3.ワイシャツの破壊力は抜群だ
文字数 4,854文字
「……では、ログアウトします……」
「俺も落ちるよ」
いつもならまだまだこれから眠気の限界まで遊ぶところなんだけど、今日は由宇がいるしこれでお開きとすることにした。
さてと……どうやって寝るかなあ。
俺の部屋にはコタツとソファーベットがあるが、布団は一セットしかない。由宇にはソファーベッドで寝てもらって、俺はコタツで寝るとするか。
なんて考えていると、由宇が両手を机の上に置いて指先をモジモジとさせているけど、どうしたんだろ。
「ユウ?」
「……あ、あの……先輩、お風呂は入りましたか?」
「え、いや……」
「……わ、私のことは気にせず入って来てください……お仕事から帰ってきてお風呂に入らないとさっぱりしないですよね……」
「あ、まあ、そうだけど……」
「……の、覗いたりしませんので……安心してください……しゃ、シャワーの音は聞こえちゃうけど……」
ポッと顔を赤らめて言われたら、シャワーを浴びるのも恥ずかしくなるって! 確かに風呂には入りたいけど、今日はいいかなあとか思ってたんだよな。
あああ、そうか。明日はキノと会うんだったら風呂くらい入っておいた方がってことか。じゃ、じゃあ……ゆ、由宇も?
シャワーの音か、シャワーの音……うわあ。ドキドキしてきたああ。
俺はそんな妄想をしながら、バスタオルと替えの下着を持って扉を開ける。ワンルームなだけに脱衣所はなく、廊下から直接風呂の扉があり、そこを開けるとそのまま浴室なのだ。
だから、部屋に繋がる扉を閉めて置いて廊下で服を脱ぐ。
シャワーを浴びながらも、さっきの想像が頭をよぎり気が気でなかったけど、湯船にも入らず急いで浴室を出る。
「ユウ、入ったよお」
「……う、うん……」
俺は頭をバスタオルで拭きながら、部屋に戻るとコタツに腰かけ缶ビールを開ける。
風呂の後の一杯って最高だよな!
「……せ、先輩……わ、私も入ってきていいですか……」
「……う、うん……」
ど、動揺して、由宇の口調が移ってしまった。
ええと、バスタオルはっと。俺がバスタオルを由宇に手渡すが、彼女は窓を見ながら何か言いたそうに口を開いて、すぐに口を閉じる。
「どうしたの? ユウ?」
「……あ、あの……寝る服を持っていなくて……あのワイシャツをお借りしてもいいですか……」
「そ、それはいいけど。あんなのでいいのか」
「……せ、先輩の……」
由宇に聞き返したが、彼女は心ここにあらずといった感じで何か呟いている……そうなんだ。カーテンレールにはワイシャツが一着かかったままになっている。
というのは、俺は五着ワイシャツを持っているんだけど、今週は祝日があって金曜日からの三連休なんだよな。だから、一着ワイシャツが余っているってわけだ。
俺はカーテンレールからハンガーごとワイシャツを手に取り、彼女へ手渡す。すると、彼女は俺のワイシャツをギュッと胸に抱え込み、バスタオルを持って浴室まで歩いて行った。
ガチャリと扉がしまってしばらくすると、
――シャワーの音が俺の耳に入って来る。うわあ。さっき妄想してたまんまのことが今起こっている。今、由宇は浴室だ。だ、だから……俺は彼女の白磁のような肌を想像しニヤニヤしながら、机をバンバンと叩く。
いかん、こんなことをしている場合じゃあねえ。ベッドを準備しなければ。
俺はソファーベッドをソファーからベッドに切り替えると、押し入れから布団を取り出してベッドに掛ける。
「……先輩……ドライヤーをお借りしてもいいですか……?」
扉から顔だけ出した由宇の髪は少し濡れており、肩にかかった髪の毛が妙に艶めかしくて。
「ド、ドライヤーは洗面所の右上の棚に入っているから、自由に使ってくれ」
俺は上ずった声で彼女へ言葉を返すと、彼女は扉から顔を引っ込めた。な、なんだよ、あの破壊力抜群の風呂上りはああ。
こ、これで大丈夫なのか俺……今晩襲い掛からないか心配になってきた。
俺が悶々としている間にもドライヤーの音が響き渡り、由宇が部屋へと戻ってきた。
し、しかし、さらなる衝撃が俺を襲う!
