その1

文字数 1,602文字

 翌日、朝礼集会前、教室でケントは改めて期末試験データ奪取計画のプロットを練っていた。
 
 向こうのほうでGシェパードの声が聞こえる。
「あら、これは何?」
「頼むよ風紀長、見逃してくれ、」
「だめよ、ここではスマホは禁止なの。これは担任に渡すまで私が預かるわ。良い?嫌なら違反をしないこと、すぐにわかるんだから」

 ケントのところへネキが寄ってくる。
「ねえ、苦楽君、」
「ケントで良い、聞こえやすよう。それから君もつけるな」
「ああ、ケント、作戦は順調に行きそう、なの?」
「それを今調べてる」

 その時Gシェパードと目が合ってしまった。
「ちょっと、そこの2人、何こそこそ話してるの」
「少し世間話してただけさ。あんたも混ざるか」
「興味ないわ。くだらない。それより、この高校では、男女間の距離は適切に保つようにと言う校則があるわ。気をつけなさい。あと阿呆さん、あなたがクラスのテストの平均点を下げてるって聞いたわ、男と話してる暇があったら勉強しなさいよね」

 ネキは悲しい顔で自分の席に戻り、英単語帳のようなものを開いていた。だが正論でもある。そもそもこのネキがちゃんと真面目に勉強していれば、今の事態はなかった。しかし、これもTFCの役目。彼らにとって、一度引き受けた依頼は最後までこなすのは当然である。

 早速、ネキがGシェパードに目をつけられてしまった。ここままではまずい。この風紀委員長は逐一全てを観察してるようだ。おかしな行動を取ればすぐにわかるだろう。計画を成功させるためにはGシェパードを撒かなければならない。
 ケントが彼女の監視から外れる時間がある。昼食休憩時と、体育の授業の前後の着替えの時間、そして放課後だ。昼食時は多くの者が食堂か教室を風紀長から見てランダムに移動するから、そもそも監視できない。着替えの時間は当然男女が別になるから監視はない。放課後は彼女は自分の部活動に励むか風紀委員会や生徒会の議会に参加してる。計画実行の下見などはこの時間にするしかない。
 
 しかし、それらの時間以外もいつどの教師がどこにいるのかを把握しておきたい。これに関してはY組にいるミセルに任せるしかない。情報収集はレイにやってもらいたいが、当然同じZ組、Gシェパードの監視を受ける。一方でY組の風紀委員の監視は厳しくないと聞く。噂では賄賂で買収できるということも。

 いろいろ思案するケントに向かってGシェパードは付け加えた。
「良いこと?私は3年間ずっと風紀委員をやってきたの。やましいことはすぐにわかるわ。顔に出るから。今のあなたの顔は、そうね、何か深い考え事をしてるみたいな顔ね。はっきり言っておくわ、どんな違反も逃さないから。特にTFCの連中には注意しろって言われてるの」
「わかったよ、そんなにキツく当たらないでくれ」

 Gシェパードはそのまま別の生徒の元へ風紀を正しに行った。奴との対面はやはり緊張が走ることを改めて実感した。
 
 まずは、これから朝礼集会がある。多くの教師が出るが隙も生まれるはずだ。1ヶ月後の期末テストまでに朝礼集会は今日のを除いてあと4回訪れる。今日の集会では、残りの4回の集会中に何ができるかを探ることが必要だ。
 集会中、ミセルには理由をつけて保健室で休んでもらうことが前日の話し合いで決まっていた。養護教諭の目を盗んで保健室を出れるか、出れるならそのままバレずに職員室に忍び込めるかを確認するためだ。
 それらが全てできるなら、3回目か4回目の集会の日までに、金庫を開ける方法を見つけ、集会中に、今度はネキが同様に職員室に忍び込みデータを盗み出すという大まかな作戦計画が前日の段階ですでに出されていた。
 
 これはケントの案だったが、彼自体はこれはそう簡単にうまくいかないと思っていた。しかしとりあえずやってみると言うことをしなければ前進しない。
 一つ一つ丁寧に崩していかなければ全てが終わるのだ。
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