第5話

文字数 576文字

ノックの音に続いて廊下から声がした。
「遠藤先生、高橋力也いますかー。」
佐々木くんの声だった。
「賢人かい?いるよ、入っといで。」
「失礼しまーす。」
スクリーンの向こうで見えないが佐々木くんが保健室に入って来たようだ。
「先生、滝藤の怪我、大丈夫?」
「傷は浅いんで跡は多分残らないと思うわ。」
私は気持ちが少しずつではあるが落ち着いてきているのを感じていた。〝ヒクヒク”も収まってきていた。
「もう大丈夫かな?」
先生は私の顔を覗き込むとそう言って抱きしめてくれていた腕を解いた。立ち上がると先生はスクリーンを移動させて高橋くん、佐々木くんと顔を合わせることになった。私の味方をした事で2人が何かしらの仕打ちを受けるのではという思いから私は深く頭を下げると2人に謝った。
「ごめんなさい。」
すると佐々木くんのため息と残念そうな声が聞こえた。
「選ぶ言葉、間違ってないか。滝藤は謝らなければならない事はしていない。」
私は顔を上げて2人を見た。2人とも怒っているように見えた。私はまた同じ言葉を繰り返した。
「ごめんなさ…」「ありがとう!」
佐々木くんの言葉が私の言葉を遮った。私は佐々木くんを見た。
「俺たちの聞きたかった言葉は『ありがとう』だよ。」
佐々木くんの表情がいたわりに満ちたものに変わるにつれ、私の瞳からはまた涙がこぼれ落ちた。
「ありがとう…ありがとう…ありがとう…」
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