第15話 米沢人が同じ米沢人を騙すと思う?

文字数 2,131文字

 オジ宗の「者共、であえ!」が聞こえるやいなや、10人の家来が大広間に入ってきた。
 オジ宗の家来に囲まれる武、アリスと猫。オジ宗は武が仙台藩の情報を知り過ぎていて危険だと判断した。どうやら生きて帰すつもりはないようだ。

 オジ宗はニヤニヤしながら言う。

「お主たちをここから帰すわけにはいかん!」
「なんでだよ?」
「だって、幕府にワシの計画を知られるわけにはいかんじゃろー!」
「そんなことしないって・・・」
「ワシは騙されんぞ!」
「僕たちはこの時代の人間(と猫)じゃない。だから、オジ宗の計画を幕府に話してもメリットないでしょ?」
「口では何とでも言える。そんなこと、信用できん!」

 武は別の方法でオジ宗の説得を試みる。

「僕、オジ宗と同じ米沢出身なんだ」
「ほお、お主も米沢生まれか」
「米沢人が同じ米沢人を騙すと思う?」
「ワシはいつも人を騙しておる! 信用できるか!」

※伊達政宗は1567年に米沢城で生まれました。その後、1591年に豊臣秀吉の奥羽仕置により岩出山(宮城県大崎市)に移され、米沢を去りました。1601年から上杉景勝(上杉謙信の養子)が米沢城を居城としています。前田慶次(1543-1612)もこの時期米沢に住んでいました。

 オジ宗は強情だ。そんなオジ宗に少し困った武。
 アリスと猫に「どうする?」と聞いた。「やっつければ?」と興味なさそうに答える猫。

「助さん、懲らしめてやりなさい!」
 アリスはこれ(水戸黄門)に凝っている。アリスはセリフとともに印籠を持つポーズをしているのだが、大きな間違いをしている。それは格さんのポーズだ。水戸黄門のポーズではない。

「だから、僕は助さんじゃないって・・・」と小さく呟く武。

 武はオジ宗の家来をどう懲らしめるかを考えている。
 人数が多いので攻撃範囲を広くしないといけないが、死なない程度に攻撃を加減するのが難しい。家来は合戦時のように鎧を付けているわけではないから、強めの物理攻撃をすると死ぬ可能性がある。
 この建物を崩壊して足止めする方法もあるのだが、重い部材が落ちてくると大広間にいる人間が全員死んでしまうかもしれない。

――死なない程度に手加減しないと・・・

 武は攻撃するかどうかを迷っている。
 そんな煮え切らない武を見てイライラするアリスは「助さん、早く!」と武を急かす。

「だって、手加減しないと死んじゃうし・・・」

 踏ん切りが付かない武に、アリスはイライラしている。

「なに言ってるの? 手加減しなくていいのよ!」
「えぇ? 手加減しなかったら死んじゃうよ?」
「気にしなくていいの。だって、あの人たちは死んでもいい人なのよ!」
「死んでもいい人って・・・どういうこと?」

 アリスは持論を展開する。

「私、本で読んだことがあるの。『武士道と云うは死ぬことと見つけたり』って、聞いたことある?」
「うん。あるよ」
「つまりね、あの人たちにとって、死ぬことは誇りなの!」
「そうなの?」
「そうよ! 死にたくてしかたがないのよ。内心は『殺してくれー』と祈ってるわ。だから、手加減しなくていいの! 殺してもいいのよ!」
「へー」

※『武士道と云うは死ぬことと見つけたり』はそういう意味ではありません。武士道は死を強制しているものではなく、武士としての生き方・死に方を説いたものです。むやみに死ぬことを選ばず生きること、そして死に際をわきまえ潔く散ることを説いています。

 勝手な持論を展開するアリス。テロリストの娘だったことを、今更ながら思い出す。
 不安になった武は「どう思う?」と猫に聞いてみた。

「殺してもいいんじゃねー。どうせ、アイツらの命は安いんだよー」と返答する猫。そもそも人命に興味がない。猫命の方が大切だ。

 1人(アリス)と1匹(猫)よりも少しだけ倫理観がある武。やはり殺すのはダメだ、と考え直した。殺傷能力の高い攻撃は避けて、圧縮した水素で周りの家来5人を吹っ飛ばした。残りの家来は5人。

「であえ! であえ!」

 オジ宗の声に反応して、奥からドタバタと追加の侍がやってきた。新しく追加された家来は10人。その10人には見覚えがある。さっき、武が倒した奴らだ。

「者共、かかれ!」とオジ宗は言うのだが、彼らは先ほど武に刀を折られているから丸腰。
 必死に刀を持っていないことをオジ宗にアピールする。

「じゃあ、素手でいけ! ヤツも素手だ!」とオジ宗はそれっぽいことを言った。

 いやいや武の方へ進んでいくと、そのうちの一人が後方へ吹っ飛んだ。
 武は何もしていない。エアー立ち合いで飛んだ。いわゆる、やられたフリ。

 その様子を見ていた他の9人は『ああすれば、殿の命令に従いつつ、ケガせずにすむ』と悟ったようだ。他の者たちも武に向かっていった後、後方へ自分で吹っ飛んだ。吹っ飛んだあとは、痛がるフリを忘れない。

 倒れた家来たちが目で訴えてくるから、武は「僕、何もしていない」とは言えない。
 やられたフリをする家来たちに「どうだー!」と言ってあげた。

「きゃー、たけしー!」アリスは喜んでいる。

 家来が次々とやられていく状況に危機感を持ったオジ宗。「鐘を!」と叫んだ。
 オジ宗の指示で誰かが鐘を鳴らす。どうやら、この城の家来を総動員するつもりらしい。
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