第2話

文字数 5,263文字

 と言いつつも、コンビニで働いてみようかと思っている人も多くいるだろう。
そこでこの章では、コンビニで働くための第一関門の面接について書かせていただこうと思う。
面接という、完全な受け手側に回りがちの中、逆にこちらからもその店舗を見定めるための指標の参考にしていただけると、幸いだ。
 これまでの職歴において、僕はアルバイトに正社員も含めて、コンビニエンスストアで過ごした時間がかなり長い。
約10年の長きに渡り、様々なチェーンと店舗を転々としてきた。
色々な経営者の元で働いてきたし、様々な従業員も見てきた。
それらにまつわるトラブルも多く経験してきたことから、失敗してきた店舗を分析してケースごとの面接時にチェックするべき項目を、いくつか挙げていきたいと思う。
「コンビニの面接とは、その店舗をはかる指標である」が、僕の持論だ。

 「面接の順番が連続して詰まっている場合、前の人の面接時間が、平気で次の人の面接開始時刻を過ぎてしまう店舗はダメ」
 例えばあなたが15時からの面接を受けることになっていたとして、直前に受けている人の面接が15時を過ぎても、一向に終わる気配がない。
結局30分近く経過した頃になってようやく前の人の面接が終了し、あなたの番がやって来る。
このような店舗の場合は、採用されたとしても断った方が良い。
そもそもコンビニにおけるアルバイトやパートなどを対象とした面接では、ほとんどの場合、オーナーや店長など、その店舗の経営陣側の人間が担当する場合がほとんどだ。
つまり面接1つ取ってみても、経営陣側の人間性や店舗の雰囲気を如実に物語っているもので、綿密にリンクしている。
前の人の面接時間がオーバーして、あなたの面接開始時刻が押してしまう。
このような経営陣や店舗は、時間配分が上手くない=時間が有限だという認識に乏しいことを意味していて、実際に働いてみたとしても、時間による圧迫を従業員は常に受けながら業務をこなさなければならない、時間外労働やサービス残業にまで発展する危険性を秘めている。
 また、あなたの面接開始時刻が来ても面接を担当する経営陣側が、売り場や事務所で作業などに没頭していて、面接というものに重きを置いていない、せっかく面接を受けに来てくれたというのに平気でないがしろにされる。
このような店舗も、見切りを付けて別の店舗を探したほうが良い。
このケースの店舗は、従業員を非常に軽んじる傾向があり、人を大切にしない。
僕も経験したのだが、だいたいこの手の面接をする店舗のオーナーや店長は、自己陶酔型で自身を過大評価している場合があり、自分しか信用しないし自分は常に正しいといった自己中心的な人物で、売り上げを伸ばしたり店舗を拡大することしか考えていなかった。
ゆえに従業員、とりわけアルバイトなどは単なる駒に過ぎず、自分の考えやその時の思い付きだけで、コロコロと店舗の方針やルールを思い立つままに変えてしまう。
アルバイトやパート従業員にとって死活問題のシフトに関しても、面接時に話した内容や希望を無視して、独断で勤務日数を急に増減させたり、勤務時間帯を変えてしまったりする。
その店舗で僕は、22時から翌朝6時の1日8時間、週4日の勤務で入社したのに、ある時突然次の週のシフトを見たら、17時から22時の夕方の時間帯で週5日勤務に変えられた。
もちろん僕の意思確認どころか、事前の相談・報告なども一切なしに、問い詰めれば「店のためだから」の一点張りだった。
さらにこの店舗では、強制的に恵方巻などの季節ごとの予約商品を、従業員1人1人に大量に自腹で買わせて、自己責任で知人などに売ることを強要された。
当然賞味期限の短い食品を、それほど大量にさばけるわけなどなく、給与の何割かを実質天引きされたようなもの、おまけにオーナーや店長は僕たち従業員から搾取した売り上げを、ちゃっかりと予約が取れたことにして、地区順位のランキング上位に食い込むことに成功させて、SVから評価されて悦に入っていた。
本部に対してはとにかく良い顔をして、健全な店舗だというアピールを欠かさない割に、従業員に対する敬意が希薄だ。
給料日においても、給与明細をくれなかった。
こちらが計算した給与額と、実際に支給される給与額との間に差異もあったので、何度も給与明細の受け取りを要求した結果、渋々渡された明細内容が事実と異なり、店舗への利益に上乗せしているのか、限りなくブラックな店舗だった。

