第3話

文字数 1,166文字

 最近、秋や冬になっても、気味の悪いほど温い日が続いている。大きな地震でも起こらなければいいが……。
 この暖かさで、竹藪の仙人も喜んでいることだろう。あの不思議な仙人は、ほんとうに不老不死かも知れない。いまや人工知能が発達してゆく世のなかなのに、大昔の幻のような仙人の存在を真逆に発揮させている。
 なんというか、まるで世界や次元が違うから、わけが分からない。文化や文明を超えて存在する仙人は、現代社会の孤独老人ともまったく違う存在だった。
 竹藪の仙人は、まるで現実離れした幽霊のような、見えるひとには見えるという存在だが……けれど、幽霊とは違って実際に元気に生きているのだから凄いものだ。
 そんな仙人も意識しなければ空気のようだが、偶然にゴミを捨てるときなど真横に並ぶと、こちらが意識すれば仙人は人間を反射的に拒否していた。やはり、仙人とは人間とは違った存在なのだろう。
 竹藪の仙人は、いわば無人島でサバイバルをしているような孤独な存在――。
 普段の街で見かけるホームレスとはまったく違った、哲人にも映る存在だが、その摩訶不思議な生命力は、やはり藪のなかの事柄であった。せわしない現代人にとっては、虚構のフィクションめいた存在。やはり、それだから竹藪の仙人なのだろう。

 いつもの散歩道である緑竹の道。その手前にある、桜が咲き誇る並木道でのこと――。
 空模様は曇天。今年の桜の天候は曇ってばかりだ。あの社会不適応な引きこもりではなく出たきりの青年。悪夢を喰らうといわれているバクに似た青年と、やはり浮世離れしている仙人とも今日は擦れ違った。青年の格好は薄汚れていなかったが、どこかしら世間から逸れた感じで、いつものことだが寂しそうに肩を落としてふらふらと歩いてる。桜が満開だというのに、とぼとぼと歩いていた。やはり、声を掛けれない雰囲気なのだ。まあ、一時のホームレスのような恰好ではないので安心だが。
 一方、現代の仙人は、自分の低い背丈ほどの長く捻りのある流木のような棒切れを肩に担ぎ、その棒に荷物をぶら下げて背中に背負っていた。ぼろぼろの着物のようなものを身に纏い仙人然としていた。
 ……というのも、あの仙人は変装癖でもあるのか? 意表を突くように会社員の格好で周りに溶け込んだり、インドの修行僧みたいな黄色い衣に赤い袈裟のような布を纏う派手な格好をしたり、はたまた近所のお爺さんみたいな普通の格好をしたりの、ほんとうに得体の知れない仙人ぶりだった。けっこうな衣装持ちということだろうか。
 今年の春先までの、私が目にした光景からの創作意欲は、すでに純文学として文章に認めている。いったん寝かして温めているのだが……リアルな現実のシュールな時間は、まだまだ終わらず続いているのだから、たいへん妙な具合だった。
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