠ならあるんだよなー、ここに。」
佐々木くんは机の上に立てかけた社会科の資料集を〝パタン〟と倒すと佐々木くんが学校から貸し出されたタブレットを構えていることが分かった。
「動画だよ動画、有坂が高藤が横通るときに足出したの、ばっちり撮れたぜ。こういうの証拠って言うんだろ有坂、違うか?」
有坂さんが佐々木くんを睨みつけた。
「力也、高藤を保健室に。額に血が滲んでる。」
「分かった。ありがとう賢人。」
高橋くんは佐々木くんに応えると私の所へ来て肩を抱き、保健室に向けて歩き始めた。今度は冷やかす者はいなかった。
「力也、急ぐな。走ると出血がひどくなるかも。」
高橋くんは佐々木くんにうなずき返すと私を連れて教室を出た。
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