由宇は男にしては身長が低い俺の肩くらいまでしかない小柄な女の子なんだけど、俺のワイシャツでもパンツは充分隠れるくらいの丈になっている。
それはいい、ボタンも全部止めているから彼女の下着は見えていないんだけど……男物の大き目のワイシャツを着た風呂上りの火照った体を見せる彼女の威力は計り知れないのだ!
「……どうかしましたか?」
「わ、ワンピースより丈は短いけどパジャマにはなりそうだね……」
「……はい、あ、先輩……私が着たことを気にされてますか?」
ああ、気にしているとも! 俺のハートはもう撃ち抜かれているとも!
「い、いや……」
「……先輩、ちゃんと洗って……いえ、新品を私が買ってお返しします……ですのでこれは私が……」
耳まで真っ赤にしてそんなことを言わないでくれ、もう悶えて倒れてしまいそうになるだろお。
そ、その指先まで隠れた袖を両頬に持っていくのはやめてくれえ、直視できないから。愛おしそうに袖を頬にスリスリする姿がたまらなく可愛い。
俺は自分自身を誤魔化すように、缶ビールを口につけると残り全部一気に飲み干す。はあはあ。
って、ま、待てえ。ベッドに座るのはいい。でも、そこでペタン座りは反則だよお。膝を抱えて座るよりはマシか……もしそうだったら俺は倒れていたかもしれない。
「……あ……」
「ん?」
由宇は俺の目線で何かに気が付いたかのように声をあげる。あ、嫌らしい目で見てたのかな……
と思っていたんだけど、彼女の考えは俺の斜め上を行っていたのだ!
な、なんと。上から下までキッチリ留めていたワイシャツのボタンの一番下に手をかけると、それを外す。み、見えるってみえれるええ。
「……もう少しで先輩のワイシャツのボタンが取れそうでした……ありがとうございます」
「あ、いや……」
ボタンを一つ外すだけで、ワイシャツの裾 が由宇の太ももの両側へちゃんと分かれて、白と肌色のコントラストを俺に主張してくるのだ。
一部がワイシャツに食い込んでそらもう。
「……先輩、先輩?」
「あ、ん?」
やべえ、由宇が声をかけているのに気が付かなかった。
「ユウ、どうしたの?」
「……もう寝ますか……?」
「そ、そそ、そうだな。そろそろ寝る?」
「……う、うん……」
由宇はベッドの上で立ち上がると少しよろめいて、あ、危ないって。
俺は慌てて立ち上がると、逆に彼女は俺の動きに驚いてしまってベッドのスプリングが跳ねる。
あああ、危ねえ! 俺はベッドの脇にまで移動してホッと息を撫でおろす……が!
「……せ、先輩!」
「ん?」
立ってた位置がまずかったあ。由宇は俺がちょうど移動したところに降りようとしていたみたいで勢いよく俺とぶつかってしまう。
「……ご、ごめんなさい……」
「あ、いや」
俺はそのまま由宇に押し倒されてしまい、彼女は俺の腹の上にペタンとなっている。両手は俺の胸についていて、顔は真っ赤に。
ま、待ってくれ。太ももの感触が俺の腹を刺激するのだ。そのため、動転してしまった俺は体を起こそうとしてしまう。
そうしたら、転がりそうになった彼女は藁をも掴む反射行動が出て俺の胸にすがりつく。
こ、これは……ワイシャツの下にブラジャーつけてない! 彼女は見た感じぺったんこに見えたが、少しだけ柔らかい感触が俺にいい。
すぐにパッと離れた由宇だったけど、俺はもうこのまま倒れてもいい気分になっていたんだ……もう、ゴールしてもいいかな。
「……せ、先輩、怪我はありませんでしたか?」
「だ、大丈夫……そっちは大丈夫……」
「……大丈夫じゃないところがあるんですか?」
「あ、いや、何でもない」
「……そうですか、それならいいんですけど……」
深呼吸だ。深呼吸をして落ち着け俺。ふうふう、はあはあ。よおし、いいぞお、落ち着いて……来るわけねえだろおお。
と心の中でノリ突っ込みしていたら、少しマシになってきた。
「歯ブラシの予備があるから、それ使ってくれたらよいよ」
「……う、うん……先輩の……」
俺は洗面所の棚に入れてあった新品未開封の歯ブラシをケースから取り出すと、由宇に手渡す。
そのまま並んで歯磨きをする俺達……普段の何気ないことでも彼女が隣にいたら妙に意識してしまうんだ……俺はチラリと彼女へ目をやると、真剣な顔で歯ブラシでゴシゴシやっている姿が目に入って……
ああ、いかんいかん。って何回俺は同じ事を考えているんだよ!