 「面接時間そのものがやたらに長い店舗はダメ」
 具体的には1時間近く、またはそれ以上にも及ぶ場合。
この手のタイプの店舗の経営者たちは、自己顕示欲が極めて強い。
面接時に、自分の出生からの生い立ちから始まる自分史やその店舗の歴史、果ては自分の野望などを延々と、こちらの意思とは無関係に興味がなくても、やたらと熱く語ったりする。
通常、一般的なコンビニにおける面接は、20分もあれば十分に事足りるもの。
このケースでも、最初のうちに面接らしい面接を一通り済ませつつ、その前後の残りの時間では一応面接らしいことも挟みながらもその実、ほとんどがこちらとしてはどうでもいい、完全なる経営者側の語りたがりな独壇場と化してしまう。
こういう経営者(オーナー、店長)は、前述のケースとはまた違ったタイプで我が強い自己顕示欲の塊で、他人の意見を聞いている一見良い人そうな対応を見せつつも、実際には全然聞いていなくて、従業員などのこちらの要望が全然通らないこともざらなので、やめておいた方がいい。
時に一方的に語り続け、時にこちらに質問攻めにしながらも、答えた内容など覚えていない脳から抜け落ちていく、不毛な長時間の面接に直面したら、早々に見切りを付けて適当な理由を挙げて面接を終わらせることが、何より賢明だろう。

 「やたらと店舗を含めたファミリー感や従業員同士の絆を強調した面接はダメ」
 この手のタイプの店舗・経営者たちは、一見皆仲良く従業員と店舗は家族みたいなつながりを主張してきて、冷静に聞くと胡散臭い。
もっとも本当に皆仲良く家族みたいな居心地の店舗もあるにはあるので、絶対にダメとは言い切れないが、少なくとも集団行動があまり得意ではない、自分の時間を大切にして働きたいと思っておられる方々には、やめておいた方が良いと言える。
この手の胡散臭い絆店舗に入社してしまえば、まず絶対的にあなたにもその輪に入ることを物腰は柔らかいが強要されることになる。
何かと言えば仲間だから家族だからという免罪符をごり押しして、誰かがミスをしたり大量廃棄などの大きな赤字が出れば、罰金などの理不尽な連帯責任の強要。
恵方巻やクリスマスケーキやおせち料理などの予約時期には、これまた皆で協力という無理なノルマを押し付けられる。
また全員揃ってのミーティングなどを、頻繁に行うのもこのタイプの店舗の特徴だ。
仮にそれが自分のシフト外の休日で予定を立てていようとも、断ることは許されない。
大した効果も上げないのに、全員参加の強制参加の集まりに呼び出されては拘束される。
実際に経験したのだが、1ヶ月の休日のうち半分近くにミーティングと称した集まりに呼び出され、休日が台無しになることなど日常茶飯事だった。
自分の予定はもちろん、友人たちとの約束も取り付けにくくなるし、休日でも働いているようなものだった。
おまけにミーティングなどで拘束されている時間には、給与などの賃金は一切発生しないのもブラックだ。
だから面接時に、「家族ぐるみのように」とか「従業員は皆仲良し」とか「絆を大切にしている」などのフレーズが飛び出した際には、よく耳を傾けてみて、経営者側の人間の表情や雰囲気から、何か胡散臭そうだぞと感じた時は要注意だ。

 以上のように、僕が実際に勤務してみた店舗での実体験だけでも、これだけブラックな店舗は平然と存在しているし、彼らにしてみれば、それも含めてのコンビニ経営・業務なのかもしれないが。
これからコンビニで働いてみようと思われている方々には、僕と同じ失敗や嫌な思いはしてほしくないと、心から思う。

 では最後に、もう少し突っ込んでコンビニの面接を受ける際の実践編を書いてみたいと思う。
僕はある店舗で副店長をしていた時があり、実際に自分が面接をする側だったこともあった。
その経験を踏まえて、面接ではどんなところをチェックされているのかを中心に、いくつかのアドバイスを。

