鏡の中の死
文字数 565文字
ホテルの一室で寝ようとすると
寝床を映す鏡が目につき
たまらずにシャツをかけた
寝姿が鏡に映るのは不吉だと
迷信深い自分を嗤 いながら
鏡を必死になって覆い隠した
そういえば昔
家人 が寝静まった深夜
包丁を手に持って
鏡の前に立ったことがある
手首に冷たい刃を当てて
血が噴き出すのを想像しながら
おまえが先にやってくれと
自分の鏡像をけしかけた
納得いかないような顔で
しぶしぶ彼は
自らの手首を切り裂いた
だらだら赤い血が流れ出て
鏡の下半分が真っ赤に染まっても
相変わらず自分はその先に進めなかった
話が違うと彼に罵られても
凶器を持つ手は震えるだけだった
彼の罵声が細くなる
彼の唇が蒼褪 める
彼の血の気が引いていく
彼の生命 が消えていく
見苦しいほど卑怯だった自分は
鏡から逃げ出して
夜風に当たりながらコンビニへと歩き
サンドイッチとおにぎりを買って
公園のベンチで食べて寝た
明け方に帰宅してから
その後のひと月
鏡を見ないように生活した
そんなことがあったことさえ
いまのいままで忘れていた
鏡を覆い隠すのは
迷信が気になるからではなく
古い友人を見殺しにした
恥ずべき罪を隠したかったからだ
寝床を映す鏡が目につき
たまらずにシャツをかけた
寝姿が鏡に映るのは不吉だと
迷信深い自分を
鏡を必死になって覆い隠した
そういえば昔
包丁を手に持って
鏡の前に立ったことがある
手首に冷たい刃を当てて
血が噴き出すのを想像しながら
おまえが先にやってくれと
自分の鏡像をけしかけた
納得いかないような顔で
しぶしぶ彼は
自らの手首を切り裂いた
だらだら赤い血が流れ出て
鏡の下半分が真っ赤に染まっても
相変わらず自分はその先に進めなかった
話が違うと彼に罵られても
凶器を持つ手は震えるだけだった
彼の罵声が細くなる
彼の唇が
彼の血の気が引いていく
彼の
見苦しいほど卑怯だった自分は
鏡から逃げ出して
夜風に当たりながらコンビニへと歩き
サンドイッチとおにぎりを買って
公園のベンチで食べて寝た
明け方に帰宅してから
その後のひと月
鏡を見ないように生活した
そんなことがあったことさえ
いまのいままで忘れていた
鏡を覆い隠すのは
迷信が気になるからではなく
古い友人を見殺しにした
恥ずべき罪を隠したかったからだ