第2話 異常進化

文字数 1,458文字

 同時刻
 つくば市 天台高校

「ねえ、光太郎? 今日の卒業式でお別れね」
「……ああ、卒業おめでとう」
「ホントにお別れね。寂しくなるわね」
「……ああ」
「明日には、空港行くわ」
「ああ……」

 鈴姉とは今日で、ホントのホントのお別れだ。
 これといって、何て言おうとも考えていなかった。
 
 お土産買ってきて?
 海外でお幸せに?
 大学の名前が未だに覚えられません?

 でも……これで、ホントにオ・ワ・カ・レ……。
 
 なのか……。
 
 鈴姉は頭がいい。
 そりゃあ、海外のナントカ大学へ行くのはどこもおかしくないけどさ。

 でもなあー。

 なんかなあー。

「よっ! 光太郎! いつまでも、校舎の隅にいないで、外へ出てみろよ。空から何か降って来るんだ」
「ああーん?」

 友達の佳山の声に。
 廊下の窓際から見える空は……。

 いつもの血のように赤身がかって……。
 太陽光線が真っ赤だった。

 このところ世界中で、異常気象が目立ってきていた。

 赤い空から、小さな黒い斑点が見える。
 佳山の言う通りに、空から何かが無数に降ってきていた。

「鉄屑? 大空がゴミを捨てたみたい? だんだんこっちに近づいてるわね」
「大きいなあ。あれ。まさか爆弾なんじゃ……」
「いや、ありゃ、カプセルだろ? だって、円筒形で窓みたいなものがあるじゃん」

 鈴姉が佳山と一緒に、空を見上げた。
 確かに、窓のような外から中が見えるような透明なガラスがついている。それはまるで巨大なカプセルのようだった。
 
「うーん……なんだろ? あれ?」

 光太郎は目を凝らした。

「いや、どう見たってありゃ、カプセルだろ!! 中に何か入ってるんだよ!」
「え? え? 宇宙人でも入ってるのかしら?」

 遥か遠くの地面に、一つのカプセルが落ちていった。
 凄まじい衝撃音と共に、道路の瓦礫など車の破片などと共に透明な水が飛び散った。

 ここまで、爆発的な水飛沫が飛来する。
 それを機に、街の至る所から爆発や破裂音が木霊する。

「光太郎! ひ・な・ん! 避難した方がいいわ! ほら、急ごうよ!」
「ありゃ! こっちに飛んでくるぞ!」
「お、おう!」

 水に濡れた何台かの普通自動車が、こっちへ飛んできた。 

「鈴姉! あっぶねええええーー!!」
 
 光太郎はどんどん距離が縮まってくる普通自動車に、鈴姉の危機を感じ取った。急いで、光太郎は鈴姉を庇おうとするが、すでに鈴姉の頭上には一台の普通自動車の前輪タイヤがあった。

 そのまま普通自動車は、音もなく鈴姉を押し潰す。

「す! 鈴姉!!」
 
 慌てて、光太郎と佳山は普通自動車に駆け寄り、精一杯車体を押し上げようとした。二人掛かりに力押しで、普通自動車の車輪を持ち上げる。案外なことに火事場の馬鹿力か、車体ごと斜めに少し持ち上がった。

 地面にめり込んでいた。近くの普通自動車の後部座席のドアが開いた。
 中から、血塗れの得体の知れない生物が這い出てきた。

「う、うわ!」
「光太郎! 鈴姉はもう助からない! 逃げよう!」
「って、ふざけんなーーー!」

 光太郎はわけもわからず。その得体の知れない生物を殴る。

「何やってるんだ! 光太郎!」

 佳山がそんな光太郎を見かねて、羽交い絞めにすると、ずるずると後ろに引っ張っていった。

「離せ! 鈴姉にまだ何も言ってないんだ!」
「そんなことは後で良いから! うわっ!」
「……鈴姉……が……」

 普通自動車が後からも、無数に飛んできていた。
 空から降るカプセルは地上へと、まだ降り注いでいる。
 地面にめり込んだ車体からドアを開けて、得体の知れない生物が這い出てきた。
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