第4話 鷹匠風中年男とピーちゃん

文字数 1,807文字

「助かったー」
 一命を取り留めた猫は小さく呟いた。

 一安心したものの、鷹が体勢を整えて、再度猫を狙ってこないとは限らない。
 身の危険を感じた猫は武の方へ避難する。

「お前、狙われてやんのー」
「うるせー」
「やっぱり、鷹は動くものを追う習性があるんだな」
「しらねーよ」
「もう一回やってみない?」
「何を?」

「鷹が猫を狩るかどうかゲーーーム!」
「やらねーよ」
「僕の仮説によれば、鷹は動くものを追うと思うんだ」
「それで?」
「さっきはお前がすごい勢いで走っていったから、鷹はお前めがけて飛んできた」
「たしかに・・・」
「鷹が飛んできても、じっとしてたらセーフじゃない?」
「やらねーよ」
「またまたー、そんなこと言ってー。実はやりたいんじゃないの?」
「んなわけあるかー! 猫の命をなんだと思ってんだ?」


 武と猫が口論していたら、鷹を持った中年の男がやってきた。
 中年男は鷹匠の出で立ち。武の推理では、中年男は害鳥駆除業者か、金持ちが趣味で鷹狩をしているかのどちらかだ。着ている鷹匠ウェアがちょっと高そうな気もする。
 そうすると、鷹狩りをしている金持ちか・・・

「ここがどこか、あのオッサンに聞いた方がよくないか?」と猫が言う。しかたないから、武は中年男に聞くことにした。

「こんにちは! 僕たち、道に迷ったんだ。ここがどこか教えてくれないかな?」

 そう尋ねた武を中年男は睨みつけている。どうやら怒っているようだ。
 何に怒っているのか分からないが、なんとか意思疎通を図ろうとする武。

「おじさん、どうしたの? 何かあった?」

 中年男は武を真っすぐに見て言った。

「ピーちゃんを撃ったのはお主か?」
「ピーちゃん?」

 中年男は左手に乗った鷹を指さし「ピーちゃん」と小さく言った。
 鷹は武を見てバタバタと暴れている。怖がっているのだろうか?

――あー、またヤバい奴か・・・

 武は変な奴を引く能力があるらしい。寄ってくるのは大体こういう奴だ。
 猫は「コイツ頭おかしいから無視しろ!」と武に必死に忠告している。

 中年男はそれ以上の言葉を発しない。一人の中年男と一人の少年の間に沈黙が流れる。
 長い沈黙に耐えかねた武、ついに言葉を発した。

「おじさんのピーちゃんを撃ったって、どういうこと? 僕、何も持ってないよ。ほら!」

 武はそう言って中年男に両手を広げて見せた。中年男は「ふんっ」と鼻で笑った。

「ピーちゃんが、お主が撃ったと言っている」
「鷹がどうやっておじさんに言うのさ? おじさんは鷹と話せるの?」
「当たり前だ。話せるからそう言っている」

――やっぱり、ヤバい奴だ・・・

 武は猫と話せる。このロジックだと鷹と話をできる人間がいてもおかしくはない。つまり、中年男が鷹と話せる可能性は排除できない。

 困った武は「お前、鷹と話せる?」と猫に聞いた。「ちょっとなら」と猫は言ってから、鷹に話しかけた。

「お前、俺の言ってること分かるか?」
「分かるぞ」
「お前はそこのオッサンと話せるのか?」
「ああ、話せる」

 鷹語と猫語は似ているようだ。横で聞いていた武にも会話の内容は理解できた。

「えぇ? おじさんも動物と話せるの?」
「だから、そう言っているじゃろ。ところで、「おじさんも」ということはお主も話せるのか?」
「まあ、そうだね。僕は猫と話しができる」

「それでだ・・・お主、ピーちゃんを狙撃したのか?」中年男は武に尋ねる。

 武が答える前に「お前さー、さっき俺に何か飛ばしただろ?」と横やりを入れるピーちゃん。

「だって、しかたないだろー。お前(鷹)、この猫を狩ろうとしただろ?」と武は言った。

「猫を狩る? ワシはピーちゃんに兎(うさぎ)を狩ってくるように言ったのだが・・・」
 中年男は鷹を見た。

 気まずそうな鷹のピーちゃん。中年男は「どういうこと?」とピーちゃんに尋ねる。

「だって、兎がいなかったんだよ・・・」ピーちゃんは気まずそうに答えた。

「へー。それで?」
「そこに猫が走ってきたから、まぁ猫でもいいかっと思って・・・」


「「まぁ猫でもいいか」ってどういうことだよ? そんな軽い気持ちで狩りをすんじゃねー」
 猫は怒っている。

 中年男は状況を理解したようだ。

「それは、申し訳ないことをした。この通りだ」と中年男は言って、猫に謝罪した。

「まあ、僕も狙撃して悪かったよ。手加減したけど、ケガはない?」
 武もピーちゃんに謝った。

「ところで、お主の名は?」
 武の前に立つ中年男が言った。
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