第4話

文字数 880文字

 曇り空が多い今年の桜道は、散歩しているひとが少なく、この世の者とは思えない連中が、妖怪道中のように往来している。
 このまま自然に目にするままの光景を妄想に膨らませていけば、不思議なことに純文学のくせにライトなシリーズ化が出来るかも知れない。なにやら奇妙な感じなのは、いつものことだ。現代的な純文学なのだから、それもアリなのだろう。
 アリっすか? アリスなんて……。
 このままシュールな国の私は、不思議な、不思議な藪のなか――。
 ねじれた時間時計を持っているウサギを追っていくと、世間から派生した四次元の負のトラップの穴に落ちてしまう。そこは異端な人種たちの住処。地下世界にある異界のアンダーグラウンドでは、連日連夜の乱痴気騒ぎが繰り広げられている。
 探していると、まるまるとしたウサギも隠れていた。そんなウサギなんて誰も気にしないし、そんな理性を失った非常識な世界に誰が興味を持つものか! しいて言えば、緑筠の薮なかに隠された、異端なる純文学を愛する数少ないマニアな読者だけだろう。
 広大な敷地を誇る緑化公園の、真夜中の顔は違った。仙人を志願しても成りきれぬ憐れなゾンビたちが、闇のなかを彷徨い死に場所を求めて徘徊する恐るべし地獄の公園と化している。
 異なる世界の出来事のような、それでいてニュースで流される毎日の事件のような出来事が、目のまえをちらちらと横切る。
 それは、ぜんぜん無関係なのに……無関係じゃない。不祥事を起こした或る有名人に外観や雰囲気が似ているということだけで、先輩や上司から非難をうけて会社を辞めてしまいました。こうなりゃ自棄糞で自分としては、その赤の他人である有名人になりきって、どこまでも広い緑化公園のなかを歩きまわって彷徨って、行き着くところまで逝く……そう、自分の死に場所を探しているんです。そうなんです、夏からずっと歩いています。

 なんで?
 と思うでしょうが……。
 それは他人の空似という、世間にも自分にも、まったく無関係ではない事実。このボクにとっては、とてもとても切実で重大な事柄なのです……。

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