「由宇、ベッドで寝てくれ。俺はコタツで」
「……わ、私がコタツでいいんですけど……」
「客用の布団がないんだよ。来客にコタツはちょっとさ……」
「……わ、分かりました……で、では失礼して『先輩』のベッドへ……」
歯磨きが終わった俺達は部屋に戻り、由宇は頬を赤らめながらベッドに登ると布団をめくって寝転がり、顔だけを出すような形で布団をかぶる。
指先より長いワイシャツの袖でちょこんと布団の端っこを掴んで、口元を布団の中に入れてこちらを伺う彼女の姿にまたしても俺は彼女が可愛くてたまらなくなってしまう。
「……せ、先輩の匂い……」
「ん? どうしたの?」
彼女の姿に萌えていた俺は、彼女が何を言っているのか聞こえていなかった。
「……な、何でもありません!」
「そ、そう」
「……それはともかく……寝ますか? 先輩?」
「そうだな。もう遅いし寝るか」
俺は壁に立てかけてある時計を見ると、午前二時を指していた。ああ、結構ゲームやっていたんだなあ。もうこんな時間か。
そら、由宇もこんな時間だと眠いよなと考えながら、電気を消してコタツに潜り込み、目をつぶる。
――ね、寝れん! 由宇がベッドで寝ていると思うと、寝れるわけがねええ。ああ、悶々とするう。
どれだけ寝られないままコタツで右へ左へ転がっていたか分からなかったけど、起きているとトイレに行きたくなってくる。というわけで、トイレで用を足して戻ってくる。
が、由宇の寝顔を少しだけ見たいなあという気持ちを抑えきれず、ベッドの脇に腰を降ろし彼女の顔を伺うと……
彼女は肩を震わせ、何かに耐えている様子だった。やっぱり、俺の家に泊まることは相当勇気がいったんだろうか。安心してくれ、俺は君に襲い掛かったりしないから。
俺は彼女の髪をそっと撫で、立ち上がろうとする。その時、彼女が俺の手にそっと自分の手を合わせてきた。
「……せ、先輩……少しだけ、手を握っててくれませんか……?」
「大丈夫か? 震えているけど?」
「……ごめんなさい……先輩に甘えてしまって……少しだけで大丈夫ですから……」
「了解」
俺は自分の手の上に重ねられている彼女の手を握ると、反対の手で彼女の髪の毛を優しく撫でる。
どうやら、俺のことが怖くて震えていたわけじゃないみたいでよかったんだけど……最初に俺が懸念していたことは、どうやら当たりみたいだよなあ。
彼女が実家なのか一人暮らしなのか分からないけど、家で何か問題を抱えていて俺のところに泊まらざるを得なくなったんじゃないだろうか。
ストーカーとか家庭内暴力とかその辺の理由は分からないが、夜も寝ることが出来ないほど振るえてしまう彼女の抱えている問題を何とかして解決してあげたい。
彼女の顔をのぞき込むと、先ほどまでの震えが止まり寝息を立て始めていた。
そんな彼女に俺の方も心が安らぎ、先ほどまでの悶々とした気持ちはいつの間にか吹き飛んでいて、コタツに戻るとすぐに寝る事ができたんだ。
「俺も落ちるよ」
いつもならまだまだこれから眠気の限界まで遊ぶところなんだけど、今日は由宇がいるしこれでお開きとすることにした。
さてと……どうやって寝るかなあ。
俺の部屋にはコタツとソファーベットがあるが、布団は一セットしかない。由宇にはソファーベッドで寝てもらって、俺はコタツで寝るとするか。
なんて考えていると、由宇が両手を机の上に置いて指先をモジモジとさせているけど、どうしたんだろ。
「ユウ?」
