6.ファミレス(笑
文字数 3,098文字
キノと待ち合わせをしているファミレスがある最寄り駅まできたんだけど、由宇とキノはお互いの顔が分からず、連絡先も知らないときたもんだ。
一体どうやって会うんだろう?
「……先輩、『ローズ』はスマホでも遊べることを忘れてませんか?」
「あ、そうか、お互いにログインしてテルすりゃいいのか」
わ、忘れてた。ゲーム脳たる俺としたことが現実世界 のツールにしか目がいかないとは……
ファミレスの前まで来た時、突然女の子が走ってきて、そのままの勢いで由宇に抱きついた!
な、何だ、何だ。う、うらやましい、じゃねええ。いきなり抱き着くとはどういうことだ!?
件の女の子は、由宇より少し年下くらいに見える活発そうな子だった。ブリーチで色が抜けた金色に近いフワフワの髪をショートカットにしていて、右側は頬にそって顎まで前髪が伸びているけど、反対側は短い。
アシンメトリーという髪型かな? 短い方はイチゴの飾りがついたピンで止めていて彼女の髪色によく似あっていると思う。少し釣り目の瞳には灰色のカラーコンタクト、透明な白い肌にオレンジ色のチークが印象的だ。
JPゴルチェの裾の長いTシャツの上からカーキのロングコートにレザーのホットパンツ、柄入りのハイソックスと黒の膝下まであるロングブーツ。
うむ、カワイイ! ファッションは良く分からないけど、ものすごく拘りがあることはすぐに分かった。
「アイ! 会いたかったあ!」
ん、女の子が俺のキャラクター名を呼んでいるではないか、彼女は由宇のぺったんこな胸に頬をスリスリしている。う、うらやまけしからん。
一方の由宇は戸惑ったように両手をワタワタさせて口をパクパクさせてるじゃないか。なんだろう、お約束って感じがしてこれはこれで良いな……
俺が二人の様子を見て顔が緩んでいる間にも会話は進む。
「……わ、私は……」
「あ、ユウも来てたんだ! アイ、ユウ、リアルでははじめまして、キノよ!」
ん、俺の方を見て「ユウ」と言ったな……せ、盛大な勘違いがあるぞおお。
焦った俺は、由宇の肩をちょんちょんと叩くと、振り向いた彼女はフルフルと首を振る。こ、このまま勘違いさせておけってことかな?
でもそれじゃあ、由宇がイケメン騎士のユウだと分かってもらえなくなっちゃうぞ。ま、まあ俺は、それでもいいけど……
「キノ、初めまして。そろそろ離してやってくれないかな?」
「あ、ごめんね! アイが私の想像通り余りに可愛かったものだから……」
キノは由宇から体を離すと、彼女の頭をよしよしーと撫でる。うん、由宇は俺の肩より低いくらいだから、きっと百五十と少しくらいの背丈だろうな。
小動物的で大人しく、仕草も可愛らしいし、あの引っ込み思案なしゃべり方もまた……ハッ! 俺はなにを。
「ユウも写真の通り、優しそうでカッコいいし私の好み! 二人とも想像通りでビックリ!」
「……た、確かに先輩のことは間違ってませんが……わ、私は……そ、そんな……」
さ、さりげに由宇がとても破壊力のあり過ぎる言葉をのたまったああ。ま、待って、二人からそんなことを言われると俺はどうしたらいいんだ。
ひいき目に見ても、俺は普通、普通に過ぎないぞ。そんなイケメンなら俺は今頃モテモテのはずじゃないか。
すすすーっとキノの手が俺に伸び、ぐわっしと俺の腕を掴む。反対側の腕は由宇の手を握っているじゃないか。うにゃあ、初対面の可愛い女の子に腕を掴まれてるうう。
「ど、どうした、キノ?」
「二人とお話したいの……いいかな?」
困ったようにはにかんで俺と由宇を見つけめてくるキノに俺は赤面してしまう。
その表情は卑怯だああ。あ、いかん。由宇はっと……
「ユ、ユウ、耳元にい息がかかってる!」
「……せ、先輩……私がユウだとちゃんと伝えますが、先輩は先輩で……秘密です……」
「わ、分かった」
そんなこんなで、キノに引かれながらファミレスに入り、ドリンクバーを注文した俺達。
俺と由宇が並んで座って、対面にキノが座る。落ち着いたところで、由宇がスプライトの入ったコップを両手で握りキュッと口を結んでから話始めた。
「……キノ、私がユウなんです……」
「えええ! アイじゃないの? アイは私みたいにがさつじゃなくて、みんなに愛されるキュートな女の子ってイメージで」
「……わ、私はそんな女性じゃないです……」
「ううん! もう見た目なんかバッチリ私のイメージのアイよ! 可愛い!」
うああ、キノ、攻めすぎだってえ。由宇が真っ赤になってるじゃねえかあ。
「キ、キノ、この子はユウなんだって。さっき俺はスマホにログインするところを見せてもらったからさ」
見せてもらってはいないが、俺の家で一緒にローズで遊んだしさ。お、俺の羞恥心……。
「え、じゃあ、ユウはユウじゃないの?」
「……はい、先輩は先輩です……」
「うー、ええと、私は木下梢 。分からなくなってきたから、本名で呼びましょう?」
「……はい。私は由宇です」
「俺は山岸藍人 、よろしくな」
俺達はお互いに自己紹介を行う。
ふうと大きく息を吐いて、キノこと梢が口を開く。
「ええと、由宇はユウで、山岸くんは?」
「……藍人先輩は……私の先輩です……」
「学校の先輩ってことかあ。『ローズ』とは関係ないのかな?」
「……先輩です……」
嘘を言うのは気が引けたのか、由宇はイエスともノーとも答えず、俺のことは「先輩です」だけで押し通す。
それに何を勘違いしたのか、梢はポンと手を叩いてとんでもない爆弾を落として来た!
