13話 猛き鳥の雄叫びは、白虎の呟きにかき消され
文字数 1,830文字
「追え。銃は使うな。子供2人くらい発砲せずともなんとかしろ。2度も醜態をさらすなよ」
先程カモミールちゃんに話しかけていた、リーダーらしきテロリストの言葉を受け、アタシ達にいっぱい喰わされることになった3人が、アタシ達をそれぞれ振り払い、桃華お嬢様たちを追いかけてゆく。
「さて、まずはこいつか」
そう言ってリーダーが拳銃を鈴木さんに向け、すぐさま連続で2発発砲する。伊邪那岐学園でも聞いたあの音が、すぐに鈴木さんの絶叫で上書きされる。
良かった。まだ生きてる。撃たれたのは両足だ。鈴木さん的には、カモミールちゃんに折られたらしき右腕も合わせて良くないだろうが、生きているだけマシだ。
「カモミール」
路上でテロリストの1人に跳ね飛ばされた体勢のまま寝転がっていたカモミールちゃんが、リーダーの言葉に反応し立ちあがる。
そしてなにも言わないまま、じっとリーダーを見つめる。
「どうした? なぜ黙っている?」
「……ミュート中だ」
琥珀お嬢様が背中を塀に預け、面倒臭げにそう言う。
リーダーの深いため息がそれに続いた。
「そういうことか。あいつは人間臭いのに、末端は間違いなくロボットだな。カモミール、ミュート解除」
「カモミール、了解しました。ミュート状態を解除。通常モードに移行します」
リーダーが頷いて、呻き声をあげている鈴木さんを指さす。
「そいつを向こうの路地に停めてある先頭のホバーに運べ。ロープが置いてあるから、身動きできないように縛っておくのも忘れるな。ついでに止血くらいはしてやれ」
「カモミール、了解いたしました」
カモミールちゃんが何事もなかったかのように座り込むアタシ達を通り過ぎ、身動きのとれない鈴木さんを担ぎ上げると、テロリスト達が姿を現した通りへと消えて行く。
「さて、次は君らだが……」
そう言って、リーダーが拳銃を構えたままアタシ達に近づいてくる。
アタシはとっさに立ちあがり、お嬢様をかばうように前に立つ。
「よせ、翼!」
琥珀お嬢様が声を荒げる。
私だって他人の代わりに撃たれたいとは思わないが、琥珀お嬢様が無事でなければアタシの野望は完結しない。
可能性すらない世界で指を咥えて見ている生活は、もうまっぴらごめんだ。
「……確か君は、日ノ本家に来てまだ日が浅いはずだろう? タワー外出身の君は知らないかもしれないが、上流階級は代わりに死んでやるほどの価値はないぞ。君の故郷に金は積んだろうが、使い方までは教えん。数ヶ月で食いつぶす。だが、その時の味を忘れられず、生贄探しだけに夢中になり自滅していく。それが現実だ」
別に日ノ本家がなんだろうと、故郷がどうなろうと、アタシの知ったことではない。
アタシは別に善人じゃない。
アタシはただ自分の野望の……夢の為だけに生きている。
「琥珀お嬢様が日ノ本家であろうとなかろうと、私の行動は変わりません。私が私の夢の扉を開くまで、この人を護ると決めたからです。私の名前は飛鳥 翼。泣くことになろうと、撃たれることになろうと、いつか大空を舞うその日まで、羽ばたかせる翼を休めるつもりはございません!」
……決まった。我ながらカッコいい啖呵が決まった!
その内、映画の主演のオファーがくるんじゃなかろうか?
だというのに、リーダーを含めたテロリストどもは無反応。
反応は思いもかけずアタシの後方からやってきた。
「プッ! アハ、アハハハハハハハ!」
琥珀お嬢様が大爆笑だ。いまの啖呵のどこに笑いの要素があった?
