第1話

文字数 1,081文字

 まえまえから、そうなる幻魔のような存在なんだから仕方ない。親の年金をあてに死体遺棄してまでも、なんとか生き延びて暮らしている妖怪のような人間がいる。自分のことすら、この世から空虚な存在になった、歳ばかり重ねた大きな子供たちがいる。それを案じてか、どんどん先走り、あげくのはてに無理心中。勘違いした道連れに、一家惨殺する早とちりな大人たちもいる。
 そんな俗世間に負けてしまうようなら、いっそのこと世間など超越した仙人にでもなればいいのに……。
 などと、私はそんなことを、ふと妄想したりもする。考えてみれば私は、異国の地で暮らしているようなものだ。ここでは誰も自分のことを知らないし、なにをして生活しているのかなんて、誰も興味がないだろう。
 公共の団地のなかに住んで、物価の安い住み慣れた土地に暮らしていることは、優雅とはいえないだろうが……のんびりと近所にある広大な緑化公園を自分の庭のように、共有する人びとたちと使っている。
 たまに異界である竹藪の仙人とも遭遇するが、それも変わり映えのしない風景。断片的に垣間見る、季節にも似合わない寂れた東洋の風景画みたいだった。

 ここは都市を上から見下ろせる、出来たばかりの高層ビルの最上階――。この天井の高い優雅なペントハウスは、毎月の家賃が百万円だ。けっこう見晴らしがいい。ここのルーフテラスの主は、マルチーズとチワワを混ぜた子犬のままの愛犬、テンちゃんのお気に入りの場所でもある。
 さあ~。よく冷えたシャンパンで乾杯してから、搾りたての濁酒を飲んで、鯨のコロとベーコンを肴に、うぶな文学パーティーでも始めようか。この高層ビルの屋上には、ヘリポートと人工の竹藪があって、その竹藪のなかには不死身の現代仙人「現仙」が暮らしているらしい。受けたかい? ちょっとした都市伝説ってとこだろう……。
 これだけの馬鹿でかい公園。広大な敷地を有する緑化公園は日本でも珍しい環境で、そこを住処とする竹藪の仙人は、信じられない八十歳ぐらいの超人だが、ただ単に公園に住み着いたホームレスとは言えない。
 たとえば、逆説的にいえば……無人島で独りで暮らし生活している孤高の縄文人とニュアンスが同じように思える。社会と関係を持たずに、それでも超越して生きて独自に暮らしていたら、ひとは仙人と呼ばれる人間とは違った存在に変身してしまうのか?……。
 私はこの緑化公園にジョギングや筋力トレーニングをしに行くたびに、竹藪の仙人に七割がた遭遇するのだけれど、普段というか普通に考えると、世間一般のひとには見えないのかも知れない。

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