「なるほど、由宇の彼が山岸くんってわけね!」
待てええええ!
ちょ、由宇! 動揺し過ぎだって、彼女が握りしめていたスプライトがなみなみと入ったコップが倒れてるじゃねえか。
「冷た!」
「……ご、ごめんなさい……」
ちょ、ちょっとおおお。
ぬ、濡れたことは仕方がない、うん、そうなんだけど……
「ふ、服が……」
「あちゃー、濡れちゃったわね」
「……これを……」
「ありがとう、由宇!」
「そ、そこで拭かないで……トイレの方が……」
透けてる、うん、濡れて透けてるんだ。そこを拭こうとするもんだから。
梢のサイズはBかCだな。うん。由宇よりは少し大きい。色はたぶん黒。
梢がトイレに向かうと、由宇が少し頬を膨らませて俺を見つめてきた。
「……先輩……胸ばかり見てました……」
「そ、そんなことないって……」
「……わ、私……小さいし……」
いや、梢も大きくはないって。むしろ小さい。とか突っ込みそうになったが、これを言うと俺がただでは済まないだろうな……
「んー、どうしたのー?」
戻るの早! 俺が何か言いかけたところで梢が戻ってきてしまった。
「あ、いや、なんでも……って濡れたままじゃないかあ」
「トイレが使用中で。まあいいかなーって。そのうち乾くよ」
「そ、そう……」
それはいいんだが、由宇の視線が痛い。見てないだろ? 見てないってえ。
俺はこの後終始机の上を眺めて、会話をすることになってしまった……といっても由宇と梢がローズの話をずっとしていたから、俺は聞いているだけだったけどなあ。
でも、リアルでローズのことを会話できるっていいよな! 話が止まらないってのも分かるよ。俺はといえば、聞いてるだけでも楽しかったんだ。
一体どうやって会うんだろう?
「……先輩、『ローズ』はスマホでも遊べることを忘れてませんか?」
「あ、そうか、お互いにログインしてテルすりゃいいのか」
わ、忘れてた。ゲーム脳たる俺としたことが
ファミレスの前まで来た時、突然女の子が走ってきて、そのままの勢いで由宇に抱きついた!
な、何だ、何だ。う、うらやましい、じゃねええ。いきなり抱き着くとはどういうことだ!?
件の女の子は、由宇より少し年下くらいに見える活発そうな子だった。ブリーチで色が抜けた金色に近いフワフワの髪をショートカットにしていて、右側は頬にそって顎まで前髪が伸びているけど、反対側は短い。
アシンメトリーという髪型かな? 短い方はイチゴの飾りがついたピンで止めていて彼女の髪色によく似あっていると思う。少し釣り目の瞳には灰色のカラーコンタクト、透明な白い肌にオレンジ色のチークが印象的だ。
JPゴルチェの裾の長いTシャツの上からカーキのロングコートにレザーのホットパンツ、柄入りのハイソックスと黒の膝下まであるロングブーツ。
うむ、カワイイ! ファッションは良く分からないけど、ものすごく拘りがあることはすぐに分かった。
「アイ! 会いたかったあ!」
ん、女の子が俺のキャラクター名を呼んでいるではないか、彼女は由宇のぺったんこな胸に頬をスリスリしている。う、うらやまけしからん。
一方の由宇は戸惑ったように両手をワタワタさせて口をパクパクさせてるじゃないか。なんだろう、お約束って感じがしてこれはこれで良いな……
俺が二人の様子を見て顔が緩んでいる間にも会話は進む。
「……わ、私は……」
「あ、ユウも来てたんだ! アイ、ユウ、リアルでははじめまして、キノよ!」
ん、俺の方を見て「ユウ」と言ったな……せ、盛大な勘違いがあるぞおお。
焦った俺は、由宇の肩をちょんちょんと叩くと、振り向いた彼女はフルフルと首を振る。こ、このまま勘違いさせておけってことかな?
