プロローグ

文字数 1,785文字

 某年、都内、ヴァンガード学園ハイスクール。ここの職員室にある女子生徒が呼び出されていた。
「ええと、阿呆ネキさんだね。今日ここに呼び出したのは他でもない、君の成績のことだよ。普通はね、適当に勉強していても40%の得点は取れるようになってるんだよ、うちの定期テストは。赤点は各教科30点以下。でも君は、1学期の中間、期末、そして2学期の中間テスト、全部赤点じゃあないか。単刀直入に言うが全く勉強してないだろう?」
「ええ、はい、、」
「あのねえ、廊下でいつもタバコ吸ってるあのクソガキどもでも赤点は取らないんだよ。学校としても、何も身につけてない人間を世に出すわけにはいかない。厳しい措置だが、頑張って努力することは学んでもらわないと。君には次の期末テストで80パーセント以上の得点率を出してもらう。でなければ留年だ」

 彼女は職員室を出ると渡された成績資料を持って、涙ながらにある場所へ走って行った。『タスクフォース部』の部室だ。どん底に陥った生徒を救うことを目的に設立された部活、通称TFC。設立以来ここに救われた者は数え知れない。
 
 部長はネキと同じクラス3年Z組の、"苦楽ケント"。的確な指示と策で多くの生徒を救ってきた頭の切れるリーダーだ。
 
 そして部長の元で活動する2人の部員がいる。
 一人は知識担当の男子生徒、"門三ミセル"。ケントとの仲は入学以来で、彼の良き相棒だ。隣のY組の生徒である。
 もう一人は情報通の女子生徒、"嶺レイ"。これはケントと同じ組の生徒で、学内の情報をいち早く伝えてくれるスパイのような存在だ。

 ネキは自分の状況を隈なく伝えた。
「ミセル、資料から次のテストで彼女が取れそうな点数はわかるか」
「1学期の中間から順に得点率が29、25、21%。中でも数学と理科は特に悪い。なぜか知らないけど理系で、校外模試で偏差値が45を超えたこともなし。これからどれだけ頑張っても、良くて各教科50、60点が限界だね」
 ケントは深くため息をついた。
「絶望的だな。さあどうしようか」

 そして、しばらく考えたあとこう放った。
「期末テストのデータを職員室から盗み、試験の解答を暗記させるしかない!」

 他の2人は唖然とした。そんなことが道徳的に許させるのか。いや、そも、それは可能なのか。これまで幾度となく生徒を救ってきたが、厳重に管理された重要なデータを盗むなんて任務は初めてだ。

 レイが口を開く。
「でも盗み出すなんて大変よ。いつテストが完成するかもわからないし、わかったとしてもデータが保管される金庫の暗証番号もわからない、その上、金庫までどうやっていくのよ。」
「あと1ヶ月以内に方法を探すんだ、ミセル、レイ」
「なあケント、ほんとに大丈夫か。教師をうまく騙してあそこまでいけるとほんとに思ってるのか。教師以上に厄介な連中もいるぞ、生徒会に風紀委員会、よくわからん不良たちも」

 確かに厄介な障壁がたくさんあった。Z組には、最強の風紀委員長"伊那イナ"通称Gシェパードがいる。警察犬のようにかぎ回り、あらゆる違反物品を検挙してくることからそう呼ばれている。こいつに目をつけられたら大変だ。
 もう一つ厄介なのは、職員室とその近辺によく現れる生徒会員たちだ。立場上、風紀委員会よりも強い権限を持ち、教師らとのパイプが太い。計画がバレれば即刻、退学案件だろう。会長の"武田カツ"は、こいつはキングと呼ばれていて、威厳とか正義とかほざいてる男だ。それから副会長の"叶カノン"、こっちはクイーンと言う愛称で一部の者に親しまれているが、人のやることに陰湿な嫌がらせをすることを好む意地の悪い女だ。まず関わりたくない存在である。
 そして警備員のサトウ、入学当初からケントを始め多くの生徒の相談にも乗ってくれた、優しいお爺さんだ。こいつを裏切るのは気が引ける。できれば警備経路から外れた部分から進行したい。

 その他にも多くの壁がある。

「だがやるしかない、彼女の成績ではそれ以外に、未来を開く道はない!ミセル、レイ頼むぞ」

 3人はそれぞれ手を合わせ、鬨の声をあげた。ネキはその迫力に息を呑んだ。

「それから、そこのネキ。お前も加われ。知っての通り俺たちTFCは多くの組織に目を付けられている。一部のミッションはお前が遂行するんだ、いいな」

 こうして阿呆ネキの留年回避作戦が開始されたのだ。
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