その4

文字数 1,940文字

 午後の授業中も、Gシェパードなどが目を光らせて、ケントらに注意を払っていたが、彼らは教室内では近くに互いにいないようにと念を押していたため、無事に6時限目までを乗り越えることができた。

 授業の終了を知らせるチャイムが校舎中に響き渡ると、教室の中は一瞬にして活気づいた。早速部活の準備をする者、さっさと教科書を片付ける音などで賑やかになる。友達同士で笑い合う声が交錯し、廊下には生徒たちが騒がしく流れ出てきた。

 教室の窓から差し込む太陽光がが、教室の中を柔らかく照らしている。窓際の席に座っていたGシェパードはその光のもと最後まで監視を怠らなかった。

 ケントらはすぐにTFCの部室へ向かった。
 体育館からはバスケットボールの練習をする音が聞こえ、音楽室からはピアノや吹奏楽の練習をする音が響いていた。その喧騒の中に溶け込むように堂々としていれば問題ない。途中で出くわす、風紀委員や生徒会の連中となるべく目を合わせないように、自然を装い部室へ歩いて行った。

 TFCの3人とネキの合わせて4人が、昼食以来再び集まった。風紀委員や生徒会の権限がほとんど及ばない数少ない場所である。と言うのも、TFCはその特殊性から、直接の上級の管轄が生徒会ではなく、その上部に存在する教頭であるからだ。実は簡単に手出しできる部活ではないのだ。命令権限も解散権限も、教頭か校長しか持っていない。
 だが今回のミッションは期末テストのデータを盗むこと、つまり教頭たちは敵になるのだ。TFCにとってもこのような事態はこれが初めてだった。

 ケントが部内会議を始めた。
「じゃあ今日のことを整理しよう」
 するとレイがノートにまとめた資料を元に始めた。
「まず、データ奪還当日の日ね。便宜上これはX-DAYと名付けるわ」
 ミセルが挟む。
「いいセンスだな」
「ちゃんと聞いて。それで、X-DAY当日の朝礼集会中、職員室に2人の教員、日本史Aと化学が中にいるって予想されるわ。これをどうするかがまず一つ」
「続けてくれ」
「それから金庫を開けるための方法を見つけるために、金庫に近づかなきゃいけないわね。調理場を突っ切っていくか、裏手からいくか、これが二つ目の問題」

 ケントが答える。
「時間は一ヶ月しかない。まず、その2つ目の問題についてはあと5日で片付けたいところだ。レイ、調理上に親しい知り合いがいると言っていたな。信頼できるのか」
「少なくとも人を裏切るような正確じゃないわ。中でもビックベイカーは良いやつよ。」
 調理場でボランティアをしているX組の生徒だ。大柄だからそう言うあだ名がついた。

「あいつか。だが奴の風貌は少し目立つ。奴と会話しているところも目につきやすいだろう。」
「でも数少ない信頼できる男よ。数ヶ月前私たちがレポート作成の依頼を受けたでしょ。貸しがあるわ」
「確かにそうだな。だが、当日入るのはネキだろ、大丈夫なのか、ネキはどう思う?」

 ネキの方に話を振る。ネキはこのような会合に慣れていなかった。
「え、あ、私は、そうね、裏手から入る方のが安全だと思う。でも裏手から入ったとしても、中の通路に誰がいるかもわからないし、警備員のサトウさん、昼食時にはあの辺にいるんじゃないかな。だって、あそこにはランチの配達業者とは言っても、外部の大人がくるわけだから」
 やはりあそこはそう簡単には崩せないのかもしれない。彼らはしばらく沈黙したが再び策を練り始める。
 2時間ほど解決への道を探ろうとしたが、やはり机上の考察ではどうも現実との乖離を感じる。上手いアイデアも出せそうになかった。
 
 そこでケントは提案した。
「そうだな、じゃあ、こうしよう。あと5日で、ネキが決めろ。俺たちも昼食時、よく観察して、仲間にできそうなやつをまとめていこう。」
「ええ、わかったわ。私がやるんだから、よく考えて決めるわ」
「そうね、ネキ、あなたの勇気を称えるわ」
 自分を信じる仲間ができたようでネキは少し嬉しかった。

 ミセルが締める。
「そうと決まれば今日は帰ってゆっくり休もう、学校を出て数十メートルのところまでは風紀の連中には気をつけろよ。あと不良連中によくわからない言いがかりをつけられないようにな。お疲れさん、じゃ」

 校門付近では、部活動を終えた生徒たちが自転車を押して帰る準備をしている。友達と談笑しながら、「明日までの宿題、まだやってないや」と少し焦った表情を見せる生徒もいれば、「この後家でゲームだ」と楽しげに話す生徒もいた。ごく普通の日常的学生生活の様子である。

 しかしケントたちはその平穏の中で確かに計画を組んでいく。
 この地に聳え立つヴァンガード学園ハイスクール。この陰謀が渦巻く高校で、着実に彼らの策略が進められていくのだった。
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