第5話

文字数 6,206文字

 最後に、今後コンビニ業界はどのようになっていくべきか?
専門的な知識やデータを基にするよりは、元コンビニ従業員としての現場からの声としての私論をいくつか述べさせていただき、締めたいと思う。

 1 本部へ支払う店舗側のロイヤリティーの軽減
 前にも書いた通り、コンビニ本部とフランチャイズ契約を結んでいる店舗は、必ず毎日の売り上げの中から、店舗ごとに決められた割合のロイヤリティーを本部に支払っている。
各コンビニチェーンの本部は、このロイヤリティーを得ることで利益を上げるシステムとなっているわけだが、この店舗に課せられたロイヤリティーの割合を、もう少し減らしてみてはどうだろうか。
そんなことを認めてしまえば、本部の利益が大幅に減ってしまうことになるのは重々承知の上で、今後のコンビニ業界の発展のためには必要な措置のように思う。
店舗側からしたら、売り上げの中から廃棄額や人件費などの諸々の諸経費と共にロイヤリティーを加えて差し引いた分が利益であり儲けだ。
複数店舗を経営しているオーナーにとってはそこまでの痛手ではないかもしれないが、1店舗のみを経営しているオーナーたちの方が大多数な現状から顧みたら、ロイヤリティーを含めた差額分の利益など、決して大きなものではないことが多い。
ただでさせ多岐に渡る過酷なコンビニ経営の中で、労力に見合うほどの利益を得られないことを身を持って体験し、コンビニ経営の継続を断念したり、泣く泣く夢の途中で店舗を閉めなければならない場合だって少なくないはずだ。
本来コンビニのあるべき姿とは、本部とフランチャイズ関係にある店舗がしっかりと連携してタッグを組み、地域に根付いた店舗を運営していくことで、地域や町の活性化につながるというものなのではないのか。
ところが実際は、毎日の過重労働に追われ得られる利益の少なさから、従業員を集めたくても躊躇したり、充実した品揃えや清潔で愛される店舗の維持・発展などには、とてもではないが踏み出せる余裕がないといった、企業の縮小衰退への道へと逆行しているように思えてならない。
本部からのロイヤリティーの金額を減らすことで、一時的に本部は利益的なダメージは受けるだろうが、中長期的な視点で見た場合、日本中に存在している店舗の活性化につながる。
これまでロイヤリティーによって締め付けられていた経営に対する圧迫が減ることで、これまでやろうとしてもできなかった様々なことに予算を投入できるようになり、その結果オーナーたち経営者のそれぞれの色が良い意味で発揮されていき、より地域に根付いた活気ある店舗に生まれ変わり、最終的に各チェーンの独自のカラーがより強化されて、爆発的な発展へとつながると思う。
そうなれば、コンビニ業界の未来も明るいのだが。


 2 従業員不足の店舗に対する本部からの積極的支援
 この頃社会問題になったコンビニ店舗における従業員不足の深刻さ。
各チェーンによって違いはあれど、一応これまでにも対応策は取られてはいた。
本部から店舗に対しての、従業員の派遣という形などで。
従業員が不足して埋まらないシフトに対して店舗側が、「○月○日の〇時から〇時のシフト」と本部に申請すれば、本部から従業員が派遣されてきて、その空いた時間帯を店舗で勤務してくれて埋めてくれるのだ。
 ただこの制度には、いくつかの問題があった。
まず従業員の質の問題。
サブマネージャーなどの本部規定の資格を持ったやり手の社員が派遣されてくることもあれば、本部が確保している一般的なフリーターのような、未知数の能力の人間が派遣されてくる場合もあるなど、当たり外れが大きい。
リーダーのように見事に業務を仕切ってくれる頼れる人物もいれば、学生アルバイトと大差のないレベルの人物が来て、足を引っ張ることだってひどい場合にはある。
次に費用の問題。
このような制度を利用して従業員を派遣してもらえば、基本的に別途料金が請求される。
1日数時間でピンキリだろうが数万円にのぼる場合もある。
もちろんできる従業員が派遣されてくれば、格段に作業効率の上昇や普段なかなか手の届かなかった業務に至るまで、実に幅広く丁寧に仕事をこなしてくれるので、店舗にとっては出費に見合うだけの対価が得られるので歓迎されるだろう。
だがそうではない場合、一般社会におけるある会社に登録して現場に派遣される派遣会社をイメージしていただければわかりやすいと思うが、学生や一般的なフリーターに近いスキルの従業員が派遣されてくれば、複雑である。
取り立てて目立った仕事ぶり・成果をもたらすわけでもないのに、同じ時間帯にアルバイトを1人雇った時の数倍の人件費がかかってしまうとなれば、店舗にとっては実質的にはマイナスであり、今後同じケースで派遣を依頼することを大きく躊躇うことになりかねない。
結果、勤務できる従業員が無理を押して働くしかなくなり、過重労働や超過労働に陥る危険性の増加に拍車をかける、本末転倒な支援体制なのが現状だ。
この問題を打開するには、本部から従業員を派遣してもらう場合にかかる費用を無償化してはどうか。
無償化が無理だとしても、少なくとも現在よりも費用を軽減していく必要は絶対にある。
あるいは、最初のフランチャイズ契約締結時に、あらかじめ毎月数千円程度の無理のない金額を店舗に支払ってもらうことを契約に盛り込み、その代わり従業員が不足した際には、毎月何度でも本部から従業員を派遣してもらえるシステムを構築すれば、お互いのデメリットを最小限に抑えることは可能だと思う。
いずれにしろ、ほぼ100パーセントの店舗で従業員が不足している現代のコンビニ業界では、早急に最優先にこの問題の解決に尽力する必要があり、絶対に避けては通れない問題だ。
少なくとも僕の知る限り、2000年代初頭から店舗における従業員不足は、何ら解決されていないのだから。


