その2

文字数 1,810文字

 朝廷の集会で、学園の生徒たちは整然と並べられ、生徒会長キングの演説を聞いている。奴は、この学校の未来のためだとか、品格を保てだとか、勝手にやっていろと言う話を長々と語っている。朝礼集会の話というものは、無駄で長ったらしい説教じみた内容で眠くなる。

 ケントは教員に怪しまれないように周囲を見渡す。どの教師がここにいて、どの教師が職員室にいるのかを、ミセルの情報と照らし合わせ、ミーティングで状況を整理するためだ。 
 周りを見ていると、ついでにあることに気づく。どうやらこの集会に不良の連中は集まっていないようだ。あいつらは基本手に負えないから放置されているのだろう。こちらから危害を加えなければ、学校で問題を起こすことはないため教員からも見放されている。風紀委員や生徒会の連中からも完全に関わりを持ちたくない存在として、逆に無視されている。これはチャンスかもしれない。奴らをうまく利用して期末テストのデータを盗めるかもしれないのだ。

***
 一方ミセルは保健室で機会を伺っていた。時計を見たりしながら、

「あの、先生。お腹の調子がさらに悪くなったみたいで、、トイレに行ってもいいですか」
「わかったわ。いってらっしゃい」

 保健室を管轄している擁護教論は基本的にこちらの味方である。だが不正や悪は許さないといった性格の持ち主だ。以前、ある生徒が嫌いな教師の授業をズル休みし保健室で休んでたことが発覚、その生徒をひどく怒鳴りつけたという。こちらの計画は絶対に悟られてはならない。

 職員室は保健室と同じ1階、保健室を出て右の方へ直進すれば、右手に入り口がある。ミセルは早速、職員室の偵察に向かう。トイレに行くという名目で部屋を出た。そのトイレは職員室へ行く途中の左側にある。時間は限られている。
 
 音を立てないように職員室の前まで慎重に進む。そっと扉を少し開け中を確認する。室内には化学と日本史Aの教師の2人がいた。朝礼集会の時はここにいるのか。当初取り決めた作戦に従うなら、期末テストデータ奪取を実行する日にこの2人を撒く方法を考えなければならない。
 "化学"の方は簡単だ、スケジュールでは3回目、4回目の朝礼集会がある日の1限目に、化学実験の授業がある。こちらから誘い出さなくても、向こうから勝手にその準備に行ってくれる。
 問題は"日本史A"だ、よくわからない思想を持ち、独裁主義がどうこうとか訳のわからない考えを述べて、権力者が壇上で語り続ける学校の集会というものを嫌い、参加しないというのがこの学園では有名な話だった。行事日程やスケジュールなどから行動が読めない奴だ。敵対はしていないが、計画遂行に支障をきたしそうな人間である。

 保健室から職員室に至るまでの時間、室内の教員の把握を終え、ミセルは保健室へと戻った。

***
 集会が終わり、生徒らは自分らの教室に戻るところであった。
 ケントのところにキングがやってきた。

「やあケント、集会はつまらなかったかい?僕が喋っている時、よそ見してたろう」
「暇つぶしに床のタイルを数えてたんだ、あんたの話は眠くなる」
「そんな事言わないでくれよ。いいかい、我々の力をあまり舐めないでくれ、君たちの解散を上層部に働きかけることだってできるんだぞ。規律が重要なんだ。君たちの例外的な行動はある程度多めに見てやるから、しっかりしてくれ、じゃ」

 あの偉そうな男ほど気に入らない奴はない。計画に邪魔な上に、元より関係を持ちたくない人間だ。権力を持つ人間に限ってなぜこうも偉そうなのか。
 しかし、このキングは教員以外で唯一、職員室の鍵を持っているのだ。データダッシュの時も金庫を調査する時も職員室には入る。そもそも鍵が空いている時間帯を狙って侵入することになっているが、不可能な場合にはやはり鍵が必要になるのだ。奴はいずれ立ちはだかる大きな壁になるかもしれない。

 阿呆ネキは廊下をゆっくりと歩いていた。頭の中はぐるぐると渦を巻く思考でいっぱいだ。愚か者だが、次のテストに人生がかかっていることを思うと思考を止めずにはいられなかった。焦りと不安が胸を締め付ける。「どうすればデータを手に入れられるだろうか、私は何をやることになるんだろうか、自分には何ができるのか」と心の中で自問自答する。教室に戻る途中、窓から差し込む陽光が心を少しだけ和らげるが、依然として重い空気が彼女の心に一層強い焦りと不安を呼ぶ。
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