第1話

文字数 1,684文字

「君、私の代わりに死んでくれない?」
掃除当番を代わるくらいの気軽さで、彼女は言った。
「……はぁ?」
意味がわからない。一体これはどういう状況なんだ?
「聞こえなかった?」
「聞こえてる。そもそも、突然俺の前に現れて開口一番死んでくれなんて言って、どういうつもりなんだよ」
「どういうつもりって、だから言ってるじゃん。私の代わりに死んでほしいって」
「だから、それが意味わかんないって言ってんの」
「そのままの意味だよ」
なんだこいつは。話しててこんなに疲れるやつは初めてだよ。
「君が死んでくれたら、私は生き返れるの。だから死んで?」
「………はぁ」
俺はいつからファンタジー世界に転生したんだ?
「生き返る?そんなことあるわけないだろ」
「これがあるんだなぁ」
教室の教卓に寄りかかって、ふんふんと得意げに腕を組む。
「なに、お前にそう言う力があるとか言いたいの?つまり…霊だから、魂を交換できる、的な?」
「違うよ。そもそも私と君の魂なんて釣り合う訳無いでしょ。絶対私の魂のほうが価値高いし」
ナチュラルに嫌味を言うな。
「なんか、死んだあとボーっとしてたら、死神っぽい黒いフードのやつが来て、君が死んだら私は復活できるって教えてくれたの」
「何だそれ。新手の詐欺か?」
「幽霊に詐欺して何になるの」
「まあ確かに」
とりあえずそれを信じるとして、だとしたら…。
「いや、俺命狙われてる?」
「そうだよ」
「……ははっ、まじかぁ」
俺、とうとうおかしくなっちゃったのかな。幽霊が見えてる時点でそもそもおかしいし。俺今までそういうの、見たことないし。
「帰る」
「逃げるってこと?」
「いや、病院言ってくる」
頭と心の検査してくる。
「心配しなくても、私は君に直接危害を加える事はできないよ。少なくとも、明日の午後五時までは」
「なんだそうか。それじゃ」
激しい音を響かせて椅子から立ち上がると、俺は一目散に教室の後ろの戸へ向かった。
最近ストレスでも溜まってるのか。頭を打った覚えはないし、そうとしか考えられない。
「全然信じてないな、君。しょうがない。幽霊の証拠を見せてあげよう」
すごく嫌な予感のする言葉を口走りながら、彼女は長い黒髪を邪魔そうに除けて、たった今俺が開けた戸を指さす。
「ほい」
なんとも間抜けな掛け声のもと、戸は音を立てて閉まった。勿論彼女は全く触れていない。
「え、幽霊って魔法使えんの?」
「霊力デスヨ」
「なんでもありかよ」
戸にふれると、確かに硬い感触が返ってくる。俺の幻覚……ってわけでもなさそうだ。
このまま逃げるか、彼女の話を聞くか。
「どっちにしろ、俺は殺されるってことか」
タイムリミットは、明日の午後五時……。つまり、丁度24時間。
「あ、話聞く気になった?」
「まあ。というか、お前の話は要領を得ない。こちらから質問するから、お前はそれに簡潔に答えてくれ」
「あー。オッケー」
彼女は教卓の近くのパイプ椅子に腰掛けた。
そうだな……。彼女のことを幽霊って呼ぶのは呼びにくいし、他の幽霊に失礼かもしれないし(?)、まずは。
「えっと、じゃあまず、名前は?」
「鳴宮詩音」
そんな名前だったのか。
「お前は俺にしか見えていないのか?」
「死神以外はね」
「なんで俺なんだよ」
「そりゃ、見てたからじゃない?私が、こう」
鳴宮は、手を顔の前まで上げてから、机に勢いよく落とした。
「グチャッとなって、死ぬところを」
「あー。やっぱりそうか」
なんであの時見たんだろう。
「ん?でもじゃあなんで生き返りたいんだよ。自殺したんだろ?」
学校の見解ではそうだったはずだ。だから最近注意喚起されすぎて、逆に鬱陶しくなっているくらいだ。
「違う。私は自殺したんじゃない」
さっきまでの口調とは一変、苛立ったような硬い口調で答えた。
「じゃあなんで」
「言いたくない」
「あっそ」
余計なことに首を突っ込むべきではないと判断した。と言っても、もう遅いかもしれないが。
「でも、君が生き残る方法、ないわけではないよ」
なんだって?
「それを先に言えよ。で。どうすればいいんだ?」
「誰か殺せばいいんだよ」
「……はぁ」
「なに、簡単でしょ?このご時世、死にたがりなんてごろごろ転がってる」
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