 3 深夜営業の撤廃
 従業員不足によって、実際に時短営業をせざるを得ない店舗も出てきているのだから、思い切って最初から深夜は営業しない店舗を作る、または増やしてみてはどうかと思う。
もちろんコンビニという職種がら、24時間365日いつでも営業しているスタイルが大前提だし、その体制を辞めてしまえばコンビニそのものの根幹を揺るがしかねないのは同意だ。
だが実際問題として、すでにその常識にとらわれ過ぎていては、コンビニ経営そのものが維持できない店舗も、表面化していないだけでまだまだ数多く存在している。
 ならばコンビニ本部側で、各地域に点在している店舗を細かくエリアごとに分類し、データや人員状況を分析して、各エリアで例えば50:50の割合で24時間営業の店舗と、22時から8時までは営業しないなどの集客状況に照らし合わせた時短営業店舗を作れば良いと思う。
皆さんも目にしたことがあると思うが、例えば大きな通りを直進していて、同じチェーンのコンビニ店舗が数メートル間隔で営業しているなんて光景を。
ならば24時間営業の店舗の隣の店舗は時短営業にして、営業していない深夜に清掃や商品の補充などの混雑時にできない業務を集中してやる体勢にすれば、少なくとも従業員の不足は補えて店舗を運営できると思う。
また深夜営業していない店舗の近くに、深夜などをメインに営業している店舗を作っても良い。
客数が少ない深夜と言えど、深夜に働いたり生活している人、急にコンビニを利用する必要性が生じた人などももちろんいるだろう。
だからそういった人々をメインターゲットに一手に引き受ける、コンビニ店舗をチェーンごとにエリアを定めた中に何店舗か作って営業すれば、チェーン全体本部にとっても、そこまでの損失は生まないだろうし、逆に深夜中心の営業を強みにした品揃えや独自の店舗作りをすることで、リピーターも見込め事業も拡大できるだろう。
これからのコンビニ店舗は、24時間営業店舗、深夜は営業しない時短営業店舗、深夜客をターゲットにした深夜営業限定店舗の3タイプを、バランス良く運営していくべきだ。


 4 取扱商品のランキング付けの廃止
 コンビニ店舗で販売されている商品のほとんどには、そのチェーンの本部の取り扱い推奨度合いによるランキングが付けられている。
誰もが知っている定番の売れ筋商品がSランク、以下Aランク、Bランク、Cランク・・・といった具合に。
そしてSランクやAランクの商品は、必ず取り扱わなくてはならず、もしも取り扱っていなかった場合には、本部の担当SVから取り扱うように注意を受けることになる。
加えて毎週毎週発売される新規商品も、並行して取り扱わなくてはならない。
しかし1つのコンビニ店舗はそれほど広くはないし、カテゴリーごとに区切られた売り場面積で取り扱える展開できる商品の数には、限界がある。
商品を発注する従業員は、売り上げを考慮に入れて毎回、どの商品を取り扱ってどの商品の取り扱いをカットするのかに頭を悩ませながら、売り場を作らなければならない。
もちろん売れない商品をいつまでも取り扱うことは無駄であるし、売れそうな商品を取り扱って見極める力は、コンビニ従業員にとって必要なものだ。
 だが、その店舗での売り上げに左右されず、取り扱い続けなければならない、高ランクの商品が邪魔になる場合がままある。
全体に対してかなりの割合を占める高ランク商品、それがあるために売れそうだと思えても、泣く泣く取り扱いを見送らざるを得ないこともしょっちゅうだ。
1日1個売れる程度の定番高ランク商品、店舗数をどんどん拡大しているコンビニ店舗の印象が、どこも同じように感じてしまう一因であり、コンビニ利用客が求める「訪れる度の目新しさ」を奪っているように思える。
例えランクが低くてもその店舗ではやたらと売れる商品や、利用客から取り扱いをお願いされる商品だってある。
 そのような地域のニーズに応えるためには、本部によるランキングを撤廃することだ。
店舗ごとのスタイルに合わせた品揃えをすることで、より地域に根付いた独自のカラーを持った魅力あるコンビニ店舗が誕生し、利用客の満足度も上がることは間違いないだろう。
これは推測だが、各コンビニチェーンによるランキング付けには、各商品メーカーとのデリケートなつながりが何かしらあるのだろう。 