 まず面接の応募を電話でする場合は、その店舗の忙しい時間帯は避けたい。
朝のラッシュ時(6時~9時)、昼のピーク時(12時前~13時半くらい)、夕方(18時~21時)など。
店舗の立地、オフィス街であるとか郊外であるとか、近くに学校があるなどにも左右されるので、その辺りを考慮に入れて。
 応募を無事に取り付けていざ面接当日は、まず服装や身なりは無難に。
正社員求人ではない場合はスーツの着用は必要ないが、男性の場合だとYシャツに綿パンなど、女性の場合でもそれに準ずるものが望ましい。
 面接の予定時刻の10分前には対象の店舗に到着するよう、あまり早く行き過ぎてもダメだし、遅刻すればその時点で落とされることがほとんど。
やむを得ない理由で遅刻する場合は、店舗にちゃんと連絡を入れること。
 履歴書で重要なのは写真だ。
証明写真が貼っていないだけで、僕が副店長を務めた店舗ではオーナーの指示により、どれだけ仕事ができそうな人でも不採用としていた。
なので証明写真は絶対に貼ること、少しの手間とお金を惜しまずに。
氏名や学歴、職歴(アルバイトも含む)、免許や資格や志望動機などを、簡潔にしかし正確に嘘偽りなく、できるだけ細かく記入漏れのないように。
 店舗に到着後、たいてい事務所に通されると思うが、まずざっと事務所の中を見渡し観察してみてほしい。
整理整頓ができているかどうか、余分なものがなく清潔な感じがするかどうか。
これがいい加減、例えば机の上に書類などが散乱している。
販促物や備品が散らばっていて足の踏み場もなく、出入りするのもやっと、椅子に座っても圧迫感があるなど。
あと至る所に従業員の物と思しき私物が置かれている場合は、防犯意識も低く、採用されて勤務したら盗難に遭ったりすることもあるので、気にしてみてほしい。
僕はちなみにそのような店舗で、鞄の中の財布から数千円盗まれたことがあった。
 面接自体では、シフトに関する希望はしっかりと、念押しするくらい言うこと。
勤務可能な曜日に時間帯、具体的な勤務開始可能日時や勤務を希望する期間など。
これらが上手く伝わっていないと、いざ採用されて働きだしてから自分の希望と異なるシフトを組まれても、「面接時に聞いていない」などと言われ、結局店舗の都合を押し付けられるトラブルの元になってしまう。
期間満了で辞めるタイミングが来ても、辞めさせてもらえない抜けさせてもらえないということになってしまう。
あと、その店舗で働いていく上でのこと、疑問や不安点や、面接時に不審に感じることなどがあれば、どんな些細なことでも聞きうやむやにしないことも重要だろう。
自分の中で、もやもやとはっきりしないままの疑問を残したまま働きだしたとしても、いらぬ心労や不信感を抱いたままの日々を送るのは、とても辛いし長く続かないだろう。
面接だからと言って、何も臆する必要なんてない。
しっかりと言うべきことは主張して、聞くべきことは聞き出す。
受ける側と言っても、面接とは一種の交渉のようなものなのだから。
 できれば、この店舗で働いてみたいなという気持ちになったなら、面接に応募する前に一度、実際にその店舗に足を運んでもらうのも、失敗しない店舗選びの1つかもしれない。
お客さんとして店内を観察しながら買い物をしてみてもいいと思うし、店舗の外から店内の様子をしばらく観察してみるだけでも、得られるものはあると思う。

 以上のように、僕の経験や得てきた情報を元に、コンビニの面接における見解を書いてはみたが、情報から事前にトラブルを回避できる場合ももちろんあるだろう。
しかし、実際に入社して働きだしてみないとわからないことや見えてこないことも、残念ながら存在するのも事実だ。
何事もやってみなければわからない、けれど事前に情報を持っているのと何も持っていないまま飛び込むのでは、結果は大きく異なる。
ずいぶんと嫌なことを体験し、辛い日々を過ごしてきた代わりに得た魂を削った僕のもたらせる情報が、これからコンビニで働いてみようと思われている、前途ある方々にほんの少しでもお役立ていただければ幸いに思う。
どうか皆さんのコンビニライフが、快適で素敵なものとなりますことを願い、充実した人生を送れますことを祈って。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み