【睦】サンダーロード

文字数 1,231文字

「どうしたんだよ。全然ダメじゃねえか」

若生のひとことで祐太朗はハッとした。

サロメの依頼を受けて六日目の夕方、祐太朗と若生は『サンダーロード』の貸しスタジオにて『リーマンズ・デッド』復活に向けて動き出していた。

 リーマンズはふたりが一〇年ほど前に組んでいたロックバンドで、ブルースベースのシンプルなロックンロールバンドだった。

一時はバンドも順風満帆だったが、和雅が亡くなって以降、祐太朗はバンドを続ける意欲を失い、一方的に解散させた。

当初はメンバーも祐太朗の一方的な解散宣言に不服だったが、メンバーのひとりがすぐさま別のバンドの誘いを受けたことを皮切りに正式に解散することが決まった。

若生はリーマンズ解散に最後まで反対していたメンバーだった。理由は軌道に乗ったバンドを祐太朗の勝手な一存で破壊されるのに抵抗があったため。加えていうと、当時二五歳だった若生には新しいバンドでの再スタートが、精神的に重荷だったことも大きい。

 しかし、中西翔太の母親捜索の一件でかつてお世話になっていたライブハウス『サンダーロード』の店長「水野」の尽力でふたりは再会、リーマンズ再結成へと向け、活動を始めた。

が、当時のベースとドラムは既に音楽を辞め、仕事に結婚に子育てとバンド活動どころではなくなっており断られてしまった。しかし、ふたりとも再結成には乗り気でステージに立つ時は是非応援にいくと声を跳ね上げてくれた。

 ベースとドラム不在の中、祐太朗と若生はメンバー探しとかつての曲の練習や新曲の製作に取り掛かっていた。作詞は以前と同じく祐太朗で作曲は若生。若生がアコースティックギターで根幹となる曲を作って祐太朗の詞と合わせ、ある程度形ができたところで若生が打ち込みでドラムとベースを作り、楽曲を製作していくスタイルだった。

「あぁ……、すまん」

「……今日はもうやめだな」若生は苛立っていた。「このままやっても形にならねえよ。でも、どうしたんだ。調子でも悪いのか?」

「いや、そういうわけじゃなくて」

「じゃあ、どういうわけだ?」祐太朗は答えない。若生は嘆息し、「ま、いえないことのひとつやふたつぐらいあるわな。どっちにしろ、今日はコレまでだ。帰ろう」

 ふたりは使用した機材を元に戻し、スタジオを出た。受付にて店長の水野が撤収の早いふたりを不思議そうに眺め、その理由を訊いた。

「今日はどうも気乗りがしないんですよね」

若生がいった。あくまで祐太朗の事情を伏せるその姿勢は祐太朗のことを庇っているようにも見えた。

「そっか、そういう時もあるよね」水野は疑う様子もなくいう。「まぁ、ゆっくり頑張ってよ。再結成、楽しみにしてるから」

 それから水野はふたりにソフトドリンクをいっぱいずつご馳走した。ふたりはそれを飲み干しサンダーロードを後にした。

飛ぶ鳥後を濁さず。
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登場人物紹介

祐太朗だ。


自己紹介は省略。

詩織です!あたしのことは前のを見てね。


今回は……、前回と比べるととても大人しいかな。


よろしくね!

美沙だよ!


五村城南高校の三年生でしたぁ。今は浮遊霊として楽しくやってます!


んー、今回はちょっと出てる感じかなぁ。ま、そういうのもたまにはいいかな。


じゃ、よろしくね!

五村署の弓永だ。


経歴に関しては伏せとく。他のことは過去の話を参照してほしい。


さて、今回だが、どうやらおれのことで揉めてるんだってな。


まぁ、おれ自身にはそんな関係ないか。


今回もよろしくな、おれはほとんど出ないけどよ(笑)

まぁ、たまにはこういう立場もいいもんね。


時系列的な話をすると……、この時期は我が友人が初デートにいく前なんかな。


まぁ、矛盾があったら申し訳って感じだわな(笑)

ふふ、お久しぶり。


っていってもアナタはわたしのことを知らないかな?    一度だけ姿を見せたことがあるんだよ?


名前?ーーそうだなぁ、とりあえず、『サロメ』とでも呼んでね。


今回は祐太朗くんのこれまでの仕事を査定するよ。でも、外夢市からきたゲストのお陰で色々わたしも大変でね。


外夢市、わたしにとってはちょっと因縁の場所かもしれないな。


ふふ、また会おうね。

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