第2話 自称伊達政宗のおじさん

文字数 1,839文字

「お主の名は?」武の前に立つ中年男性が言った。
 左手に鷹を持ち、鷹匠のような恰好をしている。一見して不審者にしか見えない。

「僕は山田武。こっちは猫のムハンマド。おじさんは?」
「ワシか? ワシの名は伊達政宗。結構有名だから知っとるだろ?」
「伊達政宗って、独眼竜の?」
「そうそう、独眼竜政宗じゃ」

 中年男性はドヤ顔で言うのだが、武はその真偽を諮りかねている。
 そもそも、武がいるのは1959年。戦国武将である伊達政宗はとっくに死んでいる。タイムリープという可能性もあるかもしれないが、非科学的な現象だ。武は原理が分からないものを信じない。
 この時点では、伊達政宗を自称する怪しいオッサンでしかない。

 仮に、タイムリープだったとしても、この中年男が伊達政宗かどうかは分からない。
 武の知っている伊達政宗は、眼帯をして勇ましく馬に乗っている戦国武将。
 一方、武の前にいるのは若くも勇ましくもない、しょぼくれた中年のおじさん。しかも、トレードマークの眼帯をしていない。

――こいつも中二病か?

 男の子だったら、独眼竜政宗に憧れて『眼帯ってカッコイイ!』と思ったことがあるだろう。
 眼帯をしているキャラクターにはカッコイイのが多い。
 キャプテン〇ーロック(宇宙海賊)、はたけ〇カシ(NAR〇TO)、更木〇八(BLE〇CH)、女性キャラだとアスカ・〇ングレー(新世紀エヴァン〇リオン)もそうだ。

 このおじさん(自称伊達政宗)も中二病を患っている、と武は推測している。

 コスプレイヤーに「名前は?」と聞いたら、その登場人物の名前を言うだろう。コスプレイヤーは本名を名乗らない。
 このおじさんが伊達政宗じゃなかったとしても、本名を言わない気がする・・・

 確信のない武は「どう思う?」と猫に聞くのだが、猫は「直接本人に聞けばいいじゃん!」と尤もなことを言う。
 しかたないから、武は自称伊達政宗に尋ねることにする。

 それにしても、さっきまで大手町にいたはずなのに・・・
 ここはどこなんだろう?


***


 自称伊達政宗に会う前、武と猫はアリスを探しに大手町に来ていた。

 アリスは2週間に1回の割合で家出をする。家出をする理由は、探してほしいから。アリスは家出する時には必ず書置きを残す。書置きには行先のヒントを毎回3つ書いてある。アリスは3つのうちのどこかにいて、武が迎えに来るのを待っている。
 武が迎えに来ると、『私は愛されている!』と実感するようだ。11歳の少女は、実に面倒くさい恋愛観を持っている。

 今回の家出のヒントは『銀座の美容室、銀座のデパート、将門塚』

 銀座の美容室のアリスがヘアカットに行くところだし、銀座のデパートはアリスが買い物に行くところだ。この2つはアリスの行動範囲として違和感はない。
 ただ、今回は珍しく『将門塚』という意味深な場所が記載されていた。ちなみに、将門塚(まさかどづか)は、東京都千代田区大手町にある平将門の首を祀る塚である。

 アリスのひっかけかもしれない。が、武と猫は、先に大手町の将門塚でアリスを探すことにした。

 将門塚の近くで、猫は階段の下から、上を歩く女性を見ている。
 猫は嬉しそうに武に尋ねる。

「この角度だとパンツ丸見えだなー。何色か教えてほしい?」

 恒例のパンツの色あてゲームがスタートした。

「チャンスは1回?」
「当然だろ!」
「じゃあ、黒で」
「不正解です!」
「あっそ」

 猫は次の獲物を見つけた。

「きたぞー。次は何色でしょうか?」
「ピンク?」
「ブッブー、残念!」

 本来の目的を忘れて遊ぶ武と猫。そのうちパンツの色あてゲームに飽きてきた一人と一匹は、将門塚の前に座り込んだ。

「アリスの匂いする?」と武が聞くと、猫は「あの辺りからするなー。でも、そこにはいないんだよなー」と答えた。

 猫が指したのは将門塚の横にある脇道だ。武が脇道に入るとアリスのハンカチが落ちていた。辺りを見渡すがアリスの姿はない。

―― 事件に巻き込まれたのか?

 武は嗅覚に優れた猫に質問する。

「どこに行ったか分からない?」
「いやー、なんて言うかなー・・・」

 猫は言葉に詰まっている。何かを伝えようとしているが、それを上手く表現できないようだ。

「ここから出てどこかに行った感じじゃない・・・」
「どういうこと?」
「その小さい石碑の前でぱったりと・・・」
「これのこと?」

 武が石碑に触れたら、石碑が白く光った。武と猫は白い光が眩しくて目を閉じる。
 白い光は次第に大きくなっていき、武たちを包み込んだ。
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