 5 従業員の昇給の活性化
 よくコンビニの求人情報内には、「昇給あり」「昇給随時」などと明記されているが、具体的な昇給に関する明確な基準が定められていない店舗がほとんどだろう。
最悪、昇給があることを謳っておきながら、誰1人昇給することがない店舗だって存在する。
仕事の能力の有無に関係なく、年功序列や勤務年数の長さによってなし崩し的に、昇給になる場合もあるだろう。
もちろんフランチャイズ店舗である以上、店舗の経営者であるオーナーの意向が大きく左右することは理解できるし(実際に給与を支払うのはオーナー)、店舗の利益で生計を立てているオーナーにしてみれば、人件費は可能な限り抑えて店舗を運営したいと思う心情は理解できなくはない。
 だがアルバイトであろうとパートであろうと、すべての従業員にとってはコンビニ店舗で勤務することはれっきとした仕事であり、仕事である以上、能力や労働に見合った収入を得ることは、当然の権利である。
コンビニだけに限らず、労働者にとっての評価とは、つまるところお金だ。
中にはコンビニが何より好きで、店舗で働くことが生きがいのように感じている従業員もいるだろうが、多くの場合結局評価の基準はお金であり、1円でも多く給与を得たいと思うのは当然のことだろう。
コンビニ運営において、店舗の成否を左右するのはオーナーたち経営者ではなく、その他の多くの従業員であると言っても過言ではなく、いかに高いモチベーションを保って従業員を勤務させるかが、すべてではないかとさえ思える。
そんな時、自分は誰よりも店舗で働いて仕事もできるのに適当にさぼっている従業員と時給が同じ、一向に賃金も上がらないし待遇も良くならないとくれば、やがてモチベーションは下がり見切りを付けられ、店舗にとって貴重な戦力を失っては、話にならない。
 そこで昇給などの従業員1人1人の賃金に関する査定を、各チェーンの本部主導で行うようにしてはどうか。
年に数回店舗の担当SVらの本部社員が中立的な立場で、それまでの勤務実績や勤務態度、取得しているスキルなど細かく多岐に渡ったチェック項目を設けて、身内の偏見なしに査定するスタイルを取り、各従業員の昇給の有無、具体的な昇給額を算出し、最低賃金に上乗せする形でそれぞれの期間内の時給や、正社員の場合は固定給を決定する。
実体験として、例え10円であろうとも時給が上がれば、モチベーションは格段に上がったし、この店舗のためにもっともっと貢献できるよう勤務しようと、愛着は生まれ率先して勤務に当たることになったものだった。
どうしても経営者一族に昇給の判断を委ねてしまうと、昇給を渋ったり、好き嫌いなどの先入観が拭えず、正当に従業員を評価することは難しいだろう。
だから中立的な立場の人間が先入観なしに査定する、何ならコンビニ本部にそのような専門部署や社員を配しても良い。
1つのコンビニ店舗の経営・運営は、プロスポーツのチームと同じようなもので、どれだけ優秀な監督や指導者(オーナーや店長)がいても、実際にプレーするのは選手(従業員)であり、どれだけ優れた才能や能力を持っている選手(従業員)であっても、モチベーションが低ければプレーに精彩を欠き、チームの勝敗(売り上げ)に直結するだろう。
もちろん従業員1人1人の賃金が上がれば、経営者側が負担する人件費は増大し苦しくなるだろうが、従業員のモチベーションが各々上がることで、業務のクオリティーは上がり活気も出て、利用客にとっての満足度の高い魅力ある店舗に変わり、結果的に売り上げも上がり利益も増えることにつながるだろう。
そのための投資だと思えば、決して高い出費だとは思わないのだが。
昇給の有無や賃金に限らず1つだけはっきりと言えることは、人間=従業員を大切にしない店舗の経営は、絶対に上手くいかない。
従業員不足が深刻な現在なら、なおさら確信を持って言える。


 以上のように、自らの経験・体験を基に自分勝手にコンビニ業界に対する意見を書いてはきたが、実際のところここまでの抜本的な改革が行われる可能性は、そう高くないだろう。
しかし、こうしている今、現在進行形で日本中で多くのコンビニ従業員が頑張って働いている。
また新たな勤務先にコンビニを視野に入れている人も、大勢おられるだろう。
そんな方々に、辛い思いをしてほしくはないというのが本心であり、コンビニ業界に敗れて去らざるを得なかった僕ができる、最後の抵抗なのかもしれない。
コンビニ関係者の方々、一般の方々、どのような方の目にこの文章が届くのかはわからないが、コンビニに人生を捧げて敗れた愚者の戯言として、少しでも目にしていただければ幸いに思う。
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