第4話

文字数 440文字

その日も渋谷のカフェで麻美は担任の悪口をたっぷり喋ったあと、テーブルに頬杖を付いて、私を真っ直ぐに見詰めた。

「恵子姉さん、私ねえ、ママのお腹の中にいた時のこと、覚えているのよ」
「うそォ」

また麻美の空想癖が始まった。やれやれ、と思ったが、思春期の少女の突拍子もない作り話は、どこか愛らしいものである。

「ママのお腹の中で、私はあったかい水に包まれて、すやすや眠っていたの。そしたらある日突然、体がかぁーっと熱くなって、息がぜいぜいして」

私はタルトを突ついていたフォークを止めた。

「とっても苦しんだのよ。ああ私、このまま死ぬんだわって思ったけど、1週間ほどすると息が楽になってきたの。こうして無事に産まれてくることができて、本当によかったわ」

私は全身を椅子に固定されたように、身動きひとつ出来なかった。

「恵子姉さんも、死ぬほど苦しんだのですもの。私、姉さんを許してあげるわ。パパは許さないけどね」

麻美は無邪気にほほえみながら、マンゴジュースを啜った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み