第40話 NNWM-18

文字数 1,134文字

「頭の中が、とにかく疑問符だらけだ。侵略者の姿を取り込んで力を得たのに、何故この次元の住人の姿に成りたがるんです?」

「私も見たままの情景を口にしただけだ。意味までは、神託の中に含まれていない。それは占いのカードのようにそれを見たものが声に出して表現する……必要が……がぁぁぁぁぁぁぁ」

犀人の両目から火柱が上がり、彼が瞼をきつく閉じると同時に周囲の神官が彼の目を何かルーンが刻まれた包帯で巻き上げる。

「どうやら、話すこともダメだったようだ。それとも、まさか……」

「信託者殿。こちらの“本来の主”はどうされたのだ? エルフの領域ならば、お主のような炎を宿すことを許すはずがないのでは?」

私の代わりに、元神武官が問いかける。

「主は今、あの骸骨兵士の動力となった力の悪い影響を受けてしまって、エルフの次元にいらっしゃる。こちらが結界の内側に籠り、何の反応も返さなければ過激な反応を見せずに話し合いに応じるとおっしゃられていたが……」

「対話ではなく、呪いが来たわけか。地下次元の聖女の御力の影響はまだ受けているのか?」

「いや、君たちが宮殿の周囲に置かれていた偶像たちを破壊してくれたことで影響は無くなった。だが、留まり残っていたお力は、海岸線の街がある方向へと送られたんだと思う」

その言葉に、全員が黙り込んでしまった。

「確か、結界に手を加えて悪質に改編したんですよね? ばら撒けることはできても、残った力をどこかへ送るなんて可能なのか?」

リロドンの修復者が、犀人の側を離れて天井を見上げながら歩き回る。その手にはいつの間にか、小さな小箱が握られていた。

「そうだな……、恐らく主の通路を悪用してるのでは? 聖なる力なのであれば、隔てられることもないのだろう」

「聖なる御力を、まだ必要な理由? 何か大事な事を忘れているような気が?」

そのとき、隼が宮殿の中に入ってきたのに気が付く。鳴き声からして、ギルドが使役している魔法で調教された伝書鳥だ。腕に止めると、右脚部に魔法使いが見た光景を記録する小型スコープが取り付けられている。

スコープに魔力を込めて覗き込むと、どこかの街を守護するように骸骨兵士がまるで壁のように整列していた。恐らくこの都市が、目的地である都市なのだろう。皆にも小型スコープをまわして見せるように促した。

「向こうは、もう臨戦態勢を整えているんだな」

「待ち構えているとわかっていて、正面突破はしたくないな」

「ならば、答えは簡単だ」

元神武官は、天井を指差して見せる。そして、また器用に右の眉だけを上げてみせた。今回は悪戯を思い付いた子供のようにニヤリと笑って見せていた。

「聖なる力の通り道を利用すれば良い」

「何だか、あなたが信念を捨てられた理由が垣間見えた気がしますよ」
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