「……あ、あの……先輩、お風呂は入りましたか?」
「え、いや……」
「……わ、私のことは気にせず入って来てください……お仕事から帰ってきてお風呂に入らないとさっぱりしないですよね……」
「あ、まあ、そうだけど……」
「……の、覗いたりしませんので……安心してください……しゃ、シャワーの音は聞こえちゃうけど……」
ポッと顔を赤らめて言われたら、シャワーを浴びるのも恥ずかしくなるって! 確かに風呂には入りたいけど、今日はいいかなあとか思ってたんだよな。
あああ、そうか。明日はキノと会うんだったら風呂くらい入っておいた方がってことか。じゃ、じゃあ……ゆ、由宇も?
シャワーの音か、シャワーの音……うわあ。ドキドキしてきたああ。
俺はそんな妄想をしながら、バスタオルと替えの下着を持って扉を開ける。ワンルームなだけに脱衣所はなく、廊下から直接風呂の扉があり、そこを開けるとそのまま浴室なのだ。
だから、部屋に繋がる扉を閉めて置いて廊下で服を脱ぐ。
シャワーを浴びながらも、さっきの想像が頭をよぎり気が気でなかったけど、湯船にも入らず急いで浴室を出る。
「ユウ、入ったよお」
「……う、うん……」
俺は頭をバスタオルで拭きながら、部屋に戻るとコタツに腰かけ缶ビールを開ける。
風呂の後の一杯って最高だよな!
「……せ、先輩……わ、私も入ってきていいですか……」
「……う、うん……」
ど、動揺して、由宇の口調が移ってしまった。
ええと、バスタオルはっと。俺がバスタオルを由宇に手渡すが、彼女は窓を見ながら何か言いたそうに口を開いて、すぐに口を閉じる。
「どうしたの? ユウ?」
「……あ、あの……寝る服を持っていなくて……あのワイシャツをお借りしてもいいですか……」
「そ、それはいいけど。あんなのでいいのか」
「……せ、先輩の……」
由宇に聞き返したが、彼女は心ここにあらずといった感じで何か呟いている……そうなんだ。カーテンレールにはワイシャツが一着かかったままになっている。
というのは、俺は五着ワイシャツを持っているんだけど、今週は祝日があって金曜日からの三連休なんだよな。だから、一着ワイシャツが余っているってわけだ。
俺はカーテンレールからハンガーごとワイシャツを手に取り、彼女へ手渡す。すると、彼女は俺のワイシャツをギュッと胸に抱え込み、バスタオルを持って浴室まで歩いて行った。
ガチャリと扉がしまってしばらくすると、
――シャワーの音が俺の耳に入って来る。うわあ。さっき妄想してたまんまのことが今起こっている。今、由宇は浴室だ。だ、だから……俺は彼女の白磁のような肌を想像しニヤニヤしながら、机をバンバンと叩く。
いかん、こんなことをしている場合じゃあねえ。ベッドを準備しなければ。
俺はソファーベッドをソファーからベッドに切り替えると、押し入れから布団を取り出してベッドに掛ける。
「……先輩……ドライヤーをお借りしてもいいですか……?」
扉から顔だけ出した由宇の髪は少し濡れており、肩にかかった髪の毛が妙に艶めかしくて。
「ド、ドライヤーは洗面所の右上の棚に入っているから、自由に使ってくれ」
俺は上ずった声で彼女へ言葉を返すと、彼女は扉から顔を引っ込めた。な、なんだよ、あの破壊力抜群の風呂上りはああ。
こ、これで大丈夫なのか俺……今晩襲い掛からないか心配になってきた。
俺が悶々としている間にもドライヤーの音が響き渡り、由宇が部屋へと戻ってきた。
し、しかし、さらなる衝撃が俺を襲う!
