1杯め
文字数 1,074文字
列車を降りたホームにあった自販機。そこで仁美 は缶コーヒーを買った。交通系ICカードの残高が表示される。
思いのほか減ってきたなあ。チャージは多めにしてあるので支障はないが。
損しているんだろうな。仁美は思った。
* * *
仁美は地下鉄を出て、知らない街に出た。来たことはないが、道はあらかじめ地図で調べてある。時間も、充分なほど余裕をもたせてあった。
途中で見つけた自販機で缶コーヒーを買った。カフェインを摂らないと、頭がボンヤリしてしまう。これから向かう会場では、ちゃんと目を覚ましておきたい。
会場は公共施設の一室だ。グループでそのたびごとに借りている。料金は無料だ。施設管理者のほうも、非営利団体だとか福祉の一環だとかと捉えているからだ。
仁美は現地に着いて建物に入り、掲示してある表を見つけて部屋を確認した。勝手を知らない初めてなのだが、ためらっていてもしようがない。思いきって行くのみ。
仁美が扉を開けると、すでに一人が在室していた。グループの『代表者』になっている香織 である。香織は仁美に優しく微笑んで参加者であることを確認すると、「初めてですよね? 資料がありますので一枚ずつ持っていってください」と伝えた。もらった資料を黙読する仁美。香織は熱心に事務作業をしている。二人だけで、静かだった。
しばらくして、別の参加者も来た。初めてではないので香織とはもちろん顔なじみで、あいさつを交わす。
「香織さんこんにちは!」
「柚月 さん、こんにちは」
柚月は小柄な体にはやや不似合いなバッグを慌ただしく机に置くと、仁美に声をかけた。「初めてで申し訳ないんですけど、カップ洗うの、手伝ってくれますか?」
不躾 なお願いだと思うかもしれない。グループの運営というものがどういうことなのか、それを知らない人だったら機嫌を損ねるかもしれない。だが、柚月もボランティアでやっていることなのだろう、と仁美は理解した。これも柚月の『仕事』ではないのだ。だから仁美は手伝うことにした。いずれにしても仁美は、頼まれたら断れないタチなのであるが。
部屋を出て洗い場に向かう柚月。仁美は付いていった。柚月が食器棚から施設の備品であるコーヒーカップのセットを取り出し、それを二人で洗い始める。
「私は柚月といいます」柚月が名乗った。「遅ればせながら」と笑う。
仁美も「竹内 です、よろしくお願いします」と自己紹介した。なにを『よろしく』なのかは分からないが。
仁美は生真面目な性格で、笑顔の少ない物静かな人だ。しかし柚月は、協力的で真摯な仁美のことがすぐに気に入っていた。
思いのほか減ってきたなあ。チャージは多めにしてあるので支障はないが。
損しているんだろうな。仁美は思った。
* * *
仁美は地下鉄を出て、知らない街に出た。来たことはないが、道はあらかじめ地図で調べてある。時間も、充分なほど余裕をもたせてあった。
途中で見つけた自販機で缶コーヒーを買った。カフェインを摂らないと、頭がボンヤリしてしまう。これから向かう会場では、ちゃんと目を覚ましておきたい。
会場は公共施設の一室だ。グループでそのたびごとに借りている。料金は無料だ。施設管理者のほうも、非営利団体だとか福祉の一環だとかと捉えているからだ。
仁美は現地に着いて建物に入り、掲示してある表を見つけて部屋を確認した。勝手を知らない初めてなのだが、ためらっていてもしようがない。思いきって行くのみ。
仁美が扉を開けると、すでに一人が在室していた。グループの『代表者』になっている
しばらくして、別の参加者も来た。初めてではないので香織とはもちろん顔なじみで、あいさつを交わす。
「香織さんこんにちは!」
「
柚月は小柄な体にはやや不似合いなバッグを慌ただしく机に置くと、仁美に声をかけた。「初めてで申し訳ないんですけど、カップ洗うの、手伝ってくれますか?」
部屋を出て洗い場に向かう柚月。仁美は付いていった。柚月が食器棚から施設の備品であるコーヒーカップのセットを取り出し、それを二人で洗い始める。
「私は柚月といいます」柚月が名乗った。「遅ればせながら」と笑う。
仁美も「
仁美は生真面目な性格で、笑顔の少ない物静かな人だ。しかし柚月は、協力的で真摯な仁美のことがすぐに気に入っていた。