第10話 ピンゾロの丁!

文字数 1,566文字

 武と猫は自称伊達政宗に連れられて仙台城にやってきた。仙台城はさっきまでの場所から30分くらい下ったところだから、武たちは仙台城の裏山にいたことになる。

 武たちが仙台城の入口に入ると、金色のとんがり帽が飾ってあった。
 朝鮮出兵を豊臣秀吉に命じられた時にパフォーマンスで使ったものだ。伊達政宗は『秀吉に気に入れれば朝鮮出兵をしなくていいはず』と考えたため、金色のとんがり帽で秀吉に気に入られようとしたらしい。
 ちなみに、この時の伊達勢の軍装のきらびやかさから『伊達者』や『伊達男』という言葉ができたとされている。

※こんなイメージです。



 武は嬉しそうに自称伊達政宗に話しかけた。

「僕、このとんがり帽、知ってるよ」
「お主の時代にも伝わっているのか?」
「そうだよ。朝鮮出兵に参加したくなくて、派手な格好をして秀吉に気に入られようとしたんだよね?」
「ぐぬぅぅう・・・」
「でも、この時できた『伊達者』や『伊達男』という言葉は、300年以上後の僕たちの時代でも使われているよ」
「それは本当か?」
「本当だよ」
「そうか。後世にも伝わっておるのか。とんがり帽は高かったけど、作って良かったなー」
「だね」
「伊達男か・・・いい響きじゃ・・・」

 鷹匠の恰好では会議に差し障ると思ったのだろう。自称伊達政宗は「大広間に向かう前に着替えをする」と言って部屋に入っていった。
 武と猫は着替えをしている間、仙台城から周りを見渡している。

 暇だった武は「アリスはどこに行ったのかな?」と猫に話しかけた。

「アイツ、目立つからなー。自称伊達政宗が本物だったら、情報が入るんじゃねぇ?」
「だよなー」
「それより、あそこに人が集まってるな。時間あるし、見に行ってみないか?」

 猫は前足で城から見える人だかりを示した。

「そうだな。一応、オジ宗に言っとくか」

 武はノックもせずに、オジ宗が着替えている部屋のドアを開けた。
 着替え途中のオジ宗は急な侵入者に驚いて、ふんどしを手で隠している。
 部屋の中でオジ宗と小姓が重なり合っていたような気がしたのだが・・・

「なんじゃ、お主か。お主もそっちの気があるのか?」
「ちげーよ」
「そうか。失敬、失敬。それで、どうした?」
「オジ宗―。ちょっと城の中を見てきていい?」
「会議が半刻(約1時間)で始まるから、それまでに戻ってくるのじゃぞ」
「分かったよ」

 武と猫は騒ぎの方へ歩き出した。

「何してるのかな?」
「賭け事じゃねーか? 「半」とか「丁」とか聞こえてくるぞ」
「お前、耳いいな。城内で賭博行為オッケーなの?」
「しらねーけど、バレないと思ってるんじゃねーか?」
「あんな大声で?」
「大声出してる本人は自覚がないからな」
「あー、酔っぱらって大声出してるオッサンいるなー」
「だろ? あーゆー状況だ。きっと」

 しばらく歩くと、茣蓙(ござ)の上にサイコロとザルが置いてあり、その周りに10人の侍が集まっていた。丁半賭博が行われているようだ。

※丁半賭博はサイコロを使った賭博です。丁は出目の合計が偶数、半は出目の合計が奇数です。江戸時代中期から後期にかけて博徒が賭場に客を集めて行われていました。

 金髪の少女がサイコロをザル(ツボ)の中に入れて盆茣蓙の上に伏せた。金髪の少女は侍に向けて言う。
「ドッチモ、ドッチモ」

 右端の侍が「半!」と叫ぶ。
 隣の侍も、「拙者も半!」と続く。

「丁方ナイカ、ナイカ。ナイカ丁方」

 左端の侍が「拙者は丁!」と言った。

 金髪の少女は丁方と半方にコマが揃ったから募集を締め切った。

「コマがそろいました。勝負!」

 侍たちは固唾をのんでツボを見つめる。

「ピンゾロ(出目が1と1)の丁!」

「おぉぉぉぉー!」左端の侍が叫ぶ。

「イカサマだ! 今の勝負はなしだ!」
 悔しがる右端の侍は刀を抜いた。

「この下衆(げす)が・・・」
 金髪の少女は呟いた。
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