由宇は男にしては身長が低い俺の肩くらいまでしかない小柄な女の子なんだけど、俺のワイシャツでもパンツは充分隠れるくらいの丈になっている。
それはいい、ボタンも全部止めているから彼女の下着は見えていないんだけど……男物の大き目のワイシャツを着た風呂上りの火照った体を見せる彼女の威力は計り知れないのだ!
「……どうかしましたか?」
「わ、ワンピースより丈は短いけどパジャマにはなりそうだね……」
「……はい、あ、先輩……私が着たことを気にされてますか?」
ああ、気にしているとも! 俺のハートはもう撃ち抜かれているとも!
「い、いや……」
「……先輩、ちゃんと洗って……いえ、新品を私が買ってお返しします……ですのでこれは私が……」
耳まで真っ赤にしてそんなことを言わないでくれ、もう悶えて倒れてしまいそうになるだろお。
そ、その指先まで隠れた袖を両頬に持っていくのはやめてくれえ、直視できないから。愛おしそうに袖を頬にスリスリする姿がたまらなく可愛い。
俺は自分自身を誤魔化すように、缶ビールを口につけると残り全部一気に飲み干す。はあはあ。
って、ま、待てえ。ベッドに座るのはいい。でも、そこでペタン座りは反則だよお。膝を抱えて座るよりはマシか……もしそうだったら俺は倒れていたかもしれない。
「……あ……」
「ん?」
由宇は俺の目線で何かに気が付いたかのように声をあげる。あ、嫌らしい目で見てたのかな……
と思っていたんだけど、彼女の考えは俺の斜め上を行っていたのだ!
な、なんと。上から下までキッチリ留めていたワイシャツのボタンの一番下に手をかけると、それを外す。み、見えるってみえれるええ。
「……もう少しで先輩のワイシャツのボタンが取れそうでした……ありがとうございます」
「あ、いや……」
ボタンを一つ外すだけで、ワイシャツの
一部がワイシャツに食い込んでそらもう。
「……先輩、先輩?」
「あ、ん?」
やべえ、由宇が声をかけているのに気が付かなかった。
「ユウ、どうしたの?」
「……もう寝ますか……?」
「そ、そそ、そうだな。そろそろ寝る?」
「……う、うん……」
由宇はベッドの上で立ち上がると少しよろめいて、あ、危ないって。
俺は慌てて立ち上がると、逆に彼女は俺の動きに驚いてしまってベッドのスプリングが跳ねる。
あああ、危ねえ! 俺はベッドの脇にまで移動してホッと息を撫でおろす……が!
「……せ、先輩!」
「ん?」
立ってた位置がまずかったあ。由宇は俺がちょうど移動したところに降りようとしていたみたいで勢いよく俺とぶつかってしまう。
「……ご、ごめんなさい……」
「あ、いや」
俺はそのまま由宇に押し倒されてしまい、彼女は俺の腹の上にペタンとなっている。両手は俺の胸についていて、顔は真っ赤に。
ま、待ってくれ。太ももの感触が俺の腹を刺激するのだ。そのため、動転してしまった俺は体を起こそうとしてしまう。
そうしたら、転がりそうになった彼女は藁をも掴む反射行動が出て俺の胸にすがりつく。
こ、これは……ワイシャツの下にブラジャーつけてない! 彼女は見た感じぺったんこに見えたが、少しだけ柔らかい感触が俺にいい。
すぐにパッと離れた由宇だったけど、俺はもうこのまま倒れてもいい気分になっていたんだ……もう、ゴールしてもいいかな。
「……せ、先輩、怪我はありませんでしたか?」
「だ、大丈夫……そっちは大丈夫……」
「……大丈夫じゃないところがあるんですか?」
「あ、いや、何でもない」
「……そうですか、それならいいんですけど……」
深呼吸だ。深呼吸をして落ち着け俺。ふうふう、はあはあ。よおし、いいぞお、落ち着いて……来るわけねえだろおお。
と心の中でノリ突っ込みしていたら、少しマシになってきた。
「歯ブラシの予備があるから、それ使ってくれたらよいよ」
「……う、うん……先輩の……」
俺は洗面所の棚に入れてあった新品未開封の歯ブラシをケースから取り出すと、由宇に手渡す。
そのまま並んで歯磨きをする俺達……普段の何気ないことでも彼女が隣にいたら妙に意識してしまうんだ……俺はチラリと彼女へ目をやると、真剣な顔で歯ブラシでゴシゴシやっている姿が目に入って……
ああ、いかんいかん。って何回俺は同じ事を考えているんだよ!
