第4話

文字数 1,039文字

「ふぅ……」
電車とバスで約1時間。それに炎天下の中、長袖の制服で石階段を登ること十分。それで辿り着いた場所がこんな“石”しかない辺鄙な場所だ。流石に嫌気が差した。だがこれで最後かもしれないのだ。一応、けじめはつけておくべきか。
「久しぶり、姉ちゃん」
墓石には苔が生え初め、鳥のフンがついて、葉っぱに覆われていた。無論、俺たち家族が滅多にここに来ないからだ。
タオルと柄杓とバケツ(で合っているのか?)を取ってきて、水をかけてゴシゴシ拭いて掃除した。
今更なにか変わるわけじゃないけれど、せめて形だけでも綺麗になればいい。
「本当にいいの?」
急に声が聞こえて、自分でも大袈裟だと思うくらい肩をビクリとさせてしまった。姉ちゃんの前で恥をかかされたことに対して謎に恨めしく思い、彼女を睨む。
果たして、鳴宮は肩をすくめただけで大して俺の睨みが効いた様子はない。
「なにが」
「このまま逃げてるだけじゃ、今日の午後5時には君、もうこの世にいないけど」
「あぁ」
だからこそ、ここに来た。
「……それは?」
「俺の家の墓」
「徳を積んでせめて死後を良くしようってこと?それとも先祖に命乞いしにきたの?」
「どっちも違う」
今更だ。何もかも。
「なあ」
「ん?」
なに、と鳴宮は近くの墓に寄りかかった。幽霊だとしてもそれはいくら何でも失礼なのではないか。
というか幽霊なのに、透けてない。
「お前ってさ、死後の世界があるのかどうか、知っているんだろ?」
「死後の世界?」
鳴宮はきょとんと首を傾げる。
そうか、聞き方が悪かった。たしかに鳴宮は幽霊なのだから、死後の世界自体は存在するのか。
「天国と地獄」
「あー。それね」
ようやく合点がいったように、彼女はひとつ頷く。
「君は?」
「え?」
「君は、天国とか地獄とか、信じてるの?」
質問を質問で返しちゃいけないって知らないのか。
「そっちが先に答えろよ」
「知らない」
「……あーもう面倒くさいな。わかったよ、答える。俺は……信じてない」
「どうして?」
「だって、誰が天国行きで、誰が地獄行きかなんてきっと誰にも決められないから」
善と悪はどの側面を見るかによって大きく変わるものだ。それを、死んでから二択に分けられる筈がない。
「それに、現に鳴宮はこうやって天国にも地獄にも行かず現世をうろちょろしてる訳だし」
「ふーん」
そっちが聞いてきたくせに興味のないことのように生返事を返された。
「それで、誰か殺す予定は?」
「だから、お前な……。誰か殺して代わりに生きられたって、罪悪感で生きた心地がしないだろうよ」
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