やっぱり良家のお嬢様という生物は、アタシには理解できそうもない。
お嬢様の爆笑に、リーダーは気を削がれたのか、アタシ達に向けていた拳銃をおろした。
「あー、意味はよくわからないが、覚悟があることは伝わってきたよ。こちらとしては君が大人しくしてくれているなら、お嬢様には危害はくわえない。お嬢様も大人しくこちらに従ってくれれば、このメイドさんを傷つけたりはしない。そんなところでどうだい?」
「了承した。私としてもこんな面白いメイドを、こんなつまらないことで失いたくはないからな」
琥珀お嬢様がさりげなく嫌みをいれて返答する。
「ありがとう。それにしても、我々には残念な結果になったな。人質としての価値が低くて面倒なお嬢様の方が残ってしまうとはね」
お嬢様の嫌みに嫌味を返したリーダーが、踵を返して歩きだす。
だがその歩みは、次のお嬢様の言葉で止まることになる。
「……それは申し訳ないことをしたな。婚約者 殿」
先程カモミールちゃんに話しかけていた、リーダーらしきテロリストの言葉を受け、アタシ達にいっぱい喰わされることになった3人が、アタシ達をそれぞれ振り払い、桃華お嬢様たちを追いかけてゆく。
「さて、まずはこいつか」
そう言ってリーダーが拳銃を鈴木さんに向け、すぐさま連続で2発発砲する。伊邪那岐学園でも聞いたあの音が、すぐに鈴木さんの絶叫で上書きされる。
良かった。まだ生きてる。撃たれたのは両足だ。鈴木さん的には、カモミールちゃんに折られたらしき右腕も合わせて良くないだろうが、生きているだけマシだ。
「カモミール」
路上でテロリストの1人に跳ね飛ばされた体勢のまま寝転がっていたカモミールちゃんが、リーダーの言葉に反応し立ちあがる。
そしてなにも言わないまま、じっとリーダーを見つめる。
「どうした? なぜ黙っている?」
「……ミュート中だ」
琥珀お嬢様が背中を塀に預け、面倒臭げにそう言う。
リーダーの深いため息がそれに続いた。
「そういうことか。あいつは人間臭いのに、末端は間違いなくロボットだな。カモミール、ミュート解除」
「カモミール、了解しました。ミュート状態を解除。通常モードに移行します」
リーダーが頷いて、呻き声をあげている鈴木さんを指さす。
「そいつを向こうの路地に停めてある先頭のホバーに運べ。ロープが置いてあるから、身動きできないように縛っておくのも忘れるな。ついでに止血くらいはしてやれ」
「カモミール、了解いたしました」
カモミールちゃんが何事もなかったかのように座り込むアタシ達を通り過ぎ、身動きのとれない鈴木さんを担ぎ上げると、テロリスト達が姿を現した通りへと消えて行く。
「さて、次は君らだが……」
そう言って、リーダーが拳銃を構えたままアタシ達に近づいてくる。
アタシはとっさに立ちあがり、お嬢様をかばうように前に立つ。
「よせ、翼!」
琥珀お嬢様が声を荒げる。
私だって他人の代わりに撃たれたいとは思わないが、琥珀お嬢様が無事でなければアタシの野望は完結しない。
可能性すらない世界で指を咥えて見ている生活は、もうまっぴらごめんだ。
「……確か君は、日ノ本家に来てまだ日が浅いはずだろう? タワー外出身の君は知らないかもしれないが、上流階級は代わりに死んでやるほどの価値はないぞ。君の故郷に金は積んだろうが、使い方までは教えん。数ヶ月で食いつぶす。だが、その時の味を忘れられず、生贄探しだけに夢中になり自滅していく。それが現実だ」
別に日ノ本家がなんだろうと、故郷がどうなろうと、アタシの知ったことではない。
アタシは別に善人じゃない。
アタシはただ自分の野望の……夢の為だけに生きている。
「琥珀お嬢様が日ノ本家であろうとなかろうと、私の行動は変わりません。私が私の夢の扉を開くまで、この人を護ると決めたからです。私の名前は飛鳥 翼。泣くことになろうと、撃たれることになろうと、いつか大空を舞うその日まで、羽ばたかせる翼を休めるつもりはございません!」
……決まった。我ながらカッコいい啖呵が決まった!
その内、映画の主演のオファーがくるんじゃなかろうか?
だというのに、リーダーを含めたテロリストどもは無反応。
反応は思いもかけずアタシの後方からやってきた。
「プッ! アハ、アハハハハハハハ!」
琥珀お嬢様が大爆笑だ。いまの啖呵のどこに笑いの要素があった?
やっぱり良家のお嬢様という生物は、アタシには理解できそうもない。
お嬢様の爆笑に、リーダーは気を削がれたのか、アタシ達に向けていた拳銃をおろした。
「あー、意味はよくわからないが、覚悟があることは伝わってきたよ。こちらとしては君が大人しくしてくれているなら、お嬢様には危害はくわえない。お嬢様も大人しくこちらに従ってくれれば、このメイドさんを傷つけたりはしない。そんなところでどうだい?」
「了承した。私としてもこんな面白いメイドを、こんなつまらないことで失いたくはないからな」
琥珀お嬢様がさりげなく嫌みをいれて返答する。
「ありがとう。それにしても、我々には残念な結果になったな。人質としての価値が低くて面倒なお嬢様の方が残ってしまうとはね」
お嬢様の嫌みに嫌味を返したリーダーが、踵を返して歩きだす。
だがその歩みは、次のお嬢様の言葉で止まることになる。
「……それは申し訳ないことをしたな。