「由宇、ベッドで寝てくれ。俺はコタツで」
「……わ、私がコタツでいいんですけど……」
「客用の布団がないんだよ。来客にコタツはちょっとさ……」
「……わ、分かりました……で、では失礼して『先輩』のベッドへ……」
歯磨きが終わった俺達は部屋に戻り、由宇は頬を赤らめながらベッドに登ると布団をめくって寝転がり、顔だけを出すような形で布団をかぶる。
指先より長いワイシャツの袖でちょこんと布団の端っこを掴んで、口元を布団の中に入れてこちらを伺う彼女の姿にまたしても俺は彼女が可愛くてたまらなくなってしまう。
「……せ、先輩の匂い……」
「ん? どうしたの?」
彼女の姿に萌えていた俺は、彼女が何を言っているのか聞こえていなかった。
「……な、何でもありません!」
「そ、そう」
「……それはともかく……寝ますか? 先輩?」
「そうだな。もう遅いし寝るか」
俺は壁に立てかけてある時計を見ると、午前二時を指していた。ああ、結構ゲームやっていたんだなあ。もうこんな時間か。
そら、由宇もこんな時間だと眠いよなと考えながら、電気を消してコタツに潜り込み、目をつぶる。
――ね、寝れん! 由宇がベッドで寝ていると思うと、寝れるわけがねええ。ああ、悶々とするう。
どれだけ寝られないままコタツで右へ左へ転がっていたか分からなかったけど、起きているとトイレに行きたくなってくる。というわけで、トイレで用を足して戻ってくる。
が、由宇の寝顔を少しだけ見たいなあという気持ちを抑えきれず、ベッドの脇に腰を降ろし彼女の顔を伺うと……
彼女は肩を震わせ、何かに耐えている様子だった。やっぱり、俺の家に泊まることは相当勇気がいったんだろうか。安心してくれ、俺は君に襲い掛かったりしないから。
俺は彼女の髪をそっと撫で、立ち上がろうとする。その時、彼女が俺の手にそっと自分の手を合わせてきた。
「……せ、先輩……少しだけ、手を握っててくれませんか……?」
「大丈夫か? 震えているけど?」
「……ごめんなさい……先輩に甘えてしまって……少しだけで大丈夫ですから……」
「了解」
俺は自分の手の上に重ねられている彼女の手を握ると、反対の手で彼女の髪の毛を優しく撫でる。
どうやら、俺のことが怖くて震えていたわけじゃないみたいでよかったんだけど……最初に俺が懸念していたことは、どうやら当たりみたいだよなあ。
彼女が実家なのか一人暮らしなのか分からないけど、家で何か問題を抱えていて俺のところに泊まらざるを得なくなったんじゃないだろうか。
ストーカーとか家庭内暴力とかその辺の理由は分からないが、夜も寝ることが出来ないほど振るえてしまう彼女の抱えている問題を何とかして解決してあげたい。
彼女の顔をのぞき込むと、先ほどまでの震えが止まり寝息を立て始めていた。
そんな彼女に俺の方も心が安らぎ、先ほどまでの悶々とした気持ちはいつの間にか吹き飛んでいて、コタツに戻るとすぐに寝る事ができたんだ。