その3

文字数 2,087文字

 その後、大きな問題もなく、だが特に進展もなく午前の授業が終わり、昼休みとなった。
 学生たちは授業から解放され、友達と集まってランチを楽しむために急いで生徒用の食堂へ向かう。長い列が食堂のカウンター前にでき、トレーを手に持った学生たちは日替わりメニューやおなじみのランチを選ぶ。
 テーブルには様々なグループが集まり、それぞれが賑やかに会話を楽しんでいる。あるテーブルではスポーツチームのメンバーが試合の戦略を話し合い、別のテーブルではクラスメートが次の授業の宿題について相談している。食堂の片隅では、数人の学生がスマホを手に、最新のミーム動画をシェアして笑い声をあげている。
 食堂のスタッフは忙しく動き回りながら、学生たちに食事を提供し続けている。カウンターの奥では、次々と料理を作り上げ、ホットドッグ、サラダ、ピザなどの人気メニューが次々と補充されていく。飲み物のディスペンサーやデザートコーナーにも列ができ、学生たちはお気に入りの飲み物やスイーツを手に入れるために並んでいる。
 
 ここやってくる風紀員たちの監視はゆるい。食事を奢れば、多少の違反は見逃してもらえる。暴行や器物損壊でも起こらなければ教師が来ることもない。禁止されているはずのスマホを取り出している光景がしばしば見られるのはそのためだ。Gシェパードは作ってきた弁当を教室で食べることが多いのでケントたちにはありがたいことだ。
 ごく一部の教員は違反物品持ち込みの事実を知っているが取り上げるのも面倒なので、昼休みの時くらいは、と黙認している。だが食堂を一歩出れば、ポイント稼ぎの生徒会員や風紀員に取り締まられる。かつて、違反者から賄賂を受け取った風紀員が、違反者を上級生の風紀員に報告し委員会で昇進もしたという、ずる賢い陰湿な事件もあった。

 その中でケント、ミセル、レイ、そしてネキは食堂の角の方でこっそり集まり、今後の行動について話し合っている。
「ミセル、朝はどうだった」
「職員室には2人いた、作戦実行の日の状況によって増えたり減ったりするかも。撒く方法を考えなきゃ。でも金庫を開けるためのパスワードか鍵はどうやって入手する。そもそもダイヤル式なのかコードを打ち込むタイプなのかもわからない。僕らが知っているのは奥の方に黒い金庫があって、そこにテストのデータが入ってるってことだけ。開け方まではわからない。金庫を開けるために、製造元や素材を調べようにも付近には立ち寄れないように奥の教師が監視してる。朝礼集会を利用してまた行くのか。」
「それはだめだ。こちらは4人しかいない今日お前を使った。あと俺を合わせて3人1回ずつしか朝礼を休めない。実行の日はネキがやるから、朝礼を利用して調査できるのは実質あと2回。それに何度もやってると怪しまれる。そこでだ、あれをみろ、」
「食堂の調理ね、それがどうしたのよ」
「あの奥に、業者が職員室にランチボックスを持っていくための通路がある。俺たち生徒が職員室に入るには、いつも皆が出入りしている扉、朝ミセルが確認しに行った場所だ、それから運動場に面した出入り口、この2つを通るしかない。だが、その2つの出入り口からでは金庫まで遠すぎる」
「まさかケント、調理場から侵入するって言うのか」
「そうだ、ランチボックスの配達業者が使う職員室の入口のすぐそばに金庫がある。誰かがそこに行って金庫の製造元と製造番号を調べてくる。」
「待ってよ、そもそもどうやってその通路に侵入するのよ。通路の存在はみんな知ってるけど、あそこには入っちゃ行けない決まりがあるわ」
「それを、次の数日で考えるんだ。侵入の経路は2つある。まず一つ、これは単純だ、ここからカウンターに行って調理場に入ってそのまま突っ切って、その通路まで行く。もう一つは調理場の裏手にある駐車場だ。業者が配達に来る時に使う。そこからも侵入できる。」
「前者を取るなら誰かを買収しなきゃね、昼食時は大勢も見てる。でも食堂にはここの生徒がボランテシアで手伝いをしてるわ、何人か親しい知り合いもいる、取り入れやすいわ。だけど業者の方は知らない大人よ。難しいかも」
「いや、その方がいい場合もある。配達業者は学校とのつながりは持ってない、もちろん学校の規則もよく知らない。ただ給料を貰うための仕事をしてるだけだ。俺たちがそこにいても何も思わない可能性は高い」

 ネキも協力したそうに発言する。
「それ、行くなら、私が行くわ。なんでもやってもらってたら申し訳ないし、、それにTFCは結構いろんなところに目をつけられてるでしょ?」
「やってくれるのね、ネキ。私たちがしっかりバックアップするわ」

 しばらく話し合っていると、午後の授業の始まりの予鈴が鳴った。教師らが急かしにくる。
「おい、もう授業が始まるぞ、教室に戻れ」
 
「今日の放課後もう一度整理しよう、くれぐれも悟られないようにな。特に俺たちの組にいるGシェパードと、それからミセルの組のキングには注意しろ」
 4人はお互いの目を見て、静かに相槌を打った。
 ネキの心の内には徐々に自信と希望が現れ始めていた。




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