第5話 ひかり玉

文字数 2,061文字

 わたしが倒れていたところは、川が蛇行しているところで、カーブの外側にゴミと一緒に取り残されていたらしい。あたりを探してみたけれど、カバンは落ちていなかった。

 そううまくはいかないか。指輪が帰ってきたことだけでも感謝だよね。

 ため息を落とす。

「ねぇのか?」

「うん、ないみたい」

「カーテンから作ったって何色?」

「深緑」

「ふーん」

 レイはあたりを見渡して、「ねぇな」とボソッと言った。

「ありがとう。もしあったらと思って来てみたんだけど」

「別にいいけどよ」

 この子が優しいというのは、その通りなようだ。とっつきにくくはあるけれど。

「お前、これからどうするんだ?」

「レイはハッシュ領って知ってる?」

「ハッシュ? そこがどうかしたのか?」

 知らないみたいだ。地理は得意でなかったので、地図も好きではなく、ゆえに、地図も本や画面に載ってたのに、じっくり見たことなかった。

「ハッシュ領に行ってみようかと思って」

「お前、訳ありか?」

「訳あり? なんで?」

「だってサンパウロの街に行きたいとかならわかるけど、この辺じゃない領地に行ってみたいなんて変だろ。……それに、お前親がお屋敷に勤めてたって本当か?」

 わたしが着ていた服は粗末なものだったろうし、バレるようなことは何もしてないのに。

「どうして?」

 今度はわたしが尋ねる。

「母親の形見だとかいう指輪、あれ、宝石がついてたろ? あれは平民が持てるようなものじゃねーだろ?」

 あ。この子が気付くぐらいなら、院長先生もわかっているはずだ。
 目の前が暗くなるような気がした。

「嘘ついてごめんなさい。貴族だった。でも家出して2度と戻らないつもりだから、わたしは姓を捨てたの」

「ここは帰りたくても帰れない奴らの集まりだ。帰れるところがあるなら、帰った方がいい」

「……ここからは出ていくから、心配しないで。でも、わたしも帰るところはないのよ」

 あの家に帰りたいとは思わない。

「案内、ありがとう。見つからないから、帰ろう」

 と、最後に吹き溜りを見た時に、何かが光ったような気がした。

「なんか光った」

 わたしは近づいてよく見る。

「あ、ひかり玉だ」

 わたしはキョロキョロと辺りを見回した。

「ひかりだま?」

「知らない? このあたりにポッサムの巣があるのかも」

「ぽっさむ?」

 おうむ返しばかりだ。知らないのかな?

 あ、でもわたしもヒロインが孤児院で暮らしている時に、収入を得るためにいろんなことやっていて、それを読んでいたから知っていることだ。

 ひかり玉はある種類の石が、長年川などで水に晒され洗われることで丸く宝石のように輝くようになる石のこと。

 地中に巣を作るもぐらみたいな生き物、ポッサムはキラキラしたものが好きで、巣の中に溜め込むのだ。

 稀にだけど、お金や宝石なんかを隠していることがある。

 キラキラしたものが好きで巣の中に入れるけど、実際明るいところでキラキラ見えるものたちだから、巣に入れればキラキラしなくなるのは当たり前で、それで永遠にため込んでいるのではとの見解だ。

「ね、近くに斜めに掘られた穴があったら教えて。ポッサムの巣かもしれない」

「あ? おう」

 ひかり玉が落ちているのは巣の近くであることが多い。

「あ、これは?」

 わたしはレイに駆け寄る。
 木の根本に小さな穴が開いている。
 これかもしれない。

 わたしは興奮した。
 レイの手を取ると、困惑している。

「な、なんだよ」

「一緒に跳んで」

「跳ぶ?」

 レイの手を取ってぴょんぴょんジャンプする。
 レイも仕方なしという感じに飛び跳ねた。

「うわぁーーーー」

 レイが叫ぶ。穴から土色の小さな生き物が飛び出していったのだ。

「今のがポッサムだよ。ポッサムは臆病だからしばらく帰ってこない。今のうち。キラキラしたものを溜め込んでいるの」

 わたしは小さな穴に手を入れようとして怯む。
 見えない何かに手を入れるって、すっごく怖い。
 で、でも、中に何かあるかもしれないし。

「どけ」

 レイがわたしをどかして、腕まくりをし、穴の中に手を入れた。そして引き抜いてきて、握りしめていた手を開く。

 嘘、金色のものが!

「金貨……?」

「嘘だろ?」

 そのほか、銅貨が何枚もと、指輪やブローチ、カフスボタン。
 ポッサム、いいもの溜め込んでんじゃない!

「一番近い街までどれくらいある?」

「ここまでの倍以上ある」

 空を見上げる。まだ昼過ぎだ。

「連れてってくれない?」

「どうして?」

「食材を買いにいこうよ」

 土にまみれた、お宝を川の水で注ぐ。
 レイはもう一度手を入れて、また小銭を掘り出してくれた。

「……ちゃんと出ていくからさ、旅立つ準備ができるまでは居させてよ」

 わたしはレイに頼んでみた。

「べ、別に俺にいうことじゃねーだろ?」

 フンと顔を背ける。

「……心配しなくても居座らないからさ」

 レイが不安にならないように、わたしは笑って見せた。
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