第一話 退職願

文字数 709文字

納期を目前に控えた金曜日の定時前、月子は上司の井原に声を掛けられた。
今日は、隣の部署の飲み会がある。私達は納期に間に合わせるために残業するが、君は飲み会に参加してくれ。
納期直前なのに飲み会ですか?私も残って開発を続けます。
大事なお客様がいらっしゃるから、君を貸してほしいと頼まれているんだ。いいから飲み会の方に行ってくれ。
私は開発メンバです。
君は自分の役割をあまり理解していない。私は人事に気配りのできる人材が欲しいと言って君を引き受けた。一次試験で君より成績優秀だった人間を不採用にしたんだよ。これ以上言わせないでくれ。
分かりました。
その日の飲み会は酷いものだった。隣の部署の客という男は、二次会三次会まで月子を連れ回し、日が変わっても延々と猥談を続け、最後に隣の部署の課長に「月子ちゃんをお持ち帰りしますね〜」と宣言した。月子はタクシーを降りるとすぐに、千鳥足のその客を振り切って猛ダッシュし、タクシーを拾って家に帰った。
翌週月曜日
一昨日は開発メンバは君以外全員出勤したんだが、金曜日の件で隣の課長から叱られたよ。
この会社はどういう会社なんですか?私はエンジニアの求人を見て応募しました。職種もエンジニアのはずです。
この会社はとても大きな会社で、関わる人間も多岐にわたる。従業員は歯車として必要とされる場所で必要な役割を果たすだけだ。君に限らず、私や他のメンバも同じだ。

それにエンジニアには、土曜も日曜も、深夜も早朝も無いんだよ。それを当たり前と思えない君は、エンジニアには向いていない。

私はどうやら課長のご期待に添えませんし、会社に貢献できそうもありません。申し訳ありませんが、今月いっぱいで退職させてください。
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登場人物紹介

ナレーション

月子

元上司の井原

上司の新田

同僚の柳

同僚の半田

同僚の井田

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