第2話

文字数 622文字

姉は結婚後、子宝に恵まれず、ここ10年ほど不妊治療を続けてきた。その甲斐あって4年前に妊娠したが、妊娠判明からほどなく胎児の心音が停止し、流産した。もう子供は諦めたほうがいいと医者は告げたが、姉は諦めず、努力し続けた結果の今回の妊娠だ。

お姉ちゃん、よかったね…あんなに、子供欲しがってたもんね。
姉の赤ちゃんは、皆に祝福されて産まれてくる。でも、私の赤ちゃんは、この世に誕生することは無い。
姉にも、その子にも罪が無いのはよくわかっている。
でも、姉が羨ましい。妬ましい。

その週の土曜日、恋人に渡された金を持って産婦人科へ行き、私は堕胎した。
私の赤ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい。…帰り道、涙はとめどなく流れた。

家に帰ると、居間のソファに赤ちゃん用の靴下があるのが見えた。腹を括ったつもりだったのに、それを見た途端、私は激しく動揺した。

「お母さんがもう靴下買ってきたのよ。気が早いって言ってるのに…」

口を尖らせながらも姉は嬉しそうだった。あの靴下を、私の子供が履くことはもう無いのだ。闇に葬った私の子供が、私を罵っているような気がした。

翌日。みな都内のデパートに行っており、家には私一人だった。私も誘われたが、頭痛がすると言って断った。私は庭の倉庫に入り、棚を調べた。あった。デランフロアブル。5月、義兄が庭の桃の樹にこれを薄めて散布するのを、私は手伝った。蓋を開け、スポイトで化粧用のガラス瓶に少量を移し替えた。
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