でもそれじゃあ、由宇がイケメン騎士のユウだと分かってもらえなくなっちゃうぞ。ま、まあ俺は、それでもいいけど……
「キノ、初めまして。そろそろ離してやってくれないかな?」
「あ、ごめんね! アイが私の想像通り余りに可愛かったものだから……」
キノは由宇から体を離すと、彼女の頭をよしよしーと撫でる。うん、由宇は俺の肩より低いくらいだから、きっと百五十と少しくらいの背丈だろうな。
小動物的で大人しく、仕草も可愛らしいし、あの引っ込み思案なしゃべり方もまた……ハッ! 俺はなにを。
「ユウも写真の通り、優しそうでカッコいいし私の好み! 二人とも想像通りでビックリ!」
「……た、確かに先輩のことは間違ってませんが……わ、私は……そ、そんな……」
さ、さりげに由宇がとても破壊力のあり過ぎる言葉をのたまったああ。ま、待って、二人からそんなことを言われると俺はどうしたらいいんだ。
ひいき目に見ても、俺は普通、普通に過ぎないぞ。そんなイケメンなら俺は今頃モテモテのはずじゃないか。
すすすーっとキノの手が俺に伸び、ぐわっしと俺の腕を掴む。反対側の腕は由宇の手を握っているじゃないか。うにゃあ、初対面の可愛い女の子に腕を掴まれてるうう。
「ど、どうした、キノ?」
「二人とお話したいの……いいかな?」
困ったようにはにかんで俺と由宇を見つけめてくるキノに俺は赤面してしまう。
その表情は卑怯だああ。あ、いかん。由宇はっと……
「ユ、ユウ、耳元にい息がかかってる!」
「……せ、先輩……私がユウだとちゃんと伝えますが、先輩は先輩で……秘密です……」
「わ、分かった」
そんなこんなで、キノに引かれながらファミレスに入り、ドリンクバーを注文した俺達。
俺と由宇が並んで座って、対面にキノが座る。落ち着いたところで、由宇がスプライトの入ったコップを両手で握りキュッと口を結んでから話始めた。
「……キノ、私がユウなんです……」
「えええ! アイじゃないの? アイは私みたいにがさつじゃなくて、みんなに愛されるキュートな女の子ってイメージで」
「……わ、私はそんな女性じゃないです……」
「ううん! もう見た目なんかバッチリ私のイメージのアイよ! 可愛い!」
うああ、キノ、攻めすぎだってえ。由宇が真っ赤になってるじゃねえかあ。
「キ、キノ、この子はユウなんだって。さっき俺はスマホにログインするところを見せてもらったからさ」
見せてもらってはいないが、俺の家で一緒にローズで遊んだしさ。お、俺の羞恥心……。
「え、じゃあ、ユウはユウじゃないの?」
「……はい、先輩は先輩です……」
「うー、ええと、私は
「……はい。私は由宇です」
「俺は
俺達はお互いに自己紹介を行う。
ふうと大きく息を吐いて、キノこと梢が口を開く。
「ええと、由宇はユウで、山岸くんは?」
「……藍人先輩は……私の先輩です……」
「学校の先輩ってことかあ。『ローズ』とは関係ないのかな?」
「……先輩です……」
嘘を言うのは気が引けたのか、由宇はイエスともノーとも答えず、俺のことは「先輩です」だけで押し通す。
それに何を勘違いしたのか、梢はポンと手を叩いてとんでもない爆弾を落として来た!
「なるほど、由宇の彼が山岸くんってわけね!」
待てええええ!
ちょ、由宇! 動揺し過ぎだって、彼女が握りしめていたスプライトがなみなみと入ったコップが倒れてるじゃねえか。
「冷た!」
「……ご、ごめんなさい……」
ちょ、ちょっとおおお。
ぬ、濡れたことは仕方がない、うん、そうなんだけど……
「ふ、服が……」
「あちゃー、濡れちゃったわね」
「……これを……」
「ありがとう、由宇!」
「そ、そこで拭かないで……トイレの方が……」
透けてる、うん、濡れて透けてるんだ。そこを拭こうとするもんだから。
梢のサイズはBかCだな。うん。由宇よりは少し大きい。色はたぶん黒。
梢がトイレに向かうと、由宇が少し頬を膨らませて俺を見つめてきた。
「……先輩……胸ばかり見てました……」
「そ、そんなことないって……」
「……わ、私……小さいし……」
いや、梢も大きくはないって。むしろ小さい。とか突っ込みそうになったが、これを言うと俺がただでは済まないだろうな……
「んー、どうしたのー?」
戻るの早! 俺が何か言いかけたところで梢が戻ってきてしまった。
「あ、いや、なんでも……って濡れたままじゃないかあ」
「トイレが使用中で。まあいいかなーって。そのうち乾くよ」
「そ、そう……」
それはいいんだが、由宇の視線が痛い。見てないだろ? 見てないってえ。
俺はこの後終始机の上を眺めて、会話をすることになってしまった……といっても由宇と梢がローズの話をずっとしていたから、俺は聞いているだけだったけどなあ。
でも、リアルでローズのことを会話できるっていいよな! 話が止まらないってのも分かるよ。俺はといえば、聞いてるだけでも楽しかったんだ。