第1話
文字数 1,293文字
天才女性マジシャン、マーガレット天海(てんかい)。
彼女は今、窮地に立たされている。
こんなことは初めてだった。これまで経験した事の無い最強の敵を前に、天海は自分の無力さを痛感していた……。
幼いころから手品に取り憑かれていた彼女は、中学生の時にプロマジシャンのデンジャラス徳永に弟子入りすると、直ぐさま才能を発揮、数々のコンテストで優勝を重ねていった。
その後マーガレット天海という名を与えられ、僅か十六歳でプロデビューを果たした。
現役高校生の美少女マジシャンとして名を馳せると、二年後にはラスベガスで行われている世界一を決める大会のジュニア部門に参加。その結果、初出場ながら三位という好成績を獲得するに至った。
天海は卓越したテクニックもさることながら、その美貌も観る者を魅了していた。
身長は百六十センチとこの業界では小柄な体躯ながら、端正ながらもコケティッシュなルックスはアイドルさながら。鮮(あざ)やかな黒髪や整ったプロポーションがそれを更に際立たせていた。
当然ながらテレビも引っ張りだこ。いざその妙技を披露すると、翌日には天海の出演する公演チケットが、連日完売となった。
だが、そんな天海も順風満帆とはいかなかった。
二十五歳を過ぎたあたりから、人気に陰りが見え始める。きっかけは有名スポーツ選手との熱愛報道だった。相手が妻子持ちという事もあって、マーガレット天海の名前は不倫の代名詞としてマスコミの格好の標的となり、バッシングの嵐となった。かつては満員御礼だった公演も徐々に空席が目立つようになり、テレビなどのメディアからのオファーもほとんど来なくなっていた。
もっとも、スキャンダルだけがこの事態を招いたのではない。
マジックは難しい。
ミュージカルやサーカスなどと違い、マジックは現象がすべて。
どれだけショーアップしても、一度見たマジックに、人は二度も驚かない。観客は常に新たなる刺激を求めているため、余程のマニアでもない限り、リピーターが付きにくいのだ。
プロのマジシャンはそれを充分心得ているので、どんなに人気のマジシャンでも敢えて小規模のステージしか行わない。そのうえ定期的に新作を投入し続けている。
それを知らないスポンサーたちは天海の人気にあやかり、反対を押し切って、無謀ともいえる大規模なツアーを新作が投入できないまま繰り返した。
その結果として観客の飽きを早めたのである。
この状況を何とか打開しようと、天海は起死回生とばかりにスポンサーを説得してワールドツアーを開催した。
だが、結果は散々なものだった。
世界の目は日本ほど甘くはない。ラスベガスやN.Yなどといったエンターテイメントの本場において、天海の美貌や小手先の技術はまったく通用しなかった。如何にコンテストの常連だったとしても、目の肥えた現地の観客たちには子供だましにしか映らなかった。
それでも天海は落ち込まない。
持ち前の負けん気で新たなマジックを開発してはステージで披露していった。しかし、一度転げ出した名声は、どんなに努力したところで、転落の一途を止めることは出来なかった。
彼女は今、窮地に立たされている。
こんなことは初めてだった。これまで経験した事の無い最強の敵を前に、天海は自分の無力さを痛感していた……。
幼いころから手品に取り憑かれていた彼女は、中学生の時にプロマジシャンのデンジャラス徳永に弟子入りすると、直ぐさま才能を発揮、数々のコンテストで優勝を重ねていった。
その後マーガレット天海という名を与えられ、僅か十六歳でプロデビューを果たした。
現役高校生の美少女マジシャンとして名を馳せると、二年後にはラスベガスで行われている世界一を決める大会のジュニア部門に参加。その結果、初出場ながら三位という好成績を獲得するに至った。
天海は卓越したテクニックもさることながら、その美貌も観る者を魅了していた。
身長は百六十センチとこの業界では小柄な体躯ながら、端正ながらもコケティッシュなルックスはアイドルさながら。鮮(あざ)やかな黒髪や整ったプロポーションがそれを更に際立たせていた。
当然ながらテレビも引っ張りだこ。いざその妙技を披露すると、翌日には天海の出演する公演チケットが、連日完売となった。
だが、そんな天海も順風満帆とはいかなかった。
二十五歳を過ぎたあたりから、人気に陰りが見え始める。きっかけは有名スポーツ選手との熱愛報道だった。相手が妻子持ちという事もあって、マーガレット天海の名前は不倫の代名詞としてマスコミの格好の標的となり、バッシングの嵐となった。かつては満員御礼だった公演も徐々に空席が目立つようになり、テレビなどのメディアからのオファーもほとんど来なくなっていた。
もっとも、スキャンダルだけがこの事態を招いたのではない。
マジックは難しい。
ミュージカルやサーカスなどと違い、マジックは現象がすべて。
どれだけショーアップしても、一度見たマジックに、人は二度も驚かない。観客は常に新たなる刺激を求めているため、余程のマニアでもない限り、リピーターが付きにくいのだ。
プロのマジシャンはそれを充分心得ているので、どんなに人気のマジシャンでも敢えて小規模のステージしか行わない。そのうえ定期的に新作を投入し続けている。
それを知らないスポンサーたちは天海の人気にあやかり、反対を押し切って、無謀ともいえる大規模なツアーを新作が投入できないまま繰り返した。
その結果として観客の飽きを早めたのである。
この状況を何とか打開しようと、天海は起死回生とばかりにスポンサーを説得してワールドツアーを開催した。
だが、結果は散々なものだった。
世界の目は日本ほど甘くはない。ラスベガスやN.Yなどといったエンターテイメントの本場において、天海の美貌や小手先の技術はまったく通用しなかった。如何にコンテストの常連だったとしても、目の肥えた現地の観客たちには子供だましにしか映らなかった。
それでも天海は落ち込まない。
持ち前の負けん気で新たなマジックを開発してはステージで披露していった。しかし、一度転げ出した名声は、どんなに努力したところで、転落の一途を